綺麗な先生は好きですか?

くるむ

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第九章

和田遥花 紫藤視点

いよいよ、今日だ。

夜には嫌な予定が入っているが、その事はなるべく脇に置いて、まずは片付けなければいけないことを優先した。溜まったままになっている洗濯をし、掃除機をかける。
普段は面倒な片付け事も、こういう鬱々とした時にはいい気分転換になるようだ。

洗濯や掃除を済んだところで授業の準備に取り掛かる。集中して取り組んでいたら腹の虫が鳴った。

『先生の体は先生だけのものじゃないんだよ。俺の為にも、健康のこともちゃんと考えてよ』

突如聞こえてきた南の声。ついそれに苦笑して、頭を掻いた。




華の雫、この店に来るのは初めてだ。
飲むつもりは無いので、車で来た。駐車場に車を止めて出てきたら、既に見覚えのある渚の車が止まっている。

もう来てくれてるんだな。スマホを取り出して渚に電話を入れた。

「渚、今着いた。……ああ、頼む。じゃあ、また後で」

キュッと唇を噛んで、俺は店の扉を開けた。

予約している和田の名前を告げると、店の従業員が部屋まで案内してくれた。

「お連れの方は、既にお待ちになっておりますよ」

恐らく海老原からの連絡で、俺がプロポーズをする予定なのだと思っているのだろう。敢えて口にはしないが、頑張って!という雰囲気にあふれている。
俺はそれに笑って応えて、案内された個室へと入った。

海老原の言う通り、確かに部屋に凝っていると言って間違いのない造りだ。ここはどこのカフェだと言った風情で、チョコレート色のふわふわとしたレースのカーテンが可愛らしくあしらわれている。掘りごたつのスタイルだが、テーブルやスタンドは女子らが好きそうな中世ヨーロッパを彷彿とさせるお洒落なものだった。

「待たせてしまったようで、すみません」
「いいのよ。私が少し早く来ちゃっただけだから」

和田は俺を座るように促しながら、目を細めて俺を見る。感慨深げなその瞳は、まるでここに居ない父の面影を探しているようにも見えた。

「……本当に、お父さんにそっくりね。よく言われるでしょう」
「そのようですね」

俺にとって父と外見がそっくりという事には、なんのメリットも無かった。こいつのせいで離婚してからは、母の気持ちをエグるだけの対象だったし。

「親子ね。……淡々としたその感じもそっくりだわ」
「…………」

「失礼します」
ドアが開いて、店員がグラスと日本酒、そしてアスパラとコーンバター、海鮮サラダをテーブルに置いていく。

「追加がありましたら、またお呼び下さい」

そう言った後ぺこりとお辞儀をして、部屋を出て行った。

「さ、まずは乾杯しましょう」

和田がグラスに酒を注いで俺の目の前に突き出す。そして俺に、グラスを持つようにと促した。

「すみません。僕は車で来ていますのでお酒は……」
「居酒屋に来てお酒も飲まずに帰るの? ほら、車は代行に任せればいいから。これ、徳豊のお酒※っていう大吟醸よ。美味しいんだから飲んでみなさいよ」

有無を言わさぬその雰囲気に、仕方なくグラスを手に持ちカチンと和田のグラスと合わせた。

「もしかして、お酒……弱いの?」
「――あまり強くは無いですね」

「そう……。そんな所もお父さん譲りなのね」

そう言った和田の表情は、どこかほくそ笑んでいるようにも見えた。




※そんな名前の大吟醸は多分ありません。
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