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形見を探しに
甘い罰2
すっかり誰もいなくなった裏庭の校舎わきに連れていかれた藤は、朔也に校舎の壁に両手首を掴まれて、押し付けられていた。
いつもの朔也ならもっと優しく掌を握り、"気"を与えてくれるのだが、どうやら今は"気"を与える気も、優しくしてくれる気もなさそうだった。
「何…怒ってるの?」
朔也が本当に何に腹を立てているのか分からない藤は、おどおどと朔也に尋ねる。だがどうやらその一言さえも、朔也の怒りに油を注ぐ結果にしかならなかったようだ。藤を掴むその手にさらに力が入り、藤はあまりの痛さに顔をしかめた。
「あ、あの…。ぼく、ホントに朔也の足手まといになりたいなんて思ってないんだよ…?だから…」
「誰かに何か言われたのか」
「え…?」
強い口調で言われて、藤が戸惑う。天月にしたり顔で言われた事を気にしているだなんて、言いたくないとも思った。
「雄大か? それともあの胡散臭い論門か?」
「朔也…?」
思いもよらない名前が出てきてびっくりする。戸惑う藤に朔也はため息を吐いた。
「参るな…、君には」
朔也は藤を真剣な表情で見つめて言葉を続けた。
「僕は君を邪魔だなんて思ったことなんか一度だってないよ。それどころか君のおかげで、これからも生きていこうと思えているくらいだ。独りにはもうなりたいとは思わないし、保世にいた頃の生き方なんてまっぴらだ」
「さく…や」
自分の瞳をまっすぐ見て話す朔也に、真剣な思いが伝わってくる。やっぱり天月の話は、自分を騙すためだけの嘘だったのだとようやく信じることができた。
「君以外の奴を仲間にしたいだなんて思わないし、それでも独り立ちしたいって言うのなら、…僕にも考えがあるぞ」
厳しい口調だが、少し傷ついたような表情の朔也に、藤の気持ちが揺さぶられる。変に熱いものが込み上げてきて、視界が滲んだ。
「ご、ごめんなさい…」
言葉にした途端、唇が震え、涙がじわじわと溢れ出てきた。藤は涙を見られるのが恥ずかしくて、とっさに顔を下に向ける。
そんな藤の態度に、朔也の怒りもどうやら徐々に収まって来たらしい。藤を掴んでいた手を放して、代わりに藤の顎を掴んで上向かせた。
「みんなが藤を可愛いと騒ぐわけが、分かる気がするな」
そう言いながら顔を近づけてくる朔也にびっくりする。この態勢はまるで、キスをするみたいだ。
いくら無邪気でガキだとはいえ、藤だってその行為が特別で、ただ仲がいいからという理由だけでするものではないということくらいは分かっている。
「さ、朔也…っ。ま、待って…っ。あ、あの…っ」
焦って止めに入る藤に、眉を顰めながらもうっすらと閉じかけていた眼をパチリとと開けて、朔也は不機嫌な顔をする。
「僕を怒らせた罰だ」
「で、でも…」
冗談ではなさそうな朔也の顔。しかも普段の朔也の、兄のような親のような雰囲気とは違い、なんだか雄の匂いを感じて藤は戸惑っていた。
ドキドキと煩くなる心臓。しかも顔も熱くなってきている。
(な、なんで…!?)
「さ、さく…」
「煩いな。ごちゃごちゃと気が削がれる。黙ってじっとして」
(だって、だってそんな…っ)
近づいてくる朔也の顔に、思わず目をギュッと瞑る。抗うことも出来ずに固まる藤の唇に、優しく触れる朔也の唇。
柔らかい感触の後、何度も啄まれて、藤の心臓は激しく波打っていた。
どのくらいの時間が経ったのかは分からなかった。もしかしたら一分もない出来事だったかもしれないし、その何倍もの時間だったかもしれない。
震える藤の唇から、朔也の唇がそっと離れていく気配に、藤が恐る恐る目を開ける。
そこには、いつもの普段見慣れた朔也がいて、藤の事をじっと見つめていた。
「…初めてだな。たまにはこういう罰も…良いな」
揶揄うように朔也にニヤリと笑われて、藤は真っ赤になった。その藤の表情を見て、嬉しそうに朔也が笑う。
そんな朔也に藤は複雑な気持ちだった。
(どうせ朔也は僕なんかよりずっと大人だから、こういう事にも慣れてるんだろ!)
心の中で吐いた自分の悪態に、自分自身を落ち込ませてしまう藤だった。
「藤」
優しい声で朔也に呼ばれて顔を上げる。
「もう、二度と僕から離れなきゃいけないかもとか、考えるんじゃないぞ」
「朔也…。うん…」
いつもよりも低く優しい声で朔也に言われて、藤の涙腺がまたおかしくなってくる。それに気づいた朔也が笑いながら藤を引き寄せる。
「バッカだなあ。変な心配しないでいいから」
何度も何度も宥めるように背中を擦られて、藤もようやく本来の甘えた性格が顔を出し始める。そのままぎゅうっと抱き着いて、朔也の肩口に頬を擦り付ける。
「おなか空いた…」
藤の一言に、朔也の目が見開く。
「君って奴は…っ」
呆れながらもおかしくて、朔也は笑いながら藤に"気"を与えた。
――雨降って地固まる、はずだったのだが、一通の手紙がまた新たな問題を引き連れて来る。
いつもの朔也ならもっと優しく掌を握り、"気"を与えてくれるのだが、どうやら今は"気"を与える気も、優しくしてくれる気もなさそうだった。
「何…怒ってるの?」
朔也が本当に何に腹を立てているのか分からない藤は、おどおどと朔也に尋ねる。だがどうやらその一言さえも、朔也の怒りに油を注ぐ結果にしかならなかったようだ。藤を掴むその手にさらに力が入り、藤はあまりの痛さに顔をしかめた。
「あ、あの…。ぼく、ホントに朔也の足手まといになりたいなんて思ってないんだよ…?だから…」
「誰かに何か言われたのか」
「え…?」
強い口調で言われて、藤が戸惑う。天月にしたり顔で言われた事を気にしているだなんて、言いたくないとも思った。
「雄大か? それともあの胡散臭い論門か?」
「朔也…?」
思いもよらない名前が出てきてびっくりする。戸惑う藤に朔也はため息を吐いた。
「参るな…、君には」
朔也は藤を真剣な表情で見つめて言葉を続けた。
「僕は君を邪魔だなんて思ったことなんか一度だってないよ。それどころか君のおかげで、これからも生きていこうと思えているくらいだ。独りにはもうなりたいとは思わないし、保世にいた頃の生き方なんてまっぴらだ」
「さく…や」
自分の瞳をまっすぐ見て話す朔也に、真剣な思いが伝わってくる。やっぱり天月の話は、自分を騙すためだけの嘘だったのだとようやく信じることができた。
「君以外の奴を仲間にしたいだなんて思わないし、それでも独り立ちしたいって言うのなら、…僕にも考えがあるぞ」
厳しい口調だが、少し傷ついたような表情の朔也に、藤の気持ちが揺さぶられる。変に熱いものが込み上げてきて、視界が滲んだ。
「ご、ごめんなさい…」
言葉にした途端、唇が震え、涙がじわじわと溢れ出てきた。藤は涙を見られるのが恥ずかしくて、とっさに顔を下に向ける。
そんな藤の態度に、朔也の怒りもどうやら徐々に収まって来たらしい。藤を掴んでいた手を放して、代わりに藤の顎を掴んで上向かせた。
「みんなが藤を可愛いと騒ぐわけが、分かる気がするな」
そう言いながら顔を近づけてくる朔也にびっくりする。この態勢はまるで、キスをするみたいだ。
いくら無邪気でガキだとはいえ、藤だってその行為が特別で、ただ仲がいいからという理由だけでするものではないということくらいは分かっている。
「さ、朔也…っ。ま、待って…っ。あ、あの…っ」
焦って止めに入る藤に、眉を顰めながらもうっすらと閉じかけていた眼をパチリとと開けて、朔也は不機嫌な顔をする。
「僕を怒らせた罰だ」
「で、でも…」
冗談ではなさそうな朔也の顔。しかも普段の朔也の、兄のような親のような雰囲気とは違い、なんだか雄の匂いを感じて藤は戸惑っていた。
ドキドキと煩くなる心臓。しかも顔も熱くなってきている。
(な、なんで…!?)
「さ、さく…」
「煩いな。ごちゃごちゃと気が削がれる。黙ってじっとして」
(だって、だってそんな…っ)
近づいてくる朔也の顔に、思わず目をギュッと瞑る。抗うことも出来ずに固まる藤の唇に、優しく触れる朔也の唇。
柔らかい感触の後、何度も啄まれて、藤の心臓は激しく波打っていた。
どのくらいの時間が経ったのかは分からなかった。もしかしたら一分もない出来事だったかもしれないし、その何倍もの時間だったかもしれない。
震える藤の唇から、朔也の唇がそっと離れていく気配に、藤が恐る恐る目を開ける。
そこには、いつもの普段見慣れた朔也がいて、藤の事をじっと見つめていた。
「…初めてだな。たまにはこういう罰も…良いな」
揶揄うように朔也にニヤリと笑われて、藤は真っ赤になった。その藤の表情を見て、嬉しそうに朔也が笑う。
そんな朔也に藤は複雑な気持ちだった。
(どうせ朔也は僕なんかよりずっと大人だから、こういう事にも慣れてるんだろ!)
心の中で吐いた自分の悪態に、自分自身を落ち込ませてしまう藤だった。
「藤」
優しい声で朔也に呼ばれて顔を上げる。
「もう、二度と僕から離れなきゃいけないかもとか、考えるんじゃないぞ」
「朔也…。うん…」
いつもよりも低く優しい声で朔也に言われて、藤の涙腺がまたおかしくなってくる。それに気づいた朔也が笑いながら藤を引き寄せる。
「バッカだなあ。変な心配しないでいいから」
何度も何度も宥めるように背中を擦られて、藤もようやく本来の甘えた性格が顔を出し始める。そのままぎゅうっと抱き着いて、朔也の肩口に頬を擦り付ける。
「おなか空いた…」
藤の一言に、朔也の目が見開く。
「君って奴は…っ」
呆れながらもおかしくて、朔也は笑いながら藤に"気"を与えた。
――雨降って地固まる、はずだったのだが、一通の手紙がまた新たな問題を引き連れて来る。
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