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第一章
事情聴取
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聖騎士団の執務室や隊舎は王城の敷地内に併設されていて、上官クラス以外は隊舎で寝起きし有事に備えている。
宰相の執務室が入っている別棟までは歩いて大体十分くらいだ。
「宰相はウイルフレッド団長を高く評価されていましたから、今回のイアン討伐での失敗に心底落胆なさってましたよ」
「そうか……。それは期待に沿えなくて申し訳なかった」
「どうせまた、陛下の命令を無視して生け捕りにしようとでも思ったのでしょう」
「――無視したつもりはないのだがな」
「では、どうして毎回毎回、」
「いくら罪人でも、事情聴取もせずいきなり殺すのはどうかと思うだけだ」
「確かにあなたは、そういう方でしたね」
話をしながら歩いていたら、通称黄金の棟に着いた。建物自体が本当に黄金に光り輝いているわけではなく、正確に言うとごく薄いレモンイエローといった感じの色合いだが、ここには宰相並びに大臣と言ったそうそうたる人物の執務室が入っているので、建物の色に引っ掛けていつの間にかそういう風に呼ばれるようになっていた。
おそらく揶揄しているのだろうと思うのだが、本当のところがどうなのか私にはわからない。
階段を上がって二階の端に宰相、パピルス公爵の執務室がある。
「宰相、ウイルフレッド団長をお連れしました」
「入れ」
「失礼します」
室内に入ると、宰相は席から立つことなく手招きをした。デスクの前に立つと、なんとも言い難い冷たい笑みを浮かべた。
「君は、我が国が誇る優秀な聖騎士団団長だと思っていたのだが違ったかね?」
「イアンを取り逃したことを言われているのでしたら、きっと違っていたのでしょう」
自分の信念を曲げる気はないので動揺せずにそう言い返すと、室内の張り詰めた空気は一層ピリピリとひどいものになった。私の視界ギリギリに入るジミーの表情もこわばっている。
「その時がどういう状況だったのか説明してくれますね?」
「はい。イアンがグルモイの三番街で暴れていると情報が入って駆けつけましたところ、イアンの怒りは頂点に達していて、私の説得も聞く耳を持たない状態でした。なのでおとなしくさせるためにも、こちらからも攻撃を仕掛け、立つことができない状態にさせたところを捕縛しようと思っていたのです」
「失敗したのか?」
その表情には、君がか?といったような訝しさが入っている。
「――はい、油断しました。大怪我を負わせたので難なく捕まえられると思ったところ、まんまと逃げられました。彼の必死さの方が勝ったのだと思います。……本当に失敗しました」
「失敗したと思うのなら今度から生け捕りにできないと思ったときはさっさと仕留めるんだな」
「そういうわけには参りません。罪人にも裁判を受ける権利があります」
「イアンにはその価値すらないと陛下がおっしゃっているんだ。君は陛下を軽んじているのか?」
「とんでもございません。陛下がこの国を思い民を案じ、政策を施しているのは重々承知しております。ですが黒髪黒い瞳を忌み子と決めつけるのはいきすぎではないかと思っているだけです」
「君は前々からそう主張し続けているな」
「はい。罪を犯せば罰せられなければならないとは思っていますが、そこに至るまでの経緯は考えてしかるべきでしょう」
「もういい。君と話していても埒が明かない。陛下には、この後の結果がどうあれ、君が油断して任務に失敗したと報告しておくぞ」
「――はい」
ほんの少しだけ悔しそうな顔をして見せた。やり過ぎは、わざとらしくなる。
「イアンの捜索も怠るな。死体を見つけたら持ってこい」
「かしこまりました。――失礼します」
一礼して部屋を出て奥歯をぎりっと噛んだ。
イアンを、陛下らの思い通りになんて絶対にさせない。私が必ず守り切ってみせる。
宰相の執務室が入っている別棟までは歩いて大体十分くらいだ。
「宰相はウイルフレッド団長を高く評価されていましたから、今回のイアン討伐での失敗に心底落胆なさってましたよ」
「そうか……。それは期待に沿えなくて申し訳なかった」
「どうせまた、陛下の命令を無視して生け捕りにしようとでも思ったのでしょう」
「――無視したつもりはないのだがな」
「では、どうして毎回毎回、」
「いくら罪人でも、事情聴取もせずいきなり殺すのはどうかと思うだけだ」
「確かにあなたは、そういう方でしたね」
話をしながら歩いていたら、通称黄金の棟に着いた。建物自体が本当に黄金に光り輝いているわけではなく、正確に言うとごく薄いレモンイエローといった感じの色合いだが、ここには宰相並びに大臣と言ったそうそうたる人物の執務室が入っているので、建物の色に引っ掛けていつの間にかそういう風に呼ばれるようになっていた。
おそらく揶揄しているのだろうと思うのだが、本当のところがどうなのか私にはわからない。
階段を上がって二階の端に宰相、パピルス公爵の執務室がある。
「宰相、ウイルフレッド団長をお連れしました」
「入れ」
「失礼します」
室内に入ると、宰相は席から立つことなく手招きをした。デスクの前に立つと、なんとも言い難い冷たい笑みを浮かべた。
「君は、我が国が誇る優秀な聖騎士団団長だと思っていたのだが違ったかね?」
「イアンを取り逃したことを言われているのでしたら、きっと違っていたのでしょう」
自分の信念を曲げる気はないので動揺せずにそう言い返すと、室内の張り詰めた空気は一層ピリピリとひどいものになった。私の視界ギリギリに入るジミーの表情もこわばっている。
「その時がどういう状況だったのか説明してくれますね?」
「はい。イアンがグルモイの三番街で暴れていると情報が入って駆けつけましたところ、イアンの怒りは頂点に達していて、私の説得も聞く耳を持たない状態でした。なのでおとなしくさせるためにも、こちらからも攻撃を仕掛け、立つことができない状態にさせたところを捕縛しようと思っていたのです」
「失敗したのか?」
その表情には、君がか?といったような訝しさが入っている。
「――はい、油断しました。大怪我を負わせたので難なく捕まえられると思ったところ、まんまと逃げられました。彼の必死さの方が勝ったのだと思います。……本当に失敗しました」
「失敗したと思うのなら今度から生け捕りにできないと思ったときはさっさと仕留めるんだな」
「そういうわけには参りません。罪人にも裁判を受ける権利があります」
「イアンにはその価値すらないと陛下がおっしゃっているんだ。君は陛下を軽んじているのか?」
「とんでもございません。陛下がこの国を思い民を案じ、政策を施しているのは重々承知しております。ですが黒髪黒い瞳を忌み子と決めつけるのはいきすぎではないかと思っているだけです」
「君は前々からそう主張し続けているな」
「はい。罪を犯せば罰せられなければならないとは思っていますが、そこに至るまでの経緯は考えてしかるべきでしょう」
「もういい。君と話していても埒が明かない。陛下には、この後の結果がどうあれ、君が油断して任務に失敗したと報告しておくぞ」
「――はい」
ほんの少しだけ悔しそうな顔をして見せた。やり過ぎは、わざとらしくなる。
「イアンの捜索も怠るな。死体を見つけたら持ってこい」
「かしこまりました。――失礼します」
一礼して部屋を出て奥歯をぎりっと噛んだ。
イアンを、陛下らの思い通りになんて絶対にさせない。私が必ず守り切ってみせる。
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