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第三章
王太子からの、
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プリンたちを厩舎に預け第一聖騎士団室に向かっていると、カールがすごい勢いでこちらに走ってきた。
「ウィルフレッド団長!」
声音もそうだが表情も切羽詰まっている感じだ。
「どうした、緊急事態か?」
「はい! 王太子殿下がお待ちです」
「王太子殿下が?」
「お約束されていたのですか?」
王太子と聞いたシューマが焦り始めた。私も予想外のことに焦って、早歩きになった。 3人ともすごいスピードで歩きながら会話を進める。
「まさか。そうだったらもっと急いだぞ」
「あっ、そう……ですよね。失礼しました」
「だが急ごう。あまり待たせるのは良くない」
「はい」
こつこつこつこつと忙しない3人分の足音が廊下に響く。すれ違う者たちが驚いたように振り返っていくのが視界の端に映った。
「ただいま戻りました」
私の声に王太子殿下はカップを持ったまま振り返った。
だいぶ待たせてしまっていたのかもしれない。殿下の背後に立っているフォード殿が、ほっと息をついた。
「お待たせしてしまったようで申し訳ありません」
「いや、私の方こそ思い立ってきたものだから、気にしないでくれ」
殿下が私にもソファーに座るように勧めたので、目の前を失礼した。
「何か私に急用でしたでしょうか? あ、もしかして孤児院への慰問の日程が決まりましたか?」
「いや、それは聖女のパレードが終わってから調整しようと思っている。今日来たのは、イアンのことでだ」
部屋の空気が一瞬で緊張に包まれた。王太子殿下もそれに気づいたようだった。表情が変わる。
「申し訳ございません、殿下。決して任務を怠っているわけではないのですが、本当にくまなく探したのですが見つけられないのです」
「そうなのか? 怠っているのではなく、本当にくまなく探したのだろうな?」
王太子の表情は真剣そのものだった。私はしっかりその目を見返して「はい」と返事をした。
王太子は小さく息を吐き「やれやれ」とつぶやいた。
「――ところで、今この部屋に居る者たちは口は堅い方かな?」
「はい、もちろんです。部屋にも防音魔法をかけていますので、たとえ外で誰かが聞き耳を立てていたとしても、この会話が外に漏れることはありません」
「そうか。では今から話すことは他言無用だ。もしもこの話が他に漏れた場合は、その者に処罰を与える。秘密を守る自信のないものは今すぐこの部屋を出て行ってくれ」
普段の穏やかな雰囲気を薙ぎ払い、王家の威厳を前面に出した王太子の様子に、皆、息を呑んだが席を立つ者はいなかった。まあ当然だ。聖騎士団の仕事上、口の軽い者はその任にそぐわない。
「君たちは、王家の影というものの存在を知っているか?」
王太子の言葉にみんながざわめく。そして口々に、僕たちは聞いたことないですけど……と言った。
「噂だけなら聞いたことはあります。だけど他人に聞かれてまずそうなそんな噂話を、みんな好んでしませんから……本当に存在するのかとか、詳しいことは知りません」
「そうか。まあ、そうだろうな。――結論からいうと、いる。それを管理しているのは陛下だけだがな」
「……え? ということは、殿下ですら、その影が何をしているのか分からないということですか?」
「そういうことだ。……だが昨夜、偶然陛下が影に指示を出しているところを聞いてしまったんだ」
「え……? ということは、まさか」
「イアンの生け捕り、それが出来なければ殺せと命じていた」
思わず息を呑んだ。指先がみるみる冷たくなっていく。
「影は陛下の命令に忠実で、どんな汚れ仕事も確実にこなそうと動く部隊だ。私が何を言いたいか、君ならわかるだろう?」
「影に見つかる前に、イアンを保護しろとおっしゃるのでしょうか?」
「そうだ。――君は、王家の忌み子政策に反対の立場なのだろう?」
「はい。犯罪を犯した者が罰を受けるのに異論はありません。ですが、髪や目の色が黒いというそれだけの理由で虐げられる謂われはないと思います」
「私も同じ意見だ。だから影よりも早くイアンを見つけて、私に報告してほしい。のんびりしている時間はないんだ」
「畏まりました」
お任せくださいと、恭しく頭を下げた。
王太子が肩の力を抜いたのがわかった。表情を緩めてすっと立ち上がる。
「忙しいところ、急に立ち寄って悪かったな」
「いいえ、こちらこそ、お話くださってありがとうございました」
王太子はそれに笑顔で答えた後、フォード殿と部屋を出て行った。
「ウィルフレッド団長!」
声音もそうだが表情も切羽詰まっている感じだ。
「どうした、緊急事態か?」
「はい! 王太子殿下がお待ちです」
「王太子殿下が?」
「お約束されていたのですか?」
王太子と聞いたシューマが焦り始めた。私も予想外のことに焦って、早歩きになった。 3人ともすごいスピードで歩きながら会話を進める。
「まさか。そうだったらもっと急いだぞ」
「あっ、そう……ですよね。失礼しました」
「だが急ごう。あまり待たせるのは良くない」
「はい」
こつこつこつこつと忙しない3人分の足音が廊下に響く。すれ違う者たちが驚いたように振り返っていくのが視界の端に映った。
「ただいま戻りました」
私の声に王太子殿下はカップを持ったまま振り返った。
だいぶ待たせてしまっていたのかもしれない。殿下の背後に立っているフォード殿が、ほっと息をついた。
「お待たせしてしまったようで申し訳ありません」
「いや、私の方こそ思い立ってきたものだから、気にしないでくれ」
殿下が私にもソファーに座るように勧めたので、目の前を失礼した。
「何か私に急用でしたでしょうか? あ、もしかして孤児院への慰問の日程が決まりましたか?」
「いや、それは聖女のパレードが終わってから調整しようと思っている。今日来たのは、イアンのことでだ」
部屋の空気が一瞬で緊張に包まれた。王太子殿下もそれに気づいたようだった。表情が変わる。
「申し訳ございません、殿下。決して任務を怠っているわけではないのですが、本当にくまなく探したのですが見つけられないのです」
「そうなのか? 怠っているのではなく、本当にくまなく探したのだろうな?」
王太子の表情は真剣そのものだった。私はしっかりその目を見返して「はい」と返事をした。
王太子は小さく息を吐き「やれやれ」とつぶやいた。
「――ところで、今この部屋に居る者たちは口は堅い方かな?」
「はい、もちろんです。部屋にも防音魔法をかけていますので、たとえ外で誰かが聞き耳を立てていたとしても、この会話が外に漏れることはありません」
「そうか。では今から話すことは他言無用だ。もしもこの話が他に漏れた場合は、その者に処罰を与える。秘密を守る自信のないものは今すぐこの部屋を出て行ってくれ」
普段の穏やかな雰囲気を薙ぎ払い、王家の威厳を前面に出した王太子の様子に、皆、息を呑んだが席を立つ者はいなかった。まあ当然だ。聖騎士団の仕事上、口の軽い者はその任にそぐわない。
「君たちは、王家の影というものの存在を知っているか?」
王太子の言葉にみんながざわめく。そして口々に、僕たちは聞いたことないですけど……と言った。
「噂だけなら聞いたことはあります。だけど他人に聞かれてまずそうなそんな噂話を、みんな好んでしませんから……本当に存在するのかとか、詳しいことは知りません」
「そうか。まあ、そうだろうな。――結論からいうと、いる。それを管理しているのは陛下だけだがな」
「……え? ということは、殿下ですら、その影が何をしているのか分からないということですか?」
「そういうことだ。……だが昨夜、偶然陛下が影に指示を出しているところを聞いてしまったんだ」
「え……? ということは、まさか」
「イアンの生け捕り、それが出来なければ殺せと命じていた」
思わず息を呑んだ。指先がみるみる冷たくなっていく。
「影は陛下の命令に忠実で、どんな汚れ仕事も確実にこなそうと動く部隊だ。私が何を言いたいか、君ならわかるだろう?」
「影に見つかる前に、イアンを保護しろとおっしゃるのでしょうか?」
「そうだ。――君は、王家の忌み子政策に反対の立場なのだろう?」
「はい。犯罪を犯した者が罰を受けるのに異論はありません。ですが、髪や目の色が黒いというそれだけの理由で虐げられる謂われはないと思います」
「私も同じ意見だ。だから影よりも早くイアンを見つけて、私に報告してほしい。のんびりしている時間はないんだ」
「畏まりました」
お任せくださいと、恭しく頭を下げた。
王太子が肩の力を抜いたのがわかった。表情を緩めてすっと立ち上がる。
「忙しいところ、急に立ち寄って悪かったな」
「いいえ、こちらこそ、お話くださってありがとうございました」
王太子はそれに笑顔で答えた後、フォード殿と部屋を出て行った。
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