幼児化した闇魔術士は聖騎士に溺愛される

くるむ

文字の大きさ
51 / 59
第三章

王太子からの、

しおりを挟む
 プリンたちを厩舎に預け第一聖騎士団室に向かっていると、カールがすごい勢いでこちらに走ってきた。

「ウィルフレッド団長!」
 声音もそうだが表情も切羽詰まっている感じだ。

「どうした、緊急事態か?」
「はい! 王太子殿下がお待ちです」
「王太子殿下が?」
「お約束されていたのですか?」
 王太子と聞いたシューマが焦り始めた。私も予想外のことに焦って、早歩きになった。 3人ともすごいスピードで歩きながら会話を進める。

「まさか。そうだったらもっと急いだぞ」
「あっ、そう……ですよね。失礼しました」
「だが急ごう。あまり待たせるのは良くない」
「はい」
 
 こつこつこつこつと忙しない3人分の足音が廊下に響く。すれ違う者たちが驚いたように振り返っていくのが視界の端に映った。

「ただいま戻りました」

 私の声に王太子殿下はカップを持ったまま振り返った。
 だいぶ待たせてしまっていたのかもしれない。殿下の背後に立っているフォード殿が、ほっと息をついた。

「お待たせしてしまったようで申し訳ありません」
「いや、私の方こそ思い立ってきたものだから、気にしないでくれ」
 殿下が私にもソファーに座るように勧めたので、目の前を失礼した。

「何か私に急用でしたでしょうか? あ、もしかして孤児院への慰問の日程が決まりましたか?」
「いや、それは聖女のパレードが終わってから調整しようと思っている。今日来たのは、イアンのことでだ」

 部屋の空気が一瞬で緊張に包まれた。王太子殿下もそれに気づいたようだった。表情が変わる。

「申し訳ございません、殿下。決して任務を怠っているわけではないのですが、本当にくまなく探したのですが見つけられないのです」
「そうなのか? 怠っているのではなく、本当にくまなく探したのだろうな?」

 王太子の表情は真剣そのものだった。私はしっかりその目を見返して「はい」と返事をした。

 王太子は小さく息を吐き「やれやれ」とつぶやいた。

「――ところで、今この部屋に居る者たちは口は堅い方かな?」

「はい、もちろんです。部屋にも防音魔法をかけていますので、たとえ外で誰かが聞き耳を立てていたとしても、この会話が外に漏れることはありません」

「そうか。では今から話すことは他言無用だ。もしもこの話が他に漏れた場合は、その者に処罰を与える。秘密を守る自信のないものは今すぐこの部屋を出て行ってくれ」

 普段の穏やかな雰囲気を薙ぎ払い、王家の威厳を前面に出した王太子の様子に、皆、息を呑んだが席を立つ者はいなかった。まあ当然だ。聖騎士団の仕事上、口の軽い者はその任にそぐわない。

「君たちは、王家の影というものの存在を知っているか?」
 王太子の言葉にみんながざわめく。そして口々に、僕たちは聞いたことないですけど……と言った。

「噂だけなら聞いたことはあります。だけど他人に聞かれてまずそうなそんな噂話を、みんな好んでしませんから……本当に存在するのかとか、詳しいことは知りません」

「そうか。まあ、そうだろうな。――結論からいうと、いる。それを管理しているのは陛下だけだがな」
「……え? ということは、殿下ですら、その影が何をしているのか分からないということですか?」
「そういうことだ。……だが昨夜、偶然陛下が影に指示を出しているところを聞いてしまったんだ」
「え……? ということは、まさか」
「イアンの生け捕り、それが出来なければ殺せと命じていた」
 思わず息を呑んだ。指先がみるみる冷たくなっていく。

「影は陛下の命令に忠実で、どんな汚れ仕事も確実にこなそうと動く部隊だ。私が何を言いたいか、君ならわかるだろう?」
「影に見つかる前に、イアンを保護しろとおっしゃるのでしょうか?」
「そうだ。――君は、王家の忌み子政策に反対の立場なのだろう?」
「はい。犯罪を犯した者が罰を受けるのに異論はありません。ですが、髪や目の色が黒いというそれだけの理由で虐げられる謂われはないと思います」

「私も同じ意見だ。だから影よりも早くイアンを見つけて、私に報告してほしい。のんびりしている時間はないんだ」

「畏まりました」
 お任せくださいと、恭しく頭を下げた。
 王太子が肩の力を抜いたのがわかった。表情を緩めてすっと立ち上がる。

「忙しいところ、急に立ち寄って悪かったな」
「いいえ、こちらこそ、お話くださってありがとうございました」

 王太子はそれに笑顔で答えた後、フォード殿と部屋を出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

姉の忘れ形見を育てたいだけなのに、公爵閣下の執着が重いんですが!?~まっすぐ突き進み系令嬢の公爵家再建計画

及川えり
ファンタジー
突然届いた双子の姉からの手紙。 【これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。わたしのことは探さないでね。双子を引き取ってもらえないかしら?】 姉の遺言通り双子を育てようと姉の嫁ぎ先へと突入する。 双子を顧みなかったという元夫のウィルバート公爵に何とか双子を引き取れるよう掛け合うが、話の流れからそのまま公爵家に滞在して双子を育てる羽目に。 だが、この公爵家、何かおかしい? 異常に気付いたハンナは公爵家に巣くう膿をとりのぞくべく、奮闘しはじめる。 一方ハンナを最初は適当にあしらっていたウィルバートだったが、ハンナの魅力に気付き始め……。 ハンナ・キャロライン・バーディナ 22歳      バーディナ伯爵家令嬢         ✖️ ウィルバート・アドルファス・キングスフォード 26歳      キングスフォード公爵 ブックマーク登録、いいね❤️たくさんいただきありがとうございます。 感想もいただけたら嬉しいです。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

公爵家の伝統だと思っていたら、冷徹公爵様の溺愛でした

星乃和花
恋愛
(毎日21:30更新ー全8話) 家族にも周囲にもあまり顧みられず、 「私のことなんて、誰もそんなに気にしない」 と思って生きてきたリリアナ。 ある事情から、冷徹と噂されるヴァレントワ公爵家で働くことになった彼女は、 当主エドガーの細やかな気づかいに驚かされる。 温かいお茶、手袋、外出時のエスコート。 好みの食事までさりげなく用意されて―― けれど自己評価の低いリリアナは、それらすべてを 「これが公爵家の伝統……!」 「さすが名門のお作法……!」 と盛大に勘違い。 一方の冷徹公爵様は、そんな彼女にだけ少しずつ甘さをこぼし始めて……? これは、 “この家の作法”だと思っていたら、 どうやら冷徹公爵様の溺愛だったらしい やさしくて甘い勘違いラブコメです。

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

処理中です...