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018-025 正義の戦いとはズレがある

020 俺は有名人じゃない

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 春うらら。桜みたいな花が舞う場所で、俺は力いっぱい鉄杭を打っている。花見酒で歌や楽器が聞こえるのとほとんど似たようなもので、男の掛け声とりきむ声、時々激しい罵倒もアクセントになった。

 村の中腹にて家を建てる。異世界の工事現場は筋肉と汗で動く。電気とか機械とかは一切使わない。使えば良いのに。でも俺には発言権が無いからな。

「おい転生者! ちんたらすんな! もう次の工程が詰まってんだ!」

「はい! すんません!」

「まだ杭打ち終わってねえのか!」

「すんません! すぐ終わらせます!」

 村人から信頼を得たと高を括った時代もあったかもな。しかし実態はそう甘いものじゃなかったわけさ。

 休憩時間に麦の茶を飲んでいたら、向こうの牧園に牛を歩かせるエエマーが見える。

「おーい! エエマー!」

 俺は気さくに手を振り声をかけたつもりだ。だがアイツは相変わらず俺の顔を見るなり極端に怯え、牛を追い越して逃げていく。俺はナッハッハと笑いながら麦の茶を飲んだ。

 そこへ「こっちだ。こっちにいる」と監督の声が近かった。見ると監督が兵士を連れてきていた。先頭はカタクナで、俺を見るなり眉間にシワを寄せている。

「どうしたその顔。誰にやられた?」

 相手方一行は、まさか敵の襲撃かと緊張感が走らせていたようだけど、俺の方はヘラヘラと笑っている。

 土木に汚れた顔を水でばしゃばしゃ洗い、いつまでも熱を持つ顔を上げた。鏡に映った男は真紫まむらさきの顔面だ。一体どんだけ殴られたらそうなるのか。計り知れない。そして思い出したくない……。

「何があった?」

「いやだから思い出したくないんだって」

 神秘的な夜に甘い口付けの流れ。あの後めっちゃ嫌がられて張り倒されたなんて男が言えるかよ。

 俺の具合が悪そうと見えたのか、カタクナは早めに「まあいい」とした。

「実はお前に会いたがっている人を連れてきた。うちとは別の部署だが、オオキーイ王国の特待偵察チーム。それとその隊長だ」

 特待偵察……なんか凄そうな。村で大活躍する俺のウワサを聞き付けてやって来たのか。君の実力を買いたい! 的なやつか。そうなら俺も偉くなったもんだと喜びそうになるが。

「……チームって言ったか?」

 期待とは裏腹に、俺は疑問だった。カタクナが紹介した人物は合計三人。肝心の隊長と副隊長は不在らしかった。

 チームメイトさんらは、それぞれ大きな剣や弓とかを担いでいる。そこは別に疑わない。本物の戦士なんだと俺も思うよ? 少人数なんだね、とは気落ちさせてもらうけど。

 そいつらにとって俺との対面は大して喜んでいそうじゃない。むしろ三人が「どうする?」って互いに顔を見合わせている感じだ。

 本当にコイツら俺に会いたかったか? 俺には謎が残る。
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