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056-061 モンスターハウスでモテている

060 俺はラスボスに勝てない

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 ユーミンか。プイプイか。そんなの悩まなくても決まっている。男を女に変えるマジシャンは、弓使いじゃなくて魔法使いだろ。

 城内を走り回ってから中庭に出てきた。ケンシの剣を見た場所とは違う。本当にダンジョンみたいに難解な城だ。引き返そうにも道順が分からない。

 しかし幸運が付いているようだ。俺はこの庭でプイプイの後ろ姿を見つけた。だったら他の例に合わせて体当たりで突進だ!!

「ストップ・モーメン」

 その掛け声と同時に俺の体が停止する。ヒールでつまずいた訳でもないのに体がつんのめった感覚だ。だが地面に打ち付けてはいない。

 動かない手足に足掻いていると、プイプイがこっちを振り返っていたらしい。

「すみません。後ろからただならぬ殺気を感じたので、咄嗟に魔法を使ってしまいました」

 そこまでは丁寧に謝って来たのだが、プイプイは俺と目を合わせると「ああ!」と驚くも嬉しそうな声を出す。

「なんだ、転生者殿か。これはこれは随分綺麗になってしまって。いやぁ気付かなかった」

 照れくさそうに頭を掻いている。対して俺は「動けー! 動けー!」と、関節に訴えかけるのに必死で、話を聞かなかった。

 しばらくプイプイの見せ物になり、結局俺は止まったまんまだ。このままで話がされる。

「俺がこんな姿になったのはお前のせいだろ。いったい何の呪いをかけたんだ」

「呪い? それは面白い考え方だ」

 ワッハッハと笑われるが、こちらは何にも面白くない。

「転生者殿とまた再会出来るよう、大事なものを預かっておいただけだ」

 その呪いは、俺を洞窟から助けた時にかけたと言う。手を引いてくれた瞬間に預かったと言う。

「ちゃんと効果はあったようだね。こうして会いに来てくれたわけだし」

「軽々言うな! それは俺の生きる次に大事なものなんだぞ!」

「そりゃ分かるさ。こっちだって同じ男なんだから。もっとも転生者殿には、大きな効果をもたらす方法だと思ったけど。こんなに上手くいくとは……」

 何を爽やかに笑ってくれている。一刻も早く返せと吠えるが、そう簡単に俺の言う通りには動いてくれないらしい。

 笑うのをやめてもなお、プイプイは優しい表情のままでいる。なので彼が悪役であると気付くのが遅れたんだ。

「君には僕の手伝いをしてもらう」

「手伝い!? 俺はお前らの陰謀には手を貸したくない。むしろ止めに来たんだぞ」

 プイプイは「分かってるよ」と言った。隊長ほどの王子様感はなく、ケンシほどの勇ましさもない。優しさだけが魅力のこの男は、停止魔法により動けない俺の側に来る。

 そして耳打ちした。

「お行儀が悪い娘さんだ」

 嫌な予感だった。しかし動けんので逃れられない。男として大事なものを預かられ、それから女の俺のファーストキスをも奪われてしまうとは……。
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