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062-065 リトルデーモンと王者の冠

062 俺は微塵も怖くない

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 全身に秋の風を受けて歩く。門の警備員は俺の美貌に惚れており、引き止めるどころか笑顔で手を振られた。せっかく潜入した要塞の城が、どうしてか後ろへ遠ざかっていく。

「おい! どこに行くんだ! 隊長は中にいるんだぞ!? フィーカもそこにいるんだが!?」

 そうわめいている俺には、プイプイがハハハと笑っていた。その後は理由や行き先を告げてくれるよりも、俺がフィーカの名を出したことに「懐かしい」とのことを口にしていた。

「知り合いだったのか?」一応訪ねてみる。

「少しな。復活剤と即死タブレットの副反応実験に付き合わされたことがある」

 実証済みとか言ったあれか……。それはそれは災難だったな。俺はプイプイに同情するぞ。けれども彼はそう病んでない。

「彼女の機転は素晴らしいよ。あんな複雑に魔法薬を操れるのは彼女しかいない。君がどうやって脱獄を図ったのか謎だったけど、フィーカが仲間だったなら納得できる」

 随分と信頼を寄せているようだ。それについては面白くないな、と俺は思った。

 城がまるっきり姿を消した後も、俺は色々と喚き散らしながら歩いた。広大な麦畑を抜けて、林道を通り、そして到着する。しかしそれはプイプイが「この辺りだ」と言うから到着となるのである。

 着いた場所とは、木々に侵食された廃墟の町。人が暮らした面影も無いガラクタ溜まりだった。

 こんな場所に何の用があって立ち入るのか。俺には死体を埋める以外のものが思い付かない。早くも震えが止まらない。

「不気味な町だろう? リトルデーモンの住処すみかだ。人が退去してから住み着いた。夜にはヘイトの姿もよく現れる」

「ヘイトが?」

 ルリアと同じ種族がここに暮らしているのか。

 明るいの下を歩いていると思っていたのだが、この町へ踏み入れた途端に雲がかげりだすようだ。

 太陽は薄雲に覆われ、足元にも霧のようなものが這っている。全体的にもモヤがかかって薄灰色。場所によっては濃霧となり、数メートル先が見えなくなった。怪しさの演出が相当な腕を鳴らせているな……。

「怖い……」

「その上、危険でもある」

 ゆっくりと歩くと、どちらかが木片を踏んだらしい。その音がどこまでも反響し、妖怪の呻き声のように聞こえた。

 隣からプイプイの咳払いを聞く。俺は手を繋ぐどころか腕まで絡めていたのを「ごめん」と言って離した。

「ケンシとユーミンが先に来ているはずなんだが。もう神殿の前まで到達したのかな」

 その独り言を聞いて、俺も横路地や瓦礫の裏などに人がいないか注意を巡らせた。

 人の姿などは見えない。もちろん影もだ。しかし何かがいる気配だけは十分感じられる。視界の端々はしばしで時折、黒い何かがサッと動くことがある。
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