上 下
66 / 100
066-067 俺のヒロインが可愛くなってる

066 俺は逃げ出せない

しおりを挟む
 明朝の出発に備えて、今夜は洞窟より安全な場所で野宿だ。俺は手際の良い戦士トリオにもてなされつつ「おやすみなさい」と先に就寝についた。

 それから何時間かおそらく経ち、同じテントではユーミンの寝息が聞こえている。

 俺はむくりと起き出して、そっと同室者を見た。別に寝込みを襲おうなんては考えない。腹を出して寝ているからシーツをかけてやる。

 テントから外に出たら月の無い真っ暗な夜であると気付いた。焚き火は少しだけ炭に赤色が残っているが、灯りにもだんにもなりはしない。

 ケンシとプイプイは別のテントで眠っている。離れたら窒息させる手綱もほどいてくれたが、果たして俺を自由にして良いのだろうか……。

「これが。王者の冠」

 誰もいない闇夜で、俺は空間収納魔法より取り出す。赤と緑の宝石をはめた王冠。こんな暗さでは自慢の輝きを披露することは出来ないみたいだ。

 光らずとも価値の分からん俺にはそもそも効果が無い。被ってみれば世界は広がるかもしれないが……それはまだやめておこう。

 それよりも。隊長たちはこんなヤバい冠を手に入れて、どうする気なんだという恐怖が立つ。まさか正義が度を越して本物の悪になろうって事なのか。だとするならば俺が止めるべきなんだろうか。考えを巡らせ俺はひとりで腕を組んだ。

 それと、発覚してしまった女神バウンティのことも忘れてはいけない。女神はその冠を欲しがっている。ならば俺は間違いなく、女神のために冠を取り上げることに必死になるだろう。

 つまり俺がかすめ取って天に献上すれば、どちらも解決するっていう話だ。俺の使命は達成されるし、この世界の悪も生ませない。

 かくしてその品が今、俺に持たされていると。小ぶりな割に妙に重さのある。これがな……。

「ぶ、物騒な冠だなー。ひとりで持つのは不安だなー」

 俺はそれなりに張った声で独り言を漏らし、細部まで装飾を眺めたりし、輪っかから覗いて星空を見たりもした。

 そして苛立ちを隠せずに「何を安心して寝ているんだ」と言って、テントを振り返っていた。

 戦士トリオの誰も起きて来やしない。今ここで俺を引き止める時間を与えてやったんだぞ。

 このままトンズラするというのがベストアンサーなのか。誰か教えてくれ。

 するとその時、近くの茂みが不自然にガサガサと鳴る。俺はその方へ警戒した。それが応戦サインと見えたのか、オオカミの群れが現れた。

 黒背景に黒毛の獣。牙と目だけが白色なので、こちらに敵意を向けていることだけは分かる。しかし状況も数も俺には不利すぎる。
しおりを挟む

処理中です...