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087-090 ヘイトの実態を知る……

087 俺は王子のキスで目覚めない

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 生ぬるい風が俺の顔に当てられている。しかもなんか酒臭いな。と、思って目を開けたんだ。そこには地獄への入り口が迫っていた。

「うおおおいいっ!!!?」

 元気に動く体で真横へ回転。次いで飛び起きた。その衝撃で俺は腕を強打した。

「痛ってええ……」

「いでええ!!」

 俺と、おっさんが痛がった。俺は腕だが、おっさんの方は鼻を殴られたってジタバタしてる。

 それより俺は生きていた。目を覚ました場所は知った居酒屋で、窓の外は雪がしんしんと降っていた。ここは異世界で間違いない。俺は異世界に戻ってきたのか。だとすると、太陽神の事が気がかりなんだが……。

「眠り姫のお目覚めだな~」
「まさにディスティニーゆえだ」
「おじ様のキッスが成功したずらか?」

 俺の周りの状況を後回しに出来そうにない。俺を取り囲む顔は、全ておっさんだった。

「増えてんじゃねぇか!!」

 俺は吠える。しかしこれは「誰だよ!!」の間違いである。

 ちゃんと会話を聞いていれば、それぞれキャラが違うと分かった。でも見た目は全員おっさん妖精クリソツなので、増殖したのかと見間違えたんだ。

「おい転生者! 急に動くと危なねぇだろうがよぉ!」

 鼻を強打したおっさんは怒っていた。こいつは俺の唇を奪おうとしてきた変態だ。本人もふざけていたとは言うが果たして……。

 やめよう。もうそのことは忘れる。

「本物のおっさんはどれだ?」

 俺が大衆に聞くことで、おっさんらはザワザワした。顔を見合わせてはヘラヘラ笑っている。

「本物だってぇ」
「ワシら全員おっさんだでよぉ」
「これもディスティニーなのか」
「オッサンズの結成か!」
「おおー!」と、拍手と歓声が沸いた。

「……」

 勝手に盛り上がるな。オッサンズを結成するな。あと、ひとりディスティニー使い回してる奴。浮いてんぞ。

「おーい転生者。おいらの事かい?」

 のらりくらりと、ひとりが手を上げている。そいつは間違いなくおっさんだった。いや、他の奴らもおっさんなんだけど本物のおっさんで……。

「ややこしいな、もう……。誰なんだこいつら」

 おっさんが答える。

「ヨーパラのメンバーよ!」

 それで全員いそいそと立ち上がると、スムーズに列を作った。総勢六人。前後に別れて二列だ。格好が決まったらお決まりの挨拶がされる。

「君のハートが酔う! 僕の魅力のせい! YO-Say! paradise☆ で~す!!」

 いえーい、というわけ。

「酔う」と「せい」は「YO-Say!」と掛けてあるんだぜ。

 ってな。

 居酒屋はおっさんらの貸し切りだったし、店の人はヨーパラの元ファンだったから許される空気感。

 知らない同窓会で、何を見させられてんだよ、俺は。
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