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091-095 今度こそ終わらせよう

092 俺に慈悲の心はない

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 太陽神がいる手前、俺から「おかしいな」とは言えない。だが言わなくても、こうして俺の考えることは常に神には筒抜けだ。たとえ無言で洞窟をひた歩いていたとしても、神の方から「何がおかしい?」と、聞かれた。

 洞窟は虫の巣穴のように無数の横道が空いている。俺が来た時は、それを右左へ交互に進むことで辿り着いたはずだった。

 そろそろ国の明かりが見え出すと思っていた。しかしいつまで経っても暗いままなのである。

「ちょっと明かりを灯してくれ。道を間違ったのかもしれない」

「ええ? 簡単に言わないでくれよ。薄明かりは扱いにくいんだ」

 強大な力を有する太陽神は、その力を抑えて使うのが難しいと?

「神のくせに使えないな」

 よく聞こえるように溜め息もついてやる。それが太陽神の何かに触れたらしく、嫌々だが明かりを作り出してくれた。

 足元に転がる松明台に気付ける。だとしたら道は間違っていないと思う。俺が居ない間に奇襲にでもったか?

 少し立ち止まり、特待偵察チームの足跡が残っているかと見回した。俺には特に何も見つけられない。色々気付ける太陽神も「魔法の痕跡などはない」 と言っている。

 信じて進むしかない。もしもヘイト民族が殲滅せんめつされていたら、俺たちの手間が省けるってもんだ。可能なら手柄を横取りしよう。

「転生者よ、ヘイトを根絶やしにした後はどうするんだ?」

「頭蓋骨を吊して見世物にする」

「む、むごいな……」

「冗談だ。そんなことして人間が感謝してくれるかよ」

 乾いた笑いもない。俺の足音が冷たく響くだけ。……けど。いくらヒロインが既婚者で子持ちだったとしても、俺にだって一般人のじょうくらいは持っている。

 うらみ晴らしにここまでやらなくても良いことは、分かっているんだよ。頭では。

 と言っても、他の最良策も浮かんでこないし、やっぱり悪はほろぼした方がいい。「なあ、神様?」と仰いでみる。そちらは情が無く、やる気満々だ。俺は応援するためにレイゼドールの名を口にした。

「本意じゃないけど、レイゼドールは上手くやったと思う。どんな汚名で信頼をそこねても、愛の女神とゴールインとなれば、目出度めでたいニュースに成り代わった。レイゼドールは英雄神として存命。むしろ少し株を上げたかもな」

 たまに芸能人でも似たようなことが起きる。俺は真相まで調べたりしないけど。

 同志の活躍に唸る太陽神レグネグド。この神はの下の出来事を全て把握してある。レイゼドールの件には結構な嫉妬心を抱いているらしい。なんかこの神は、エゴサとか一生やってそうだよな……。

「大物気取りしてるから置いていかれるんだ。もっと突飛な事をしろ。人の役に立て。地味にポップ調の讃美歌なんか作るな」

 立派な神を叱っていると、開けた場所に出た。ここはあの時と同じ小高い丘。太陽神の力で朝方のように照らされる国である。

 だが、街灯や焚き火台に火が点っていない。ヘイト民族の姿も無い。ガランとした街が明るいと、まるで映画のセットに踏み入れたかのような感覚におちいってしまうな。
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