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第五章

ユキの村へ行こう

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 ウィルたちは、魔王城からの帰り道にユキのいる村に寄り道する事にした。

 ユキとは、かつてウィルら(ほぼエルネ)がドラゴン退治をした時の生贄だった人間である。

 アポなしの状態で突然訪れても、文句を言われるということはないだろう。

「あ! 皆さんお久しぶりなのです!」

「久しぶり、ユキちゃん」

 ウィルの想定通り、ユキは嫌な顔一つせずに迎えてくれた。
 ユキは飲食の仕事を営んでいるため、今日もせっせと働いている。

 傍から見ると、とても忙しそうな様子だ。

「急にどうしたのですか? ウィルさん以外は歓迎させていただきますけど」

「おいおい! いつの間に俺は出禁になったんだ!?」

「じゃあ先に入っておきますね、マイマスター。頑張って許可取ってください」

「ちょっと待て! 何で出禁なのが当たり前みたいな扱いなんだよ!」

 ユキは、ウィルの前に立って大きなバツを作る。
 確かに嫌な顔はしていなかったが、普通に嫌がられているのかもしれない。

 なーんて――と、ユキはクロスさせた腕を解いた。

「嘘なのですよ、ウィルさん。命の恩人である貴方たちを、ボクが追い返すわけがないのです」

「そ、そうか……やはりそうだと思ってたよ」

「本気で焦っとったじゃろ、ご主人様」

「ウィルお兄ちゃんおもしろーい!」

 ウィルが一安心した所に、また後ろからの攻撃。
 チクチクとしたダメージだ。
 誰が敵で誰が味方なのかもう分からない。

「アハハ、ウィルさんはからかいがいがあるのです」

「そりゃどうも……」

「折角来ていただけたんですから、勿論歓迎はさせてもらうのですよ。ボクのお店に来てほしいのです」

「早く行こーよ! ウィルお兄ちゃん!」


「……一応言っておくけど、俺の皿に変なものを仕込むなよ……?」

「……ちっ、なのです」

「お、おい! 今舌打ちが聞こえたぞ!?」

 微かな不安を抱きながらも、ウィルたちはユキの店へと向かった。


*********


「やはり人間というのは、料理に関してならトップクラスじゃのお」

「ユキちゃんの作ったやつおいしー! 塩加減が絶妙すぎる!」

「同じ人間でも、マイマスターとの差はなんなのでしょうね」

「やっぱりセンスだろうな」

「自分で言うでないわ」

 ユキの店で出された料理には、皆が満足していた。
 心配されていたウィル用の料理だったが、当然変なことはされておらず、丹精込めて作られた物が届けられる。

 腐ってもプロということだろう。
 ウィルも素直に負けを認めるほどの味がそこにあった。


「どうですか……? 皆さん」

「すごい美味しいよ。これなら負けても悔いはないね」

「なにを勝とうとしとるのじゃ」


「少しゆっくり出来るようになったので、座ってもよろしいですか?」

 全員がうんと頷くと、ユキはぺこりと一礼して席に座る。

「実は探してほしい人がいるのです」

 唐突に。
 何の前触れもなくそれは語り出された。
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