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第十一章

殺気

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「お、アンリ姫奪還成功。犠牲者もほぼゼロ――らしいぞ、ご主人様」

「魔物たちは何故かほとんどが逃げ出したらしいですね。魔物を倒した人間も分かっていないらしいですよ、マイマスター」

「いや、だってアンリ姫の名前を出したら皆が飛んでいっちゃったから……」

 ウィルたちは、何枚も配られている新聞を読んでいた。
 本来なら、この新聞に救世主としてウィルたちの名前が乗るはずであったが、その夢は叶わずに終わる。

 誰も目撃者がいないのに加えて、関係者の人間が全てアンリ姫の確認に行ってしまったため、報告が出来ずに終わってしまったのだ。

「私たちが倒したという証拠を持っていないのが厳しいですね。今更言っても、手柄を横取りしようとする者にしか見えないでしょうし」

「リリは別にいいと思うけどねー。お姫様も無事だったんだし、ウィルお兄ちゃんらしいし」

「でも、リリ。もしマイマスターがちゃんと報告していれば、アメが一生困らないほど貰えたんですよ?」

「ウィルお兄ちゃん! 今すぐにでも報告してきて!」

 リリは、ウィルの膝をポカポカと叩く。
 アメに埋もれる自分を想像したのだろう。
 生まれて初めてともいえる後悔を味わっていた。

「結局【トップ・ロブ・ファイト】も中止になっちゃったしなぁ……この数日は大変だったよ……」

「そういえば、ネフィルが召喚されたのも最近ですね。普通に馴染んでいるので、ついつい忘れていました」

「この部屋も自由に使ってるしな」

 ウィルは、疲れ果てた体を擦りながら自分のベッドを見る。
 そこには、体を丸めるようにして眠っているネフィルの姿があった。

 ネフィルにも専用のベッドを用意したのだが、それが使われるのは半分ほどだ。
 それ以外では、ソファーやウィルのベッドなど、様々な場所で寝ることになる。

 ネフィルが暇な時は基本的に寝ているため、どこで寝始めても疑問を抱くようなことはない。

 すっかり見慣れた光景だ。

「……んにゃ?」

「あぁ、起こしちゃったか?」

「……問題にゃい。そろそろ起きようと思っていたところ」

 ムクリとネフィルは起き上がった。
 小さくまとまって寝ていたが、ウィルと並んで立つとネフィルのスタイルの良さが際立つ。

「……で、何の話だった? 飼い主様」

「えっと……ネフィルが馴染めて良かったな――って」

「……多分飼い主様のおかげ」

「そ、そうだ! ネフィルには迷惑かけたのに何もしてあげてなかったな! 何か欲しいものとか無いか? 結婚以外で」

「……子ども?」

 約三人の殺気が、ウィルを背後から貫いた。

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