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第49話:風の護り、村の新たな秩序と王女の微笑み
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シルヴィアによる「妻会」宣言の後、アキオの周囲は嵐のような数日だった。キナは第二夫人という立場に有頂天でアキオに纏わりつき、レオノーラは第四夫人という称号にどこか誇らしげな様子を見せ始め、セレスティーナは穏やかな微笑みをたたえつつも、その瞳の奥には新たな決意が宿っているようだった。
そして、肝心のアヤネは――あの日、茫然自失と固まってしまった後、堰を切ったように泣き出し、シルヴィアに慰められて自室にこもってしまった。アキオは何度も声をかけようとしたが、「今はそっとしておいてあげて」というシルヴィアの言葉に、ただ見守るしかなかった。彼女が何を思い、何に涙したのか、アキオにはまだ計り知れない。
そんなアキオの個人的な混乱をよそに、村では奇妙な現象が起きていた。「妻会」という言葉がどこからか広まり、集落の至る所で、女性たちが集まって何やら話し合う姿が見受けられるようになったのだ。きっかけは諸説あった。アキオが(シルヴィアによってではあるが)ついに身を固め、複数の妻を迎えるという話が刺激になったのか、あるいは先日、酒の席で羽目を外した男たちが女性陣にあっけなく鎮圧された一件が、女性たちの団結を促したのか。ともかく、この流れは村の独身男性たちをも巻き込み、彼らはどこか落ち着かない様子で、女性たちの動向を窺うようになっていた。
ある日、アキオがシルヴィアにそのことを尋ねると、彼女は静かに、しかし重い口調で語り始めた。
「アキオ、この周辺地域は、度重なる帝国との戦で、男手の多くが戦場に駆り出され、そのほとんどが帰らぬ人となったわ。結果として、生き残った者の男女比は著しくいびつなの。私たちが保護してきた避難民の大人たちも、女性が大多数でしょう? だから…この世界、特に戦乱の爪痕が深い土地では、一夫多妻という形を取らなければ、共同体の維持も、次の世代を育むことも難しいのよ」
それは、アキオの知らない、この世界の厳しい現実だった。彼の身に起きたことは、彼が特別だからというだけでなく、この地の必然が生み出した一つの形なのかもしれない。
数日後、アキオは意を決してセレスティーナに声をかけた。彼女は、村の子供たちに文字を教え終えたところだった。
「セレスティーナ殿…先日の件だが、俺は、貴女を妻に迎えることで、貴女の命をさらに危険に晒すことになるのではないかと…」
アキオの懸念に対し、セレスティーナはふわりと微笑んだ。その笑顔は、以前のどこか儚げなものとは違い、芯の強さと、そして確かに幸福の色を宿していた。
「アキオ様。あなたは、追われる身の私とレオノーラを命懸けで保護し、こうして安住の地を与えてくださいました。そして今、私を妻の一人として迎え入れると…そのご決断が、どれほどの覚悟を伴うものか、私にも理解できます。私の立場を考えれば、確かに危険は増すやもしれません。ですが、それ以上に、この村で、あなたのそばで生きるという希望は、何物にも代えがたいものですわ」
彼女は続ける。「この土地は、不思議と心が安らぎます。まるで、良い風が、常に私たちを守ってくれているように…」
その言葉に、アキオはシルヴィアから聞いたもう一つの話を思い出した。この谷に吹く風は常に一定の方向へ流れており、村の生活臭や煙、そして温泉の硫黄の匂いまでもが、帝国の支配地域とは逆の方向へと運ばれるのだという。源泉がこれまで誰にも気づかれなかったのも、この「風の護り」のおかげかもしれないと。
(王女様を妻にするということの重圧…だが、彼女がこれほど幸せそうに笑うのなら…俺も、覚悟を決めねばならないんだろうな)
アキオは、セレスティーナの穏やかな笑顔に、自らの果たすべき責任の大きさを改めて感じていた。
村では、女性たちが主導する新しい家族の形が、静かに、しかし確実に形成されつつあった。それは、この厳しい世界で生き抜くための、彼女たちの知恵であり、強さの表れなのかもしれない。
アキオは、空を見上げる。今日も、村を守るように優しい風が吹いていた。その風は、やがてアヤネの心のわだかまりも、優しく解きほぐしてくれるだろうか。アキオは、まだ答えの出ない問いを胸に、村の未来を見据えるのだった。
そして、肝心のアヤネは――あの日、茫然自失と固まってしまった後、堰を切ったように泣き出し、シルヴィアに慰められて自室にこもってしまった。アキオは何度も声をかけようとしたが、「今はそっとしておいてあげて」というシルヴィアの言葉に、ただ見守るしかなかった。彼女が何を思い、何に涙したのか、アキオにはまだ計り知れない。
そんなアキオの個人的な混乱をよそに、村では奇妙な現象が起きていた。「妻会」という言葉がどこからか広まり、集落の至る所で、女性たちが集まって何やら話し合う姿が見受けられるようになったのだ。きっかけは諸説あった。アキオが(シルヴィアによってではあるが)ついに身を固め、複数の妻を迎えるという話が刺激になったのか、あるいは先日、酒の席で羽目を外した男たちが女性陣にあっけなく鎮圧された一件が、女性たちの団結を促したのか。ともかく、この流れは村の独身男性たちをも巻き込み、彼らはどこか落ち着かない様子で、女性たちの動向を窺うようになっていた。
ある日、アキオがシルヴィアにそのことを尋ねると、彼女は静かに、しかし重い口調で語り始めた。
「アキオ、この周辺地域は、度重なる帝国との戦で、男手の多くが戦場に駆り出され、そのほとんどが帰らぬ人となったわ。結果として、生き残った者の男女比は著しくいびつなの。私たちが保護してきた避難民の大人たちも、女性が大多数でしょう? だから…この世界、特に戦乱の爪痕が深い土地では、一夫多妻という形を取らなければ、共同体の維持も、次の世代を育むことも難しいのよ」
それは、アキオの知らない、この世界の厳しい現実だった。彼の身に起きたことは、彼が特別だからというだけでなく、この地の必然が生み出した一つの形なのかもしれない。
数日後、アキオは意を決してセレスティーナに声をかけた。彼女は、村の子供たちに文字を教え終えたところだった。
「セレスティーナ殿…先日の件だが、俺は、貴女を妻に迎えることで、貴女の命をさらに危険に晒すことになるのではないかと…」
アキオの懸念に対し、セレスティーナはふわりと微笑んだ。その笑顔は、以前のどこか儚げなものとは違い、芯の強さと、そして確かに幸福の色を宿していた。
「アキオ様。あなたは、追われる身の私とレオノーラを命懸けで保護し、こうして安住の地を与えてくださいました。そして今、私を妻の一人として迎え入れると…そのご決断が、どれほどの覚悟を伴うものか、私にも理解できます。私の立場を考えれば、確かに危険は増すやもしれません。ですが、それ以上に、この村で、あなたのそばで生きるという希望は、何物にも代えがたいものですわ」
彼女は続ける。「この土地は、不思議と心が安らぎます。まるで、良い風が、常に私たちを守ってくれているように…」
その言葉に、アキオはシルヴィアから聞いたもう一つの話を思い出した。この谷に吹く風は常に一定の方向へ流れており、村の生活臭や煙、そして温泉の硫黄の匂いまでもが、帝国の支配地域とは逆の方向へと運ばれるのだという。源泉がこれまで誰にも気づかれなかったのも、この「風の護り」のおかげかもしれないと。
(王女様を妻にするということの重圧…だが、彼女がこれほど幸せそうに笑うのなら…俺も、覚悟を決めねばならないんだろうな)
アキオは、セレスティーナの穏やかな笑顔に、自らの果たすべき責任の大きさを改めて感じていた。
村では、女性たちが主導する新しい家族の形が、静かに、しかし確実に形成されつつあった。それは、この厳しい世界で生き抜くための、彼女たちの知恵であり、強さの表れなのかもしれない。
アキオは、空を見上げる。今日も、村を守るように優しい風が吹いていた。その風は、やがてアヤネの心のわだかまりも、優しく解きほぐしてくれるだろうか。アキオは、まだ答えの出ない問いを胸に、村の未来を見据えるのだった。
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