VSingerS【バーチャルシンガーズ】~俺は歌姫【ゴリラ】の敏腕マネージャー〜

黄昏湖畔

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第四章_過去を悟る少女、未来に謡うVシンガー

第十八話_宇美勝と中島……

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 九月一日。スターヌーン事務所にて。
 薄井はカタカタとキーボードを叩きながら、宇美と談笑していた。

「どうですか?今回のグッズは?」
「完璧……と言いたいところだが少しばかり心残りがあってな」
「ほぅ、心残りですか?」
「あぁ……実はな」

 宇美は薄井の正面にいる三日月に話を聞かれない様に耳元に顔を寄せる。

三日月ババァにまたダメ出しされてな」
「ははぁ……そんな事言ってると、また出禁喰らいますよ」
「でもな!今回はちゃんと笑美さんから許可取ったんだ!」
「宇美さん、声が大きいですよ」
「…………」

 怒りでエキサイトする宇美を薄井が何とかなだめようとする。
 無言でこちらを睨みつける三日月が怖い。

「でもよ!笑美さんは言ったんだ!TKBを隠せば何でもOKだってな」

 憤りながら宇美がスマホを薄井に突き付ける。
 そこにはTKBを絆創膏で隠した音喜天音のおっ〇いマウスパッドの画像。

「普通にアウトだよ!馬鹿!」

 呆れた変態うみに薄井が全力でツッコミ。
 こんなに声を張り上げたのは久しぶりだろう。
 だが暴走した存在悪うみは止まらない。

「だってよ!褐色ロリ巨乳ネコミミ獣人だぜ!これはもう脱がせって言ってるようなもんだろう!」
「言ってねぇよ!つか見せたのか⁉これを!笑美さんに!」
「あぁ!それでOK貰った!」
「止めろよ!ばかぁあああああああ!」

 狭い事務所を薄井の絶叫が支配する。
 最近、美空チェックに引っかかってなかったから、多少は塩梅も分かってきたはずだと思っていたのに……
 薄井がガックリと肩を落としていると。

「宇美さん、出禁決定。今後の予定は全部キャンセル。次の依頼は……」
「ちょっ、待って!美空さん!三日月様!許してください。何でもしますから!」

 冷淡で抑揚のない三日月の呟きに、宇美が全力で土下座。
 平坦な声色だから逆に怖い。
 薄井も心の中で震え上がった。

「そう言えば宇美さん。中島明海ってイラストレーターさんご存じですか?」

 話の流れを変えるべくネタ振り。
 当然これに宇美が全力で喰いつく。

「勿論知ってるぜ。なんせアマチュアだった俺を鍛えてくれた師匠だからな」

 宇美が自分のように誇らしげに語る。
 あの優しげな老人に鍛えられて、なんでこんな変態が誕生するのか。
 首を傾げずにはいられない。

「なるほど……社長ありがとうございます。前もって宇美さんを切った後の依頼先を用意して頂いて」
「えっ?美空さん?冗談キツイですよ?」
「私、冗談嫌いなんです」
「冗談って言ってよぉおおおおお!」

 キレッキレのブラックジョークに宇美が涙目で絶叫。
 これには薄井も苦笑い。

「話を戻しましょう。ねぇ、宇美さん」
「あぁ、師匠についてだな」

 宇美が助け船に縋りつく。
 これ以上三日月に責められるのはごめん被りたいのだろう。
 だったら最初から余計な事言わなければいいのに、と思わなくもない。

「師匠はこの道四十年の大御所で、クールな絵を描かせたら世界でも十指に入るってくらい凄腕だ。あの人は人間が根源的にカッコいいと思うスタイルを守りつつ、時代に合わせた形で流動的に絵を変化させる。俺もああいう芯を持ちつつ、柔軟性もある部分は見習っていきたいと常々思っているね」
「なるほど、宇美さんにしてはまともな意見ですね」
「美空さん。しては……は余計だからね」
「ははぁ……」

 真面目に話せばすぐにこれ。
 薄井の口から乾いた笑いが漏れる。
 まぁ、普段の三日月に対する素行が悪いのが原因だし、そこは大人しく受け入れて下さいとしか言えない。

「立派な方なんですね」
「あぁ、特にあの人の教えで心に響いたのは、人間素直になれって言葉かな。あの人はカッコイイを追求するのに素直だし、俺は自分に正直にエロを追求している」
「ヒドイ曲解ですね。その言葉聞いたら、きっとお嘆きになりますよ」
「ははぁ、何気に薄井君もキツイねぇ」

 思えば、宇美ともこうしてドギツイジョークを言い合う関係になった。
 一年間で結ばれた絆とはなんとも感慨深い。

「では中島悟という名前はご存じですか?」
「……おい、薄井君。その名前どこで聞いた?」

 問いかけた途端、宇美の目つきが険しくなった。
 先ほどまで感じていた感慨深さは何処へやら。
 薄井は背筋にうすら寒いモノを感じた。

「Liedが最初に投稿した曲の作者が同じ中島だったからもしかしたらと思いまして」
「薄井君……そういうデリケートな話題にあんまり首を突っ込むモノじゃないぜ」

 宇美の怒気が薄井の身体を震え上がらせた。
 これほど怒りを露わにした彼を薄井は知らない。

「知りたいなら本人に直接聞いてみな。詩織ちゃんとは顔見知りなんだろ」

 宇美は吐き捨てる様に呟いた後、ノロノロと出口へと歩を進める。

「悪りぃ。ちょっと帰って頭冷やすわ」

 陰鬱そうに吐き捨てる彼の言葉はどこまでも重々しかった。
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