有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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過去との対話_有栖_7

有栖_7-6

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 そうだ、『私』は『自分』という存在を、これまで生きてきたことを否定したくなかったのだ。
 『私』はこれまで『女』であるが故の疑問や不安や屈辱を受け、抗うように生きてきた。そんな『私』が今、ここで死んでしまえば後に残された『私』の死は『女』だから被害に合い、『女』だから耐えきれなかった、と他の誰かに思われるだろう。そんなことは耐えられない。
 そして、『私』の人生はまるでそれが全てだったかのように人々に思われてたまるものか。

 死を選ぶことは『自分』の否定だ。
 そして、他人へ『自分』の人生をどのように思われも良いと受諾することだ。

 これまでの努力も、生きてきて嬉しかったことも、全て否定しまうのは最後は誰かではなく『自分』だ。あとのことはどのように思えわれても良い――そんなわけがない。
 今、その全てに死というトドメを刺してしまえるのは他の誰もなく『自分』なのだ。

「殺すのは『有栖陽菜』じゃない」

 ゆるりと立ち上がった。洗面台へとふらつきながら歩き、鏡で憔悴した顔を睨む。
 そうだ、殺すのは『有栖陽菜』ではない。
 殺すのは――

「『私』だ!」

 拳に可能な限りの力をこめて握り、鏡に映った『自分』の顔を殴る。
 鏡は割れ、拳からは血がしたたり落ちた。痛みは生きていることを確かに教えてくれた。

 ここで殺すのは『私』だ。
 他の誰かに『女』の『私』が弱いと思われているならば、それを塗り替えなくてはならない。
 他の誰かに『女』の『私』が弱いと侮辱されるならば晴らさなければならない。
 それを繰り返し続ける――弱い『女』である『私』を知っているのが自分自身だけになる日まで。

 そして、『自分』は生き続けて、弱かった『女』である『私』を殺し続けなければならない。

 それは生きる理由に充分に該当した。
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