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第二章 あいまいみー

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「おい、待てよ」

 あのスパーリングが終わってから、一週間後。
 ジム帰りに、声をかけられた。相手はあの佐藤。時間は一ヶ月で数回しかない、俺が二十時前まで残っている日を狙ったんだろう。
 いや、本当に扱いやすい奴だ。

「あれ? 佐藤さん?」

 笑ってしまいそうなのを我慢して、必死で演技をしてみせる。

「ちょっと来いよ」

 そう言われて、俺は素直についていく。今から起こることを充分に理解と、期待をして。

 数分歩いてつれて来られたのは小さな公園だった。電灯は少なくて薄暗く、遊具は滑り台と滑り終えたところに小さな砂場が広がっているぐらいだ。なかなか魅力がない公園だ。
 そんな公園に俺と佐藤の他に二人の男がいた。片方はキャップを、もう片方はパーカーのフードを目深く被っていて顔は見えない。それに加えて、二人とも金属バット持っている。これはいよいよ期待が高まってきた。
 その二人にある程度近づいたところで、佐藤がこちらを振り向いた。

「よぉ、こんなとこまでノコノコ来てくれてありがとよ。何で呼ばれたか解るか?」

 随分と楽しそうに佐藤は話す。後ろの男達もニヤニヤと笑っていた。

「お前に恥をかかされて以来、俺はジムで馬鹿にされて散々だ。今日はそのお礼をさせて貰おうと思ってな」

 周囲の状況を確認している俺が恐怖で無口になっていると判断したのか佐藤は勝手に話続ける。
 佐藤の言うことは確かだった。あのスパーリング以来、佐藤は周囲から馬鹿にされたり、からかわれたり。一方で俺はトレーナー達からちやほやされている。同情はするが、負けたのだから仕方がない。能力に関しては自分でも卑怯だとは思うけど。
 それでも、どんな状況であれ負ける可能性はあったわけで、その時のリスクについて考えることを怠ったのは自己責任だ。

「というわけで、選手生命ぐらいで許してやるよ」

 そう言って、佐藤はポケットからバタフライナイフを取り出して、カシャンという音と共に刃を見せた。

「……あはは」

 さて、そろそろ笑うのも堪えきれなくて、我慢しないことにした。

「な、なんだ。気でも狂ったか?」
「いや、そうじゃない。本当に佐藤さん、お前最高だよ。俺の期待にちゃんと応えてくれるんだから」
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