有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』

第四章：デスペラードをよろしく

天使_4-1

「さて、こちらは貴女から拝借させていただきましたワクチンこと『デスペラード』が入ったデバイスですが……」

　天使はそれを『レシエントメンテ』が入ったパソコンへと差し込んだ。

「ここまではユースティティアのみなさんが成し遂げたかったことと同じでしょう。私の方でも調べましたから。ここで『デスペラード』を実行すれば、『レシエントメンテ』で改ざんされたデータは復元され、また、『レシエントメンテ』自体も削除されます」

　語りながら、天使は双方が恐ろしい技術で成り立っていることを改めて感じていた。
　関連データを全て思いのままに改ざんしてしまう『レシエントメンテ』とそれを復旧してしまう『デスペラード』。おそらく、前者は改ざんした際に、データ上に暗号に近い目印を残しているのだろう。そして、後者がその目印に対して復旧する。それをネットワークが繋がっていると全てに影響させる――と理論上可能だとしても、実現は高い技術力という言葉では足りないほどの力を要する。それこそ人智を超えた神に近い。
　そこで誰かが言った『神は死んだ』という言葉を思い出し、天使は小さく笑う。

「さて、私は『デスペラード』の存在もその削除方法も知っていました。これが高度なセキュリティにより通常操作では消せないことも。ここで使うのが『レシエントメンテ』です。『レシエントメンテ』はデータを改ざんするウイルス。高度なセキュリティすら突破する、ね。そして、『デスペラード』もデータの塊にしかすぎません。だから、こうするのです」

　天使がこれから何をするのか有栖にも伝わったようだった。

『デスペラード』は常にネットワークには接続せずローカル環境で作成、更新がされてきた。それは『レシエントメンテ』にネットワーク上で見つからない為だ。いくら高度な改ざんが行えてもデータそのものが見つからなければ改ざんは不可能だから。もちろん、『デスペラード』側でも対策はされているだろう。
　だから、直接指定するのだ。同じローカル環境内で。
　天使がパソコンを操作し、『レシエントメンテ』を起動するとなれた手つきで操作を行う。

「普段は改ざんしたい内容を話せば、音声認識で自動で改ざんしてくれます。しかし、ファイルを指定して実行もできるのですよ。不要だと思いませんか？　ですが、必要なんですよ……この為に」

　天使が『デスペラード』のファイルを指定すると、『レシエントメンテ』が操作を要求した。

「『レシエントメンテ』、『デスペラード』を削除しなさい」