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第三章_六日前

一色_3-2

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 一色はマザー・エレクトロン株式会社の職員に案内され、応接室へと入った。先程のロビー同様に白を基調にした部屋に、同色の机と椅子がある。良く言えば清潔、悪く言えば寒々として無機質な雰囲気の部屋だった。
 そこに向かい合って座ると、相手がまるで宙に浮いているようで違和感があった。

「では、早速ですが、『あの事件』での影響等を教えて頂いても良いですか?」
「あぁ、はい。では――」

『あの事件』というのは、サイバーフェスで護衛したアース・バウンド博士、という天才が自殺したことだ。
 当時、アース博士はマザー・エレクトロン株式会社に所属しており、その天才と評価される研究・開発結果を世界に発信し続けていた。その彼女をサイバーフェスの期間、護衛する。それが警察とユースティティアが請け負った任務だった。
 結果として、アース博士を誘拐しようとした者が現れはしたが、有栖達が対応し、事なきを得た。
 しかし、サイバーフェスのあとアース博士は自殺してしまい、そのニュースは世界を驚かせた。暫しの間は、暗殺などの陰謀論が錯綜したが、彼女が自殺した映像がロボットの映像記録に残っており、それが全てだった。
 一部、マザー・エレクトロン株式会社によるアース博士の酷使が問題だった等の報道が流れたので、この会社は責められたりもしたのだが……

「当時は大変でした。ですが、我々はアース博士の労働環境や拘束時間などについては彼女の要求を全て受け入れていましたので、そのデータでやっとこさ信じてもらえたものですよ」
「それは大変でしたね」
「えぇ、我々は彼女から大きな恩恵を受けていましたから……それこそ神様みたいな存在でした。神様の話を聞いても意見するなんてことはありませんよ。自由にしてくださいって感じだったんです」
「なるほど」
「それ以外では――警察やユースティティアの方々には少し申し訳なかったですね。せっかく誘拐犯から護ってもらったのに、そのあとの自殺だったので……」
 そう言った、職員は本当に申し訳なさそうに頭を一度下げた。
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