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第三章_六日前

天使_3-1

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「なかなか良いところですね」
 天使はその日、とあるビルを訪れていた。
 そのビルは十階建てであり、街の中に当然のようにそびえ立っているのだが、今日彼が入るまではほとんど誰も入ったことがなく、また、その存在を疑う者はいなかった。
 それぐらいに街に溶け込んでいたのだ。何の為の、誰の為の建物なのかは明確にされていなかったにも関わらず。
「拠点にするには良さそうですね」
 電気は生きており、また、エレベーターやエスカレーターなどの各種設備も問題なく動作する。
「せっかくの置き土産です。有意義に使わせてもらいましょう」
 今は天使がこのビルの権利を持っているが、元は――アース博士がプライベートで買っていた土地と建物だった。彼女が死んだあと、天使は裏から操作を行い、ここの権利を自分になるように処理していたのだった。
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