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追憶_6

一色_三十八歳

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「またラーメンですか?」
「ここが美味いんやから良いやろ」
「また京さんに怒られますよ」
「お前が報告せんかったらバレんやろ」
「しますよ。健康面にも気をつかってください」
「なんや? 俺の身体を心配してくれるんか?」
「えぇ、一色さんには私が出世して、私の部下となり、顎で使われるまでは生きてもらわないといけませんので」
「そんな未来、絶対イヤやわ」

 そんな会話を交わしながら、俺達は馴染みのラーメン屋に入った。
 いつも通りの席で、いつも通りの注文をして料理がくるのを待ってるときや。

『本日、世界的に有名な科学者アース・バウンド博士が来訪して――』

 店に置いてあるニュース番組がその情報を大したことやないように教えてくれた。

「あぁ、今日でしたね」
「せやなぁ。天才なんやろ」
「えぇ。何でも数年先と思われていた技術をどんどん開発して、実現させていますからね」

 警察にもアース博士の来訪の情報は行き渡っていた。というのも、護衛の任務を依頼されたからや。捜査一課に仕事がくるかも、と俺達は少し構えてたんやけど、結局は別の部署が対応することになったと聞いてた。

「結局、どこの部署が護衛をすることになったんですか?」
「さぁ――!!」

 テレビの映像を見た俺は絶句した。
 アース博士が空港から降りて、歩く横に――天使の姿をとらえたからや。

 どくん、と心臓が跳ねて、過去がフラッシュバックした。それと同時に、聖と相棒として過ごしながら『何か足りない』と思う部分――これが何か解った。

『脅威』
『恐怖』

 俺は天使の姿をテレビ越しに見ながら、それを再認識した。それと同時に、彼が何故、アース博士の護衛をしているのかを考えた。

 数年先と思われていた技術を開発して、実現させてきたアース博士
 そして、『あの当時には』完成の目処がたっていなかった――

「レシエントメンテ」
「え? 一色さん、何か言いました?」
「……いや、何でもないよ」

 俺は聖に嘘をついて、平静を装いながらも……頭の中には、あのとき――『レシエントメンテ』について聞いたときに喜びの感情を表に出していた天使の顔が浮かんでたんや。
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