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第五章:もういいよ
時任_5-2
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時任は日下部葵が編入してきたときのことを良く覚えていた。
自身が特別に担当した、ということ。小中高一貫に編入してくる生徒が馴染めるのか、ということ。イジメなどに発展したらどうしよう、という様々な不安が時任にはあったからだ。その生徒がイジメの標的や、また、その生徒自身が問題を起こすと自身の出世にも響く――そんなことを考えていたのだ。
「はじめまして、日下部葵です。今日から宜しくお願いします」
だけど、その不安は日下部葵を一目みて払拭された。
中性的な顔と、テニスをしてきたことによるしなやかな体躯。男性だが髪は長く、ポニーテールにして後ろで結っていた。そして、屈託もない爽やかな笑顔に魅力を感じたのだ。
日下部はすぐに学園に馴染んだ。彼は魅力的で、明るくて周囲を笑顔にさせていった。人見知りもなく、最初からこの学園にいたのではないか、と思うぐらいにクラスの中心になり、テニス部の中心になった。
時任は特別に担当した、ということもあり、日下部に学園生活の状況などを聞く機会が多かった。通常ならば、このような面談は重苦しくなるものだが、日下部との会話は笑いが絶えず、仕事だということを忘れてしまうぐらいに楽しい記憶で埋め尽くされていた。その日が来るのが待ち遠しくなるぐらいに。惹かれていた、ということなのだろう。出世などの仕事のことを忘れていたのは彼の教師人生の中で初めてだった。
「時任先生って好きな人とかいるの?」
「いるように見えるか?」
「見えるよ? カッコイイし優しいじゃん。俺、めっちゃ好きだよ」
「……教師をからかうな」
いつだったかそんな会話をしたこと時任は覚えている。その言葉を聞き、嬉しくなって、照れて、恥ずかしくなって誤魔化した記憶だ。冗談だ、ふざけているんだ、と言い聞かせても真っ直ぐで少し潤んだ日下部の目が嘘を言っているようには思えなくて、鼓動が高鳴った。
聞こえないでくれ、と強く願うと同時に――時任は性別も、教師と生徒という関係も越えて、日下部に恋をしていることを自覚した。
もしかしたら日下部も同じ気持ちなのではないか、という淡い期待を抱いて。
自身が特別に担当した、ということ。小中高一貫に編入してくる生徒が馴染めるのか、ということ。イジメなどに発展したらどうしよう、という様々な不安が時任にはあったからだ。その生徒がイジメの標的や、また、その生徒自身が問題を起こすと自身の出世にも響く――そんなことを考えていたのだ。
「はじめまして、日下部葵です。今日から宜しくお願いします」
だけど、その不安は日下部葵を一目みて払拭された。
中性的な顔と、テニスをしてきたことによるしなやかな体躯。男性だが髪は長く、ポニーテールにして後ろで結っていた。そして、屈託もない爽やかな笑顔に魅力を感じたのだ。
日下部はすぐに学園に馴染んだ。彼は魅力的で、明るくて周囲を笑顔にさせていった。人見知りもなく、最初からこの学園にいたのではないか、と思うぐらいにクラスの中心になり、テニス部の中心になった。
時任は特別に担当した、ということもあり、日下部に学園生活の状況などを聞く機会が多かった。通常ならば、このような面談は重苦しくなるものだが、日下部との会話は笑いが絶えず、仕事だということを忘れてしまうぐらいに楽しい記憶で埋め尽くされていた。その日が来るのが待ち遠しくなるぐらいに。惹かれていた、ということなのだろう。出世などの仕事のことを忘れていたのは彼の教師人生の中で初めてだった。
「時任先生って好きな人とかいるの?」
「いるように見えるか?」
「見えるよ? カッコイイし優しいじゃん。俺、めっちゃ好きだよ」
「……教師をからかうな」
いつだったかそんな会話をしたこと時任は覚えている。その言葉を聞き、嬉しくなって、照れて、恥ずかしくなって誤魔化した記憶だ。冗談だ、ふざけているんだ、と言い聞かせても真っ直ぐで少し潤んだ日下部の目が嘘を言っているようには思えなくて、鼓動が高鳴った。
聞こえないでくれ、と強く願うと同時に――時任は性別も、教師と生徒という関係も越えて、日下部に恋をしていることを自覚した。
もしかしたら日下部も同じ気持ちなのではないか、という淡い期待を抱いて。
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