有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ

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第五章:もういいよ

百井5-1

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「素敵だな……時任先生」
 百井が時任に恋をしたのは些細なことがきっかけだった。

 スクールカウンセラーとして赴任して一年ぐらいが経過したが、これといった実績は残せず、自らが提案した学生の為の案はことごとく不評で保護者からクレームがくるぐらい上手くいっていなかった。
 あくせくと働く他の教師たちは授業をし、生徒と関わり、当然のことながら仕事をしている。そんな中、日によってはカウンセラー室で丸一日寝ていても誰にも注意されない、いや、気づかれないのではないか、と思うぐらいに百井は自分の存在意義に疑問を持ち始めていた。
 何もしなくても給与が支払われ、桜華学園に多額の寄付をしている議員の娘なのでクビにもならない。親のコネで働くことができているのは百井自身解っていた。周囲にどう思われようと、彼女も最初は良かったのだ。仕事をしていけば周囲の見方も変わる、と思っていたから。
 しかし、自分の描く理想とかけ離れた日々が続くと自身の能力の低さが浮き彫りになっていくようで、彼女は次第に病みそうになっていった。
 そのときだ。
「スクールカウンセラーが暇ってことは、生徒が思い詰めるような悩みがない、ということでしょう。それは良いことじゃないですか」
 百井に元気のない様子を心配してか、時任が相談にのってくれて、そのような言葉をくれた。その言葉に彼女は救われ、彼に恋をしたのだ。
 それからも度々、相談という名目で時任に話しかけ、会話する時間を作っていた。その時間が彼女の支えであり、彼がいたから頑張れた。
 だが……、
「時任せんせ――」
 いつも通り、百井は時任に話しかけようとしたが、彼女はその言葉を自然と飲み込んだ。
 そこには今まで百井が一度たりとも見たことのない、教師という仮面を捨てて楽しそうな、嬉しそうな、照れながも幸せそうで穏やかな表情をした時任がいたからだ。一人の男である時任がいたからだ。彼女はそのような顔をしている自身を鏡で見たことがあるから解る――時任は恋をしていた。
 その相手は……隣にいた日下部、という編入生だった。
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