有栖と奉日本『千両役者のワンカラ―』

ぴえ

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第二章:決断

虹河原_2-2

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 車が停車したのは何の変哲もないコインパーキングだった。降りて初めて解ったのは乗っていたのがシルバーのワンボックスカーだったこと。特殊だったり、こだわりがあったりする様子はなく、一般的な乗用車だった。
 降りてからは十五分ほど歩いてワンルームマンションにたどり着いた。正確にいえばパーキングから真っすぐ歩けば五分ほどの場所にあるが、真木の選んだルートはあからさまに尾行などを警戒して選んだものだ。虹河原もそれを察していたが理由は聞かず、周囲の警戒だけはしておいた。ただ二人をつけている人の気配は全くなかったので用心にすぎないのだろう。

 ワンルームマンションは単身赴任の社会人や上京してきた学生が選びそうな物件で五階建ての薄茶色の外装、入れば白く塗られた壁に暖色の蛍光灯がほのかな温かさを演出していた。時刻は深夜に近い時間帯なのでマンション内から声が聞こえることも人の気配もない。
 そんな中をエレベーターで三階へとむかう。わずかな道中で真木がこのマンションは自身ではなく、複数人を経由して契約したことを教えてくれた。先程のルート選択といい、物件の契約方法といい、慎重に物事を運んでいることだけは理解できた。その理由は今はあえて説明しない、ということはどこかで説明するタイミングがあるのでだろう、と思い虹河原も聞き返すことはしなかった。

「ここだ」

 真木がそう言って、一つの部屋のドアの前に立つとポケットから鍵を取り出し、開ける。そのあとその鍵を虹河原に放り投げたので、反射的にそれを受け取った。キーホールダーもなにもついていないむき出しの金属の塊は、どうやらしばらくここを利用することを無言で伝える意味を持っていた。

 中に入り、真木が鍵を閉めて、チェーンをかける。そして、両サイドに小さなシンクとトイレがある短い廊下を抜けると十畳ほどの部屋が広がっていた。奥にある窓には遮光性の高いカーテンがかかっているだけで、その他には何もない部屋だ。

「どこでもいいから座ってくれ」

 そう言って真木が冷めたフローリングに座る。それに少しだけ離れて向き合うように虹河原も座った。真木は車から降りるときに持ってきていたカバンからペットボトルの水を二本取り出し、一つを虹河原に渡すと、

「まだ少し混乱しているかもしれないから、話ながら状況を伝えようと思う。虹河原、どこまで覚えている?」

 そう言われて、虹河原は無言のまま軽く目を瞑った。
 後頭部の痛みが過去に戻ろうとする思考を邪魔するが、その痛みの起源が過去の起点だとも言えた。ノイズまみれの回想シーンでも瞼の裏に貼り付いた人物だけはくっきりと思い出せる。

「一色さんと会って……そうだ。天使さんに呼ばれたビルで、一色さんと会って、それで――」

 虹河原の頭に浮かんだ映像は、思考を整理すると音になって外へとアウトプットされた。
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