有栖と奉日本『千両役者のワンカラ―』

ぴえ

文字の大きさ
27 / 81
第三章:カルーアミルク

奉日本_3-3

しおりを挟む
 アースが一色の前に姿を現したことに奉日本は少々驚いた。彼に一色が訪れる可能性を示唆したのは紛れもなく彼女ではあったが、それでも対面することはなく自身を介して接触するのだと思っていたからだ。
 この時点で、アースが姿を現すのはリスクがあるのに違いない。それは彼女自身も理解しているはずだ。それでもそれを実行したのは、理由がある。しかし、それはきっと奉日本がいくら思考を巡らせても届かないのだろう、と思うと今はこの場を彼女に譲るべきだと思い、静観することにした。

「――生きていたんですね」
「彼に匿ってもらっていたんだ。いきさつは省くが、今はそれよりも天使を止める方法に興味があるんじゃないか?」
「何か策でもあるんですか?」
「あぁ、もちろん。一色、キミの協力が必要不可欠だがね」

 アースの口調から何かしたの策があるのは明らかだった。そして、その為には一色、という駒が必要なのだろう。彼女にとって天使が一番のリスクである。そして、一色も天使を止めたい。つまり二人の共通の敵であることには違いない。

「聞かせてもらっても?」
「天使を排除する方法について最も適した策はないかと考えてきた。あいつがもし私の生存を知ったならば、『レシエトメンテ』を開発し、対策も作れる私が邪魔になるから必ず殺しにくるからな」
「だから、自殺に見せかけて逃げたんですね」
「そうだ。そして、そのときの策を用いて再度、天使を騙す」

 そこでアースは自身が死んだ映像を生成し、カメラ機材を制御しその映像を差し替える方法を告げた。

「私としては高良組を活用する方法もあったが、こちらは天使と戦わせても勝率は五十パーセントぐらいだ。それよりも、キミが協力してくれるのならばその方が勝算は高い」
「その映像というのはどのような?」
「私が天使の策を読むと、キミを陥れる為に彼は虹河原を利用するだろう。確実な勝利の為、肉体面と精神面で攻めたいからだ。キミに虹河原を殺させれば精神面で追い込める。もしくは、虹河原の攻撃で一色がダメージを負えば良い。死んでくれたら最良だ。相打ちも視野に入れるだろう。つまり、どちらに転んでも天使にとっては良いんだ。だから、『虹河原がキミを射殺する生成映像』を、監視カメラをハッキングして差し替える。そうすれば死体の回収に天使が赴くだろう。そこをショットガンで吹き飛ばす」
「天使を殺害しろと?」
「天使は何度も隙を作れるほど甘い人間ではない。その映像で生み出した隙をついて、一撃で仕留めないと彼は逃げて体制を立て直す。それぐらいは想像に容易いだろう?」
「…………」

 一色の沈黙は肯定を意味していた。

「一色、キミが天使を逃すようなことがあるならば、天使は映像のトリックに気づくだろう。それはすなわち、私が生きていることに気づくことにもなる。そうすれば、彼は『レシエントメンテ』を創り、その対抗策も創れる私を消すことに注力するはずだ。私は残念なことに頭しか使えない。誰かを利用して戦うことしかできない。天使は頭脳も戦闘能力も高い。頭脳では私が上回っていても総合力では負けているんだ。仕留める機会を逃すことは私の死につながる」

 アースと一色の会話に対し、奉日本は静観を貫いた。この状況で決定を下せるのはこの二人だけだ。しかし、話を聞いている限りではアースの言っていることに説得力がある。
 一方で、一色が天使を殺害したくはない気持ちも読みとれた。しかし、そんな余裕を天使に対して持つことは敗北に直結する。それに、一色の過去も知っている奉日本としては、今はその過去を捨ててでも平和を取り戻す為に、一時的にシミガミ時代の自分を呼び戻すことになるのだろう、と思っていた。初めて人を殺すのではない。これまで殺した経験のある人間が、その数を一つだけ増やすだけだ。
 しかし、このとき奉日本は一色を侮っていたことを解らせられることになる。

「……解りました。アース博士、映像を使った策に乗らせてもらいます」
「そうか」
「ですが、その映像を『俺が虹河原を殺害する映像』にすることはできますか?」

 一色の発言にアースは目を見開いた。そのような彼女を見るのは奉日本は初めてだったので驚いたが、何故そのような反応を見せたのかは解らなかった。

「一色――キミは本当な優秀だな。その案が頭になかったわけではない。ただ長いスパンのプロジェクトになるから避けただけだ。勝率も最初の案よりもわずかに劣る。それに――高いリスクを負うのはキミ自身だぞ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。 『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。 一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。 平等に進む時間 確実に進む時間 そして、決戦のときが訪れる。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【戦国時代小説】 甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助

蔵屋
歴史・時代
 わたしは、以前、甲斐国を観光旅行したことがある。  何故、甲斐国なのか?  それは、日本を象徴する富士山があるからだ。     さて、今回のわたしが小説の題材にした『甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助』はこの甲斐国で殆どの戦国乱世の時代を生き抜いた。そして越後の雄•上杉謙信との死闘は武田信玄、山本勘助にとっては人生そのものであったことだろう。  そんな彼らにわたしはスポットライトを当て読者の皆さんに彼らの素顔を知って頂く為に物語として執筆したものである。  なお、この小説の執筆に当たり『甲陽軍鑑』を参考にしていることを申し述べておく。  それでは、わたしが執筆した小説を最後までお楽しみ下さい。  読者の皆さんの人生において、お役に立てれば幸いです。  

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...