有栖と奉日本『真夏のモンスター』

ぴえ

文字の大きさ
32 / 57
有栖_3

有栖_3-1

しおりを挟む
 いきなり襲いかかってきた反保に対して有栖は戦闘体勢に入りながら、
「こっちは話を聞きたいだけだってのに……けど、無理そうか」
 そう呟きながらも、彼の様子を見て諦めた。
 反保の呼吸は乱れ、目は写真で確認したときとは違い、紅い。一目見て、まともな精神状態でないことは判断できた。
「仕方ない。とりあえず、一回――寝てもらおうか」
 既に攻撃を受けた時点でユースティティアとしても正当防衛は成立する。
 有栖はまず素早いステップインから、顔面に左ジャブを二回当てる。ナイフが真横から振られてきたがダッキングで避けて右のボディーブローを炸裂させた。
「お?」
 手応えはあったが、反保は有栖の顔面に向かって膝蹴りを試みた。彼女は後方に跳ぶことで軽々と避けて距離を取る。
「打たれ強いな」
 素人丸出しの腕や脚を振り回す攻撃から、有栖としては反保に対して驚異を感じてはいなかった。しかし、先程のボディーブローは並大抵の男なら悶絶させる自信があったのに、彼にその様子はない。
「がぁぁ!」
 反保がナイフを持って真っ直ぐ突っ込んでくる。ナイフの持ち方、構えから突きであると判断した有栖は身体を揺らしながらタイミングを取った。

 ――ここだ!

 反保の突きは有栖の左の肩口を狙っていたが、彼女はそれに腕を絡ませるようにクロスカウンターを反保の顔面に炸裂させた。
「完璧――なっ!」
 ここで完全に勝利を確信し、余韻に浸っていたら有栖は危なかっただろう。だが、彼女は反保の目が死んでいないことを即座に感じ取った。腕を引き抜こうとしたが、
「痛っ!」
 その際に二の腕を切りつけられてしまった。傷は深くはない。まだ戦闘は充分に可能だが、彼女にはそれ以前に解決しなければならないことがあった。

 ――手応えも威力もタイミングも完璧だった。意識が失わないにしても、激痛でまともに動けないはず。

 しかし、反保は何事もなかったかのように反撃をした。そこから、彼女が導いたことは――
「痛みを感じない?」
 そう呟くように言うと、反保は舌打ちをし、足下に転がっていた石を拾うと彼女に投げつけた。
 当然ながら、それに当たることはなかったが、反保はその攻撃と同時に逃げ出してしまった。有栖の言葉に反応したことから、その事実に気づかれたまま戦うことは不利だと判断したのだろう。しかし、その行動が有栖の導いた答えが正解だと言っているようなものだった。
「深追いはしない方がいいな」
 有栖はその日は反保を追わず、ひとまず一色への報告を優先することにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...