有栖と奉日本『真夏のモンスター』

ぴえ

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有栖_3

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 その日のランチを高本の店で食べることにした有栖は、事前に連絡だけは入れておいた。ここ最近は調査で外回りが多く、行くことができていなかったからだ。
「いらっしゃいませ」
「どうも」
 ランチタイムの営業が終わり、閉店表示の店内には当然ながら客は誰もいなかった。この優遇は彼女が仕事の一環で高本を助けたことによるものだった。
「随分と疲れてますね」
「そこそこ忙しいので。あ、この人、見たことありますか?」
 そう言って有栖は反保の写真を高本に見せた。様々な客が訪れる店なので、もしかしたら、見たことがあるかもしれない、と思ったのだろう。
「知りませんね」
 にっこりと微笑み、高本はそう断言した。
「そうですか」
「はい。今日のランチはビーフシチューです。お肉は疲労回復に良いですよ」
「パンですか、米ですか?」
「フランスパンです。お米が良かったですか?」
「いや、どっちでも大丈夫です」
 そんな他愛ない会話をしながら、暫くすると香りの高いビーフシチューと焼きたてのフランスパンがカットされて運ばれてきた。
「いただきます」
 そう言って、一口運んだ肉はじっくりと煮込まれており、舌の上でほろりと崩れるぐらいに柔らかかった。それと同時に溢れる旨味と香りがもう一口、もう一口と止まらない。パンをディップして食べれば、それはもう別の一品のようで配分を間違えた彼女はパンを早めに食べきってしまい、高本に別料金でおかわりをお願いすることになった。
 食後、今日はコーヒーとスイーツもあるから食べていってほしい、とお願いされた有栖は断る理由もなく了承した。提供までの間、彼女は自然と反保のことを考えていた。
「高本さん、ちょっと聞いても良いですか?」
「えぇ、どうぞ」
 高本は調理をしながらもその様子には余裕があった。手慣れているのがよく解る。
「不幸なことがあった場所があるとします。それでも、そこに恩返しのようなことをするってあると思いますか?」
「あるんじゃないですか?」
「例えば、その理由は?」
「嫌み、という形の復讐」
「あぁ、なるほど。でも、それは相手に通じない可能性がありますよね」
「だとしたら、思い出の場所だから……とか?」
「不幸な目にあったのに、ですか?」
「大半がそうだとしても、それだけではなかったのかもしれません……はい、できました」
 そう言って、高本は高級感のあるチョコケーキのようなスイーツを有栖に提供した。
「これは?」
「フォンダンショコラです。中央を切ってみてください」
 言われたままに、有栖は中央にフォークを入れた。
「おぉ、溶けだした」
 切れ目から溶けたチョコが流れ出て、皿の上に広がる。
「ガナッシュチョコを中に入れて焼くので、その熱さで中のチョコが溶けているんですよ。難しいことを考えるときには甘いものを食べると良いですから」
「ありがとうございます」
 その好意を有栖は喜んで受け取り、完食という形で態度に示した。
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