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有栖-1

有栖-1-8

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「ただいま戻りましたー」
「おう、おかえり。ほんでいってらっしゃい」
「へ?」
 事務所に戻った有栖に一色が迎えたあとに送り出そうとするので、彼女は首を傾げた。
「ほれ、『例の件』や。前線で選出されたメンバーは現状の進捗とか当日の動き方とか説明があるから、時間が取れ次第、三階の応接室に来いやって。メール届いてるで」
 一色に言われて、パソコンのスクリーンセイバーを解除し、メールソフトを見る。件名に『極秘』と記載されているので容易に見つけ出すことができた。
「あ、本当ですね」
 メールには添付があり、名前の横に三十分単位で来訪時間が区切られており、有栖はあと十五分後には応接室に訪ねることになっている。どうやら五十音順らしい。
 簡易的にまとめられた概要には十日後に実施する任務についての詳細説明を実施、と書かれている。日程については完全に決まったようだ。
「急ですね」
「本件のトップの予定がキャンセルされて時間が空いたかららしいで。有栖が戻ってこんようなら後ろにズラしてもらおうかと思ったけど、戻ってきたし、行けるやろ?」
「えぇ、大丈夫です」
 有栖はそう答えながら、メールソフトのウィンドウを最小化してディスプレイの電源を切る。
 本件は極秘である以上、トップも幹部であり多忙だ。急に空いた時間を効率的に使う為に設定されたのだろうが、そのトップよりは柔軟に対応できるとはいえ、それ故に下部の人間は振り回されるな、と少々の不服を覚えながらも会社の一員として有栖は受け入れる。
「じゃあ、いってきます……あ、イチさん、これ」
「ん? 何や?」
 有栖が差し出した紙を一色が受け取る。
「何か受付が直接届けてくれた案件です。自分が対応するので処理お願いします」
「大丈夫か? 大きな案件控えてるのに……」
「調査と報告の軽めの案件なんで。期間もこの案件は一週間。『例の件』はどうやら十日後みたいですし」
「まぁ、自分で管理できるなら問題ないけど……あんまり業務を輻輳させるなよ」
「はーい」
 そう言って、有栖は応接室へと向かう為、事務所から出て行く。一方で、一色は有栖から受け取った紙を訝しげに見つめていた。
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