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第五章:祭囃子

奉日本_5-1

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「とはいえ、詩島組と警察の繋がりがある情報を奪ったのは久慈さんなんですけどね」
 二日目の後処理は続いており、その喧騒の中で奉日本と久慈は雑談を交わしていた。
 奉日本としてはこれ以上の仕事は出来ないが、それでも退場するには警察とユースティティアの調査が終わり、著名人達が退場してから、という具合で順序としては後回しだった。
「杜撰で、管理が甘いのが悪い。あんな組織体制で仕事をしているようなら、詩島組が潰れるのは時間の問題だった。俺は要因の一つでしかないよ」
 久慈の言い分に奉日本は納得する。警察も過去に繋がりがあったとはいえ、それが必要なくなった現在ではリスクのある組織をいつまでも野放しにはしていなかっただろう。
「一つ質問しても良いですか?」
「何だ?」
「伏見を預かって、手段を問わなければ無理矢理にでも情報を引き出せたのでは?」
「おー、怖い、怖い。そんな怖い考え、思いもつかなかった」
「あぁ、でも、それをするには警察に更に手を回す必要がありますね。そこまでの貸しと関係を作るつもりはなかった、というわけですか」
「無視して、勝手に結論に至るなよ。まぁ、それも理由の一つだな」
「そうしなかった理由が他にある、と?」
「時間が無駄になるからだ」
「時間の無駄?」
「伏見は何をしても話さないだろうさ。そういう男だからな」
 久慈の言葉には何処か哀れみと尊敬が混じっているように奉日本は感じられた。久慈と伏見は同職故に、相対するのは今回が初めてではなかっただろう。彼にしか解らない感情があるのかもしれない。
 一方で奉日本は、伏見は部下を保護することを条件にしたならば話したのではないか、とも考えた。また、もしかしたら、久慈は伏見からそのような条件が提示されることを望んでいたのではないのか、とも。
 伏見がトップとなり、彼を慕う部下がいる組織を参加にできるのならば高良組としても魅力的だろう。ただし、そこには伏見の意思がなければ砂上の楼閣になってしまう。
 しかし、これを聞くのは野暮だろう、と判断し、奉日本は口にはしない。追い詰められ、思考が浅くなった一人の男を哀れむだけだった。
「まぁ、詳細は捕まえた詩島組の組長にでも聞くさ。少し脅せば、ベラベラ話すだろうしな」
「自分の命を守る為なら、尚更でしょうね。部下達とは違って」
「そうだな。俺達も楽に情報が得られるなら、そっちの方が良い。こっちも必要な情報は少しでも集めてメリットとデメリットを判断しないと、関わって喰われれる――なんてのはゴメンだからな。」
 だったら、伏見にチャンスなんて与えず最初から組長を尋問すれば良いのに、と奉日本は思ったが、これも口にはしない。
「じゃあ、俺は帰る。そっちは明日もだろ?」
「はい。帰れるんですか?」
「それぐらいの道は準備してるよ。まぁ、持ち物検査は抜けられないがな」
 久慈は奉日本の方に顔は向けずに、
「また、店に顔出すよ」
 と、言い残して去って行った。
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