負けるな、卑弥呼様!

子猫紳士

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3 付き合え、卑弥呼様!

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 「弟よ、私は気づいてしまったわ。」

 弟の前で正座する卑弥呼はそう言い放つ。

 「どうした姉さん、いつになく真剣な顔で。」

 腕を組んで座る弟は怪訝な顔で卑弥呼を見据える。

 「私……私……」

 「このまま引きこもってたら彼氏の一人もできないじゃないっ!!!」

 卑弥呼は立ち上がって大声で叫ぶ。

 「なんだよ、妙に真剣な顔だと思ったら…安心しろよ。」

 弟は卑弥呼に微笑みかける。

 「姉さんは引きこもってなくてもモテねぇよ。」

 「イケボで何ほざいとんじゃお前はぁぁぁぁ!!!」

 卑弥呼は弟に突っかかる。

 「ほらそうやってすぐヒステリー起こすだろ? そーゆーとこだぞ。」

 「いや、今のはあんたが十割悪いわ。」

 卑弥呼は弟をジト目で睨む。

 「姉さんはもうちょい自分自身の存在感を意識した方がいいぞ。」

 「何? どういう事よ?」

 「いいか、まず姉さんは一国の王だ。」

 「そ、そうね。」

 「そんで、隣国と何やらよくわからないやりとりをしている。」

 「ま、まぁ他の人の目にはそう映るかしら。」

 「さらに“鬼道”とかいう怪しげなチカラを使いだす。」

 「…………。」

 「どう考えてもやべー奴だろ。」

 「ぐぅっ……!!」

 「あと、姉さんもう結構いい歳だし。」

 「ぐはっ!!!」

 「ヒステリー持ちのヤバそうなババアと付き合いたい物好きな男なんていねぇよ。」

 「ぐっはぁぁぁぁぁ!!!!」

 弟の容赦ない言葉の暴力が卑弥呼を襲う。

 「ははは、モウ、イイノヨ。ワタシはヒトリデシンデイクノヨ……」

 卑弥呼は虚な目で全身をガクガクと痙攣させる。

 「あ~、壊れちまったか。」

 弟は頭を掻く。

 「まぁ生きてりゃそのうち姉さんにもいいことあるって。あんまり男ばっかに気を取られんなよ。」

 弟は完全にラリっている卑弥呼の肩にぽんっと手を置く。

 「めげずに生きて行こうぜ!」

 弟は親指を立てる。

 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!」

 卑弥呼はバッと立ち上がり、奇声を発する。

 「もういいわよ! 分かったわよ! この国の男どもみんな殺して私も死んでやる!!!」

 「お、落ち着けよ姉さん。そんなくだらない理由で一国の王が殺戮と自殺なんてしていいとでもおもってんのか!?」

 「うるさいわね! わたしは女王よ! なんでもできる最強美少女なのよ!」

 「あ、こいつさらっと自分のこと美少女認定しやがった。」

 フグのように顔をふくらませた卑弥呼は物置から槍を取り出す。

 「落ち着けよ、そんな槍一本でどうするつもりだよ……」

 「もうどうでもいいのよ!! 彼氏がいない人生なんてもうまっぴらなのっ!!!」

 「分かった分かった! 俺が姉さんに男紹介してやるよ!」

 「……マジ?」

 卑弥呼の動きが止まる。

 「ああ、まじまじ。」

 「……どんな男よ。」

 卑弥呼は弟を細目でじっと見つめる。

 「あ~、そうだなぁ……難升米なしめって男がいるんだけど……けっこうイケメンだぞ?」

 「マジ?」

 「うん、マジ。」

 「私なんかとでも付き合ってくれそう?」

 「分からんけど、会ってみる価値はあるんじゃね?」

 「……分かったわ。」

 卑弥呼は握りしめていた槍をそっと床に置く。

 「じゃあ明日、そいつをここに連れてきて。」

 「は? 明日? 無理だろ、急すぎる。」

 「絶対明日!! 一日でも婚期を逃したくないのーーーーー!!!!!」

 卑弥呼は、五歳児のように寝っ転がってジタバタ暴れだす。

 「はぁ……分かったよ。連れてくりゃいいんだろ。」

 弟は大きなため息をつく。

 「マジで頼んだわよ。」

 「はいはい。」
 (姉さんに男関係の話は大地雷だったな……)

 弟は家の外に出て行き、門番を務めていた二人の従者に指示をだす。

 「おい、お前ら、悪いんだけど今日中に難升米って男を探し出してくれねぇか? 明日までにここに連れて来なけりゃ、この国のやつら全員が死ぬことになりそうだぞ。」

 「なっ!? もしや卑弥呼様の占いでしょうか!?」

 門番が顔を真っ青にして弟に問いかける。

 「あ~……うん、まぁそんなとこ。」

 「承知いたしました! 従者の皆にその男を探すよう呼びかけて参ります!」

 「あぁ頼んだ。」

 門番達が集落の方へ駆け出して行くのを弟はひとり見つめる。

 「……マジで頼むぞ。」
 

 

 
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