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昔語り
人食い峠
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その年は、梅雨が開けることもないほどの長い長い雨でした。
夏の寒さから、人柱では成り立たず、都からヤマガミ様への間引きも出るほどでした。
禁忌のお山には全員が白装束と旗をたて、子らは歌を歌いながら登ったというのです。
沢山のご馳走と深い新緑の山は暮れては足元を冷やすばかりでとうとう幼いこどもたちも口を閉じては年よりたちに「歌え」「歌え」と脅かされやがて泣き声も枯れた頃、捨てて逃げられたとういうことです。
どこか知らないところからナタを持った醜い人が現れました。
「お前は口が聞けるかい?」
そういうと見えない子らが一人づつ切り断つ崖から落とされました。
「お前はダメだ、それを持っていくことはできない」
と、切れ端でできた人形でさえ取り上げては落とされました。
「お前は噺ができるかい」
さいごのこどもは黙ってうなずいたのです。
「あたしは歳を食って山にほうられた、だから野草のひとつも覚えられなかった」
鍋は煙をあげて火がくべられています。
寒くてじとじとした長い長い夜が続きました。
「肉だよ...そうかお前は都出か、だがこれしか食い物はないよ」
獣肉は食えないと笑う年よりはその油汁をたまにかき混ぜてはこどもを見て笑うのです。
ゾッとする笑い声は雨足が強くなればなるほど胸に重たく刺さるのです。
だけれど、三日も持たずこどもは腹が減りました。
あんなに大勢の人から、おご馳走され神輿まで担がれて香まで炊かれたのにひとつとして嬉しくはなかったのです。
「子捨て山のばばあは肉がうまいと言っていた」
「…」
「さあてね」
こが、吐かずに呑み込むほうが早かったのは味に塩気がなかったからでした。
雨足が強かろうが弱かろうが縄にひかれ歩かされました。
やがて晴れが来てようよう道が歩けるほどになったとき、こはその場からほどかれました。
「ここから北に登るんだ、修験者の山を通っても何一つくちをきくんじゃない。奴らはなまくらだかうかつに近づけるんじゃないよ『そはか』と言えばいい。それから西へ沈む海の方へ歩くんだ。気色の変わったわたりがいる、葡萄の蔓を見せればいい」
こは何度も聞かされる昼の話にただただ黙るだけです。
肉鍋はこが見つけた野菜鍋となりました。
慣れた味と肉の臭いが消えていくのです。
それでもこは鼻に付いた肉のニオイが最後まで落ちませんでした。
そのときのこはもういません。
そのときのこは、落人の槍でずっと喋っていた人の足を差していたからです。
血が大地に滴りおちました。
こはとっさに奪った短いナタにぬるつきを感じましたが絶対に離しませんでした。
「ゆけ」と。
「ワタシが食われているあいだに。
ああ厄介だ。
獣がくる。
服を捨てろ。
内臓を埋めろ。
時間を稼げ。
せめて一昼夜、こどもの足が一里も千里もここから離れるように」
花を追い渡りのミツバチの箱を持つ男のお話でした。
水に流された子が北の土地で拾われたお話はまたいつか。
夏の寒さから、人柱では成り立たず、都からヤマガミ様への間引きも出るほどでした。
禁忌のお山には全員が白装束と旗をたて、子らは歌を歌いながら登ったというのです。
沢山のご馳走と深い新緑の山は暮れては足元を冷やすばかりでとうとう幼いこどもたちも口を閉じては年よりたちに「歌え」「歌え」と脅かされやがて泣き声も枯れた頃、捨てて逃げられたとういうことです。
どこか知らないところからナタを持った醜い人が現れました。
「お前は口が聞けるかい?」
そういうと見えない子らが一人づつ切り断つ崖から落とされました。
「お前はダメだ、それを持っていくことはできない」
と、切れ端でできた人形でさえ取り上げては落とされました。
「お前は噺ができるかい」
さいごのこどもは黙ってうなずいたのです。
「あたしは歳を食って山にほうられた、だから野草のひとつも覚えられなかった」
鍋は煙をあげて火がくべられています。
寒くてじとじとした長い長い夜が続きました。
「肉だよ...そうかお前は都出か、だがこれしか食い物はないよ」
獣肉は食えないと笑う年よりはその油汁をたまにかき混ぜてはこどもを見て笑うのです。
ゾッとする笑い声は雨足が強くなればなるほど胸に重たく刺さるのです。
だけれど、三日も持たずこどもは腹が減りました。
あんなに大勢の人から、おご馳走され神輿まで担がれて香まで炊かれたのにひとつとして嬉しくはなかったのです。
「子捨て山のばばあは肉がうまいと言っていた」
「…」
「さあてね」
こが、吐かずに呑み込むほうが早かったのは味に塩気がなかったからでした。
雨足が強かろうが弱かろうが縄にひかれ歩かされました。
やがて晴れが来てようよう道が歩けるほどになったとき、こはその場からほどかれました。
「ここから北に登るんだ、修験者の山を通っても何一つくちをきくんじゃない。奴らはなまくらだかうかつに近づけるんじゃないよ『そはか』と言えばいい。それから西へ沈む海の方へ歩くんだ。気色の変わったわたりがいる、葡萄の蔓を見せればいい」
こは何度も聞かされる昼の話にただただ黙るだけです。
肉鍋はこが見つけた野菜鍋となりました。
慣れた味と肉の臭いが消えていくのです。
それでもこは鼻に付いた肉のニオイが最後まで落ちませんでした。
そのときのこはもういません。
そのときのこは、落人の槍でずっと喋っていた人の足を差していたからです。
血が大地に滴りおちました。
こはとっさに奪った短いナタにぬるつきを感じましたが絶対に離しませんでした。
「ゆけ」と。
「ワタシが食われているあいだに。
ああ厄介だ。
獣がくる。
服を捨てろ。
内臓を埋めろ。
時間を稼げ。
せめて一昼夜、こどもの足が一里も千里もここから離れるように」
花を追い渡りのミツバチの箱を持つ男のお話でした。
水に流された子が北の土地で拾われたお話はまたいつか。
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