わたしは土日彼に抱かれる

ふしきの

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デート編

羽織る

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 まるでマントか法事の風呂敷でもひっかけているみたいだ。と、梨花子は鏡を見て思った。寮の部屋には手鏡しかない。洗面所には半身映るが全身鏡がない。だから、外のショッピングウィンドウに反射している自分の姿を見て顔が青くなる。
「どうしたの」と彼は言う。
 言葉には出ない。
 彼の一見ラフに見える黒服は光によって黒檀色と分かる。

「デートですね」
 と、返事で声に出せない笑顔がひきつる。
 だから、観覧車にエスコートされて自分側がゆらりと傾いたときにも同じぐらいひきつった笑いをしていた。
 観覧車は以外に揺れる。
 だから、動いている日に当たれてよかった。はず。
 なのに、梨花子はショールをぎゅっと握ったまま下を見つけた。まるで正面を向けば罰でもあるように。
「よっと」観覧車が傾いた。
「さ、左右対称に乗らないと! お、落ちる」
「やっと見てくれた」
 この人はぐいぐい来てくる。
「高所怖い? 」
「ち、違います」
「どうした? 」
「ちょ、ちょっと、洋服選びを間違ってしまって」
「どこが、かわいいよ……しいてあげるなら、そのかわいさを見たいから笑顔でいて欲しい」
「なにおべんちゃら言うの。なんでそんなに軽いの。見てわかるじゃない。似合っていないストール。肩が大ききから既製品の服がダサイ、おばあさんみたいな色合いの通販ばっかり」
 梨花子は泣きたかった。
 初対面の下着が可愛くなかったことを思い出すだけで食欲がなくなったこと。
「どこをどう見てもかわいいとは思えない、うそでごまかさないで」
「ん、そうだね。その前に水分取って」と、ポケットからデミダス珈琲缶を出してきた。「飲食禁止だから、内緒」と、したたかに言ってのける。

「今日はマスカラをしてみたんだね。チークも甘いリップも」かさついた唇に唇が当たった。「君は、とてもかわいいよ。手荒れに負けず、いつも糊のきいたアイロンを当てている。僕ならクリーニングに出すぐらいめんどくさがりなのに、でも一生懸命ならなくていい。デートって一緒に楽しむのもじゃない? 」
 手のテーピングを水仕事の治療だと思っている。梨花子は言えない。
 自分を全部さらすことになれていない。

 それでも、「カバンに入れていた髪止めがない! 」ことで全部がキャンセルになり「大丈夫です。100円程度で買えます」と言ってごまかしても「大事なものは同じもので代用できない」と言い切られた。


「そんな短い髪の毛に! だったら前髪切れ」が、前のコーチだった。
 組の監督も黙ってうなずく。おしゃれどころじゃないのは知っている。

「デート、デートだけでいいのですか! 」
「……君、凄い男前なことを言っているけれど、……意味が分かっているの」
「はい」
「なけなしの紳士ぶりが壊れる」と彼がおでこを押さえて背伸びした。同じように彼も緊張していたことを知って、梨花子は笑った。



 家に帰ってベッドヘッドに髪止めゴムは落ちていた。
「ありました」
 と、言おうとしてはっと、気がついた。
 彼の連絡先も連絡方法もお互いに伝えていなかったということを。
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