タコのグルメ日記

百合之花

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Ⅲ章 ヘスペリオス洞穴

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「・・・くぬう。」
「どうしたのごじゃりますか?」
「じいや、どうして彼女は私の誘いを断った?」
「本気ですか?」
「・・・?
何がだ?」
「・・・はぁ。」

じいやは本気で不思議がっているエンデリアに対してため息を吐く。
ため息ばかりついてることに我ながらげんなりしつつ、答える。

「まず彼女は女性でしょう?
そしてお嬢様も女性です。」
「何の問題がある?
可憐な生物はすべて女と決まっている。
彼女が女性であることに疑いの余地はあるまい?」
「いえ、そういうことを言いたいのではなく、本来、女性は男性と。男性は女性と伴にあるのが自然の摂理でごじゃります。
いきなり嫁になれ、といわれても断るのが普通でごじゃりましょう?」
「なるほど。
つまり、お友達からはじめろ、ということだな?」
「違います。
いえ、別にそれはそれでありなのでしゅが・・・そういうことを言いたいのではなく、普通は女性が女性を伴侶としてみることはないということを言いたいのです。」
「・・・それくらい言われなくても分かっている。
だが、その道理を蹴っ飛ばしてでも私の嫁になるというのが筋というものだろう。
少なくとも不幸にはならん。」
「・・・。」

どこからその自身が湧いて出るのか、ほとほと不思議であるが、そこはひとまずおいておき―

「そのような筋はありましぇぬ。」
「無いのではない。じいやが知らぬだけだ。
良かったな。これでじいやは一つ賢くなれたぞ。」
「・・・さいでごじゃりますか。」

じいやは説得を諦めた。

「つまりじいやは彼女が私に対してまったくもって好意をなぜか寄せていない。そういいたいのだろう?」
「なぜかも何も・・・色々と言うまでも無く普通は分かるはずなのでごじゃりますが・・・」
「どうすれば惚れてくれる?
それをじいやに聞きたいのだ。私は残念ながら賢者というわけではない。
高貴なものといえど、知らぬことの一つや二つはある。
恥を忍んで聞いているのだ。
彼女にどういうアピールをすれば私は彼女を嫁にできるのだ?
いや、いっそのこと私が嫁ということでも構わぬ。
「・・・知りましぇぬ。」
「・・・そうか。
・・・どうしたものか・・・。」
「それよりもリグレットホースの件はどうするのでごじゃるか?」
「ああ、それな。
最早どうでも――・・・ふふふふ。
ふふふふふふ、そう。
それだ。
それだ。
それだったのだ。」
「・・・お嬢様?」
「もう一度行くぞ、じいや。
あの少女の下に。
今度は名前も聞かねばなるまい!」
「・・・お嬢様?」


じいやの困惑もよそに一人で盛り上がるエンデリア。
それをよそにエンデリアはただただ盛り上がっていた。

☆ ☆ ☆

「今日は山菜とホーンパイソンのスープを作ってみた。」
『ちゃんと美味しそうね。』
「無茶はやめることにしたのさ。
食材がもったいないからね。」
『今回は私が頂戴してあげましょうか。』
「・・・美味しそうなときばっかりだな。」
『当然でしょ。不味いものを食べてたまるものですか。』
「やっぱり食い意地と無縁とは言いがたいよ・・・」
『何かしら?』
「なんでも。」

さて、さっそく食べてみようと箸を持ったところでドンドンとドアを叩く音がする。
なんだ?
昨日の今日でまた人が来るとは珍しい。
回復薬としてのメープルシロップを用意しつつ、ドアを開けると・・・

「また貴方達か・・・」

依然変わらず、身なりのいい女性と老紳士が立っていた。
今度は何用か?

「今回は何の用で・・・」
「少女よっ!!
私に付いてくるといいっ!!
何、心配することは無いっ!!
私が守ってやろうぞっ!!」
「・・・はぁ。」

今度は何を言い出したのだろうか?

「そなたが私を振った理由はおそらく、まだ私を良く知らないゆえに照れたため・・・だろう?
ならば私を良く知ってもらうため、そして私のかっこいいところを見て惚れてもらうことにした。
照れなど介在できぬほどに骨抜きにしてくれる!!
ありがたく思うのだぞっ!
この私じきじきに守ってやるのだからな。ゆえに安心して私の背後に控えてると良い。」

き、驚異的なまでに話が見えない。
昨日もそうだが、この人たち自己完結しすぎて話の流れがまったく分からん。
結論だけ述べられてもこちらとしては困るばかりなのだが。

「付いてくるとか言うけど、どこに行こうっていうの?」
「何、ちょっとヘスペリオス洞穴へ言って、私の勇姿を間近で見るといいっ!!
確実に惚れること間違いなしだぞっ!!」
「ヘスペリオス洞穴?」
『これはまた懐かしい名前が出たわね。
ここ最近までリグレットホースの影響で人はまったく来なかったのだけど・・・てっきり忘れ去られてたと思っていたわ。』
「リグレットホース?」
『ええ。その洞穴の主とも言うべき存在で、総合的に見ればタコの言うフルアーマースネークよりも強い動物よ。』
「ほほう?
強い・・・か。どういう強さ?」
『さぁ。私はあくまでも森の中のことしか知らないし。
森の中に来た人間の話を総合した結果が今の情報だからそれ以上はあまり知らないわよ。目の前の二人のほうが良く知っているのではないかしら?
倒しに来たというのだから、多少の下調べくらいはしてくるでしょう。』

僕の中ではそのリグレットホースがどんな味をするのかだけしか興味が無い。
焼いて食うか、煮て食うか。生のままでいっちゃうか、ワクテカである。
それにヘスペリオス洞穴なんて初耳だ。
最近は森の勝手がだいぶ分かってきたが、それでもすべてを知るに至らない。
そんな場所があるなら教えてくれればいいのに。
強いらしいので、リグレットホースとやらには下手に仕掛けないとしても、洞穴なら洞穴に住むようなコウモリやゲジゲジといった洞穴らしい生物が生息してるに違いない。
洞穴によっては水が溜まる環境もあるとかで、そこにしかいない魚もいるとか。
うむ、実に興味の引かれる話題だ。
彼女達はどうもそのリグレットホースを倒しに行くらしい。
倒しに行くのだからきっと勝算があるに違いない。
リグレットホースとか言うのは彼女達に任せて、僕はその辺の動物を狩って帰ろうではないか。
となるとポシェットじゃ獲物が入りきらないかな?
いや、でも今回は中の確認のみにしておこうか。
動物の生態も特徴も分からない状態で下手に触って毒を持っていたなんてことになっていたらしゃれにならない。
よし、今回は僕の調査を楽にするためにも彼女達に付いていくとしよう。
彼女達は僕に一緒に言って欲しいようだし、ありがたく付いて行かせてもらおうではないか。
フルアーマースネーククラスを狩れるならば、僕よりも強いだろうし、お言葉に甘えて背後に控えて楽させてもらおう。
この考えが間違っていて後々になって後悔することになるとは夢にも思わなかった僕であった。

「ちょっと準備してくるのでいいですか?」
「うむ、待ってやろう。私は寛大だからな。」
「ありがとうございます。」
「・・・どうしゅるべきか・・・」

老紳士が頭を抱えてるのを尻目に、僕はポシェットに回復薬代わりのメープルシロップとグリューネに教えてもらった殺菌と傷の治りを早くする葉っぱを包帯代わりに何枚か入れ、さらにはちょっとした保存食、もとい個人的に一番美味しかったアーマードボアの干し肉をいくつか入れて、準備を終えた。

「ええと、あなた方の洞穴探検に連れて行ってもらえるということですよね?
今日はよろしくお願いします。」

なんか良く分からないが連れて行ってもらうというのだから、礼儀として敬語で挨拶をしておいた。

「・・・まさか早速これほどの効果が出るとは・・・我ながら私は私が恐ろしいぞ!!」
「・・・くっ・・・お嬢様の魔力適正が予想以上に高かったのは誤算でごじゃった・・・」

こいつら人の話聞かないなぁと思いつつ。
ヘスペリオス洞穴へと進む僕達であった。あ、一応、漆黒も持って行こう。鈍器代わりには使えるし。

☆ ☆ ☆

「ふはははははっ!!
いねよ虫けらどもっ!!」
「しっ!!」

道中、当然見慣れない人間の姿と臭いを感じれば他の動物たちが襲ってくるのだが、それらをばったばったとなぎ倒す二人がいた。
老紳士の人、名をじいやと言うらしい、いやまず名ではないだろうがじいやと呼べといわれたのでじいやと呼んでいる彼は伊達に年を食っていないらしく、見た目の割にはかなりいい動きをする。
片刃のロングソードでばったばったと自分達に襲い掛かる動物を斬り殺していくのは壮観の一言。
素人目にもすごいと分かるほどの剣筋を見せてくれる。
素人なのでただすごいとしか言いようが無いのだが、もしも僕に剣の技術があれば特別光る才能のようなセンスは感じられないものの、長年の経験と努力で地道に培った技術による驚異的なまでの地力を持つ、まさに大地のような安定感を持つ剣舞と称したろう。
今まで見た冒険者の中でもダントツの腕前だ。
久しぶりにゴブリン式指標レベルで表すなら100越えは固い。

次に女性のほう。
名をエンデリアなんちゃらかんちゃらと言うらしいが、正直エンデリアの部分しか聞き取れなかった。
前口上が長すぎるために殆ど聞き流しちゃったために。
そんな状況で名前の部分だけ聞き取るという器用な真似など出来ない僕にとってはそれが精一杯だったのだ。
むしろ上出来だろう。
この女性もまたすごい。
何がすごいって、この程度の腕前で弱肉強食の世界によくも入ってこれたなという意味でのすごさだ。
確かに彼女、魔法の適正が高く、うらやましいことにさまざまな魔法を使う。
火や水、土や風といったありがちな属性の魔法はもちろんのこと雷とか光とか闇とか。
そんな感じの属性魔法も使いこなす。
きっとそれなりに天才なんじゃないだろうか?
今まで見た冒険者でも属性魔法を使うのはせいぜい二種類で多いというレベルだった。
いや、彼女のように僕に見せびらかしたがる気が無いから使わなかったとも言えるかも知れないが、とにかくバカスカと魔法を遠距離から撃ち続けるだけの馬鹿覚えの一つである。
しかし動物達は馬鹿じゃないので棒立ちでただ魔法を連射する固定砲台など最初は不意撃たれても殺されても他の仲間は学習し、避け始める。
背後から忍び寄って一気にがぶりと行くところを老紳士に助けられ、しかしそれに気づきもしないのはいかがなものだろうか?
いや、確かに固定砲台としてはそこそこ使えるのだろうが、せめて棒立ちはやめろと言いたい。
早い話、動きがてんで素人なのである。弱肉強食の世界で生き残れるような生物じゃない。
野犬ではなく、愛玩用として品種改良されたチワワのような温室育ちだ。
その辺の軽トラの運転経験しか無いおっさんがF1マシンに乗るようなものである。

「どうだ?
私の可憐かつしかし、激しい所作に惚れてしまったか?」
「いや、別に・・・」
「・・・これくらいではそうなびかぬか。まぁ良い。
いずれ私の凛々しさが分かるだろう。」

そんなの分かる日が来るのだろうか?
というかこのパーティで本当にリグレットホースとやらを倒しに行く気なのか?
正直、やめといたほうがいいといわざるを得ないほどの軟弱っぷりである。
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