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Ⅳ章 豊穣の森
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「へぇ、あれから釣竿がかなり売れたと。」
「そうなのです!というわけで、その原案を持って来てくれたお嬢さんにはただであげますよ。あれから改良もされてるので使い勝手や耐久性も増していますから今度はそれこそ年に一回のオーバーホールで十分に持つくらいです。前回は釣り糸として植物のツルを使うタイプですが、今回ははじまり――ではなく、豊饒の森に住むヨロイグモ・・・はもういませんでしたね。その上位種であるクモの糸を加工して使っているので、かなりの大物にも耐えられます。」
「ありがとう。ドワーフのお兄さん。で、だ。代わりといってはなんだけれど、いや、代わりでもなんでもないんだけど、ここでコレを買い取ってくれないかな?」
ドライアドの髪の毛。もといグリューネさんの髪の毛を渡す。
職人として有名なドワーフという種族のおっさんにとっては良い素材なんではないだろうか?
「ほう・・・これは・・・」
☆ ☆ ☆
ほくほくだ。
ホクホクすぎる。
一応魔獣の皮とかそういうのも持ってきたのだが、それもあわせてホクホクである。
家の修理用にクギも買ったし。
いっそのこと新設してしまおうか。
なんてことを考えながら街道を歩いてるとふと目に留まるものがある。
「とっとと歩けっ!のろまがっ!!」
「あうっ!」
金持ちっぽい人とその奴隷(少女)である。
そういえば奴隷もいたなぁ。
手荒くされた奴隷の少女には申し訳ないが、これもまた弱肉強食。
元日本人として助けたいとは思うものの、出会う奴隷一人一人救っていられるはずもなく。
お気の毒だが、せめて幸あれ。
そういえば奴隷。
こういう中世風奴隷ありのファンタジー世界では、えっちな奴隷として買われそうな少女を主人公が助けるイベントが主だが・・・それを思い出して閃いた。
何も奴隷はそういう使い方をするだけのもではない。
むしろこっちの方が本分であろう。
そう、『労働力』として。
懐も暖かいことだし、一人くらい試しに買うのもいい。
森の奥に家を作ると僕の臭いや気配だけではビビらない動物が多くなる。中型の肉食動物達だ。
大型になると探知範囲が増す上に、相手の力量を見る力も高いが中型だと中途半端に強く、小型とは違い臆病でありながら時に大胆な行動もする。
それら中型動物に家を荒らされるのを危惧して浅めの場所に家を構えるしか無いのだが、襲ってくる動物を跳ね除けることが出来る留守番役が居れば僕が狩りに出かけたり、街に買出しに行っても安心だ。
ちなみにグリューネは概ね家にいるけど・・・
森の生けとし生けるものの守護者、みたいな立ち位置なので森の生物に対しては余程のことが無い限り味方してくれない。
ので、ならば家の門番役を奴隷で間に合わせてしまおうっ!ということである。
奴隷を買う=その人の人生を買うことになるが、何。
必要なくなったら奴隷から開放して自由にしてしまえばいいのである。
日々、栄養満点の手作り三食、寝心地の良い寝台付き!
必要ならばヒノキっぽい木でも伐採して風呂も作ることをいとわん!!
それだけの待遇なら悪くはあるまいっ!!
なんという頭脳プレイ。
そして用が終われば開放してあげる!
なんて優しさっ!!
僕の半分は優しさで出来ているに違いないっ!!
「というわけで・・・奴隷を売ってるお店がどこにあるか聞きに来たんだけど・・・」
「・・・はい?」
さっきの釣竿屋(ちがうけれど。正確には金物屋。)に舞い戻ってきた。
「普通には売ってません。
亜人が多いから亜人受けが悪いので。」
「お兄さんも?」
「仮にも商売人ですから100パーセント悪いとはいいません。奴隷に身を落とすのは結局のところ、土地を治める貴族の能力の低さから来てるのですし・・・とはいえ個人的な心情で言えば奴隷なんて欲しがるのはクズに決まっています。」
「うぐ。別に奴隷として扱うんじゃないよ?
ただ僕の種族上の問題が・・・」
「・・・?」
ちょっとにらみを利かされたのでちょっと正直に述べてみる。
奴隷を使う一番の理由は普通の人だとタコの姿を見たらまず逃げられるんだよね。
家の留守を任せるほどの信頼に足り、なおかつそこそこ強い動物の攻撃を受け止めつつも反撃できる友達なんてそう都合よくできるはずもない。
ゆえに奴隷で間に合わせることをタコであることを伏せて伝えて見た。
「・・・ううむ。どっから見ても人間に見えますが・・・」
その場しのぎの苦しい嘘とでも思われたのか、余計に険しい雰囲気をかもし出す。
「そんなことないですよ。こんな感じに。」
スカートの下からタコ足をにゅるにゅると出して見せると、おじさんは少し驚いた様子を見せて、押し黙る。
「なるほど。亜人の中でも魔獣よりの魔人か。」
「・・・ええ。」
キリっとして、うなずいた。
なんかそういう空気だったので。
魔人って何?
魔獣よりの亜人て何さ?
グリューネも言ってたなそういえば。
「・・・だからといって・・・いや、まぁいいでしょう。」
ドワーフのお兄さんはそう言って不機嫌なオーラを収めてくれた。
「わざわざ聞きに来たということは、奴隷市場を見つけられなかったということですね?」
「はい。」
「・・・まぁそれは仕方ありません。先も言ったように亜人受けが悪いですから。」
亜人受けが悪いのは亜人の生活体系にあり、ちょっと前まではベターな亜人と人間の差別意識があったそうで、その影響がゆえにいまだ亜人が奴隷として入荷されるらしい。
入荷の原因は身売りや誘拐、犯罪における刑罰としてなど。
当然誘拐の場合は犯罪である。
が、亜人の場合は人間よりも野生動物よりの思考回路であり、子供であろうと死ぬ目にあっても、自身の力で切り抜けるべきという暗黙の了解――いや、美徳とされる価値観がある。
助けられるほうも助けるほうもそれはお互いに対する最大の侮蔑であるという価値観だ。
生き残れなければそれで終わり。
力が無いのが悪いのだ。という自然にすむ野生動物のような厳しい価値観。
当然ながら子供が小さければ親が守ることもあるが、例外も少なくは無い。しかしこの価値観は根強く、ゆえに誘拐したとしても報復にこられる可能性が低い。
それもあって情が深く、恨みを買う人間よりも亜人の方が商品として扱いやすいのだった。
亜人の方が体力的に強く、労働力として向いていたり、綺麗どころが多いというのもまた理由だ。
だけれども、当然ながら今では亜人の国と人間の国は同盟を結んでいる。
人間の国でたとえ合法的なものといえども亜人の奴隷の多い奴隷市場を亜人の国の人間が見ればどう思うかは推察するまでも無い。
あくまでも価値観の問題であって、人間に比べて特別非情というわけではないのだから。
そんなわけで僕が教えてもらったのは迷路のような裏路地を抜けて、30分だけ開催されるという奴隷市場の中でも随一を争う店舗らしい。
僕の希望に合う様な奴隷を求める場合、そこくらいしかないとの事。
☆ ☆ ☆
で、さっそく奴隷市場に来て見たのだが、予想以上に店内は綺麗で下手な飯屋よりも清潔なように思える。
空気は比べるまでも無く重いが。
当然奴隷が売られているので、檻に入れられた人たちを見ていくわけだが雰囲気の暗いこと暗いこと。明るくしろというのが無茶だが。
ちなみに格好は男の姿になっている。
もちろんせっかくなのでイケメンだ。
犯罪ではないが一般人に眉をひそめられたりとあまり良く思われないことは確からしいので、日ごろ使う姿を使うわけには行かない。
檻にはラベルが張ってあり、そこに彼女達の詳細が書かれている。
処女なのかとか、レベルや体形、歳とかスキルなんかもある。
が、これぞという奴隷は見つからない。
男はやはり少ない。少年は割合多く感じるものの、なんというか若く可愛いといえる外見の子ばかりだ。たまにワイルド系少年とか。
貴族の奥方とかが買うのだろうか?
適当な憶測を立てる。
もう、探すのも面倒だし、ここに30分フルにいたいとも思わない。
店員に聞こう。
「あの、すいません。」
「はいなんでしょう?」
見事な営業スマイル。
奴隷達の陰気な表情を見た後だと、ギャップでかなり良い人だと感じないことも無い。
むしろそれが目的かも。
目的の能力を持つ人を探してもらいたいことを告げると、店員は難しい顔をしてうなる。
「いないんですか?」
「い、いるにはいるのですが・・・いささか問題が。」
「とりあえず会わせてください。」
「はい、こちらです。倉庫に入れてある商品なのです。」
倉庫に、商品か。
不愉快だけど買いに来た僕が言えることじゃないなぁ。
自然界とはまた違った厳しさを見せてくれる場所だ。
人間のえぐみ、渋みってのを感じる。
なんてことはどうでもよくて。
「この少女が希望に添えるかと。」
と言って檻に被せてあった風呂敷を取ると、そこには白い髪に赤い目。
俗に言うアルビノ少女が居た。
歳は5歳にも満たないくらい?こんな小さいときからこんな場所に来てしまってお気の毒に。
1歳前後の僕が言うことでもないが。
顔の造詣は神様お手製なんじゃないか?と思わせるほどにかわいらしい。
色々疑問が沸くが、なぜこの子が売れないと考えたのだろうか。
一見問題は無いように思える。
表に出てた人よりも極端に生気が無い部分以外は。
「捕獲するさいに色々とあったらしく、まるで反応を示さないのです。
ここに来てもいまだ水すら飲まない有様。」
「は?」
それでどうやって生きてるの?
「こちらの手づから水を飲ませてるしだいで。
ただ徐々に衰弱の一途をたどっているのには違いないのです。」
なるほどね。
そんなもん売りに出したら信用が落ちる。
「それに、この娘を買い取った商人から詳しい話を聞いてみるとどうもこの娘、亜人の中では禁忌とされている同属殺しをした結果、心を壊す薬を飲まされたそうで・・・その治療も上手くいかず。しかし同属、どうも村単位の亜人を殺しつくしたそうで、その力のほどはお客様のご要望に沿うかと思われます。」
予想通りへヴィな人生を背負っている幼女である。
いや、幼女自身がへヴィなのか?
もしかしたら狂ってるキャラなのかもしれない。
で、商人の彼にとって無駄とは忌むべきものだろう。
これを見せたと言うことは何か僕に話があるはずなのだが。
「で、本題は?」
「・・・そうですね。回りくどい話はやめましょう。
私達は商売柄、魔力を測定する魔道具を持っています。
これは人間を亜人だと言ったり、亜人を人間だと言って売ってくる悪徳業者を跳ね除けるためでございます。」
そこまで聞かされれば普通は分かる。
「僕の魔力を見た・・・と?」
「はい、恐れながら。今までに無いほどの膨大な魔力、さぞや高名な魔法使いとお見受けしました。」
「・・・。」
「この少女の治療を頼めないかと考え、案内した次第です。」
「もしも治せると言ったら?」
「お好きな奴隷をお一つ。誰でもかまいません。
差し上げます。」
「ふぅん、そう。
ならこの少女を引き取るよ。」
「はっ・・・?
あ、いや、それは・・・しかし・・・」
おそらく彼の頭の中ではメリットとデメリットの計算をしているんだろうな。
それにしても魔法使いね。
そうだね、なれるものならなりたいね。
エンデのようにトーテムファイアーとか使いたい。
なぜ天は僕にエアスラッシュと言う地味な、目に見えない魔法を与えたのだろうか。
どうせなら火の魔法とか水とか、目で見て分かるものが良かった。
闇とか雷とかさ。
「・・・分かりました。差し上げます。」
「え、いいの?」
「はい、その代わりと言ってはなんですが一つ条件があるのです。」
条件、それは簡単だった。
どうも奴隷の中には他にも病気で使い物にならない商品とやらがたくさんあるらしく、それらの在庫を片付けるためにも効果の高い魔法薬が欲しいそうな。
それらをくれという。
メープルシロップでいいかな?
うん、いいや。
何も僕から魔法使いだなんて一言も言ってないんだし、勝手に勘違いした彼が悪い。
僕は丸投げした。
どうせここには二度と来ないし、これからはこの姿を使うことも無い。
問題ない。
魔力を測定するという魔道具で個人が特定される場合は困るけれど、いざとなれば買出しは他の街を使えばいいのである。
こうして僕は留守番役をただで手に入れたのだった。
メープルシロップで治る・・・よね?
檻から出されても一切動かない彼女を見て、ちょっと不安になる僕である。
あとは調味料や小麦粉などの森でそろえることの出来ない、食材をできるだけ買って終わりである。
「奴隷の首輪はどうするかな・・・はずすわけにも行かないし・・・」
彼女は心を壊されたと言うが、それを治したとたんにこっちに襲い掛かってくるなんてことはないだろうか?
ちょっと怖くてはずせない。
かといってつけたままだと町人の視線が痛すぎる。
となると・・・
マフラーでも買うか?
でも今は暑い。
リボンでも巻いておこうかな。
そのことを店員に告げると、そこを気にする人もいるらしく首輪をチョーカーに変更できると言う。
チョーカーのデザインはオーダーメイドで、チョーカーをつけてるからといってパッと見では奴隷かは分からないという仕様。
ならばということでそれを付けて貰った。
少女が動こうとしないので、少女をだっこしつつ森に帰る僕だった。
途中水を飲ませるのがすんごく面倒くさかったです。
「そうなのです!というわけで、その原案を持って来てくれたお嬢さんにはただであげますよ。あれから改良もされてるので使い勝手や耐久性も増していますから今度はそれこそ年に一回のオーバーホールで十分に持つくらいです。前回は釣り糸として植物のツルを使うタイプですが、今回ははじまり――ではなく、豊饒の森に住むヨロイグモ・・・はもういませんでしたね。その上位種であるクモの糸を加工して使っているので、かなりの大物にも耐えられます。」
「ありがとう。ドワーフのお兄さん。で、だ。代わりといってはなんだけれど、いや、代わりでもなんでもないんだけど、ここでコレを買い取ってくれないかな?」
ドライアドの髪の毛。もといグリューネさんの髪の毛を渡す。
職人として有名なドワーフという種族のおっさんにとっては良い素材なんではないだろうか?
「ほう・・・これは・・・」
☆ ☆ ☆
ほくほくだ。
ホクホクすぎる。
一応魔獣の皮とかそういうのも持ってきたのだが、それもあわせてホクホクである。
家の修理用にクギも買ったし。
いっそのこと新設してしまおうか。
なんてことを考えながら街道を歩いてるとふと目に留まるものがある。
「とっとと歩けっ!のろまがっ!!」
「あうっ!」
金持ちっぽい人とその奴隷(少女)である。
そういえば奴隷もいたなぁ。
手荒くされた奴隷の少女には申し訳ないが、これもまた弱肉強食。
元日本人として助けたいとは思うものの、出会う奴隷一人一人救っていられるはずもなく。
お気の毒だが、せめて幸あれ。
そういえば奴隷。
こういう中世風奴隷ありのファンタジー世界では、えっちな奴隷として買われそうな少女を主人公が助けるイベントが主だが・・・それを思い出して閃いた。
何も奴隷はそういう使い方をするだけのもではない。
むしろこっちの方が本分であろう。
そう、『労働力』として。
懐も暖かいことだし、一人くらい試しに買うのもいい。
森の奥に家を作ると僕の臭いや気配だけではビビらない動物が多くなる。中型の肉食動物達だ。
大型になると探知範囲が増す上に、相手の力量を見る力も高いが中型だと中途半端に強く、小型とは違い臆病でありながら時に大胆な行動もする。
それら中型動物に家を荒らされるのを危惧して浅めの場所に家を構えるしか無いのだが、襲ってくる動物を跳ね除けることが出来る留守番役が居れば僕が狩りに出かけたり、街に買出しに行っても安心だ。
ちなみにグリューネは概ね家にいるけど・・・
森の生けとし生けるものの守護者、みたいな立ち位置なので森の生物に対しては余程のことが無い限り味方してくれない。
ので、ならば家の門番役を奴隷で間に合わせてしまおうっ!ということである。
奴隷を買う=その人の人生を買うことになるが、何。
必要なくなったら奴隷から開放して自由にしてしまえばいいのである。
日々、栄養満点の手作り三食、寝心地の良い寝台付き!
必要ならばヒノキっぽい木でも伐採して風呂も作ることをいとわん!!
それだけの待遇なら悪くはあるまいっ!!
なんという頭脳プレイ。
そして用が終われば開放してあげる!
なんて優しさっ!!
僕の半分は優しさで出来ているに違いないっ!!
「というわけで・・・奴隷を売ってるお店がどこにあるか聞きに来たんだけど・・・」
「・・・はい?」
さっきの釣竿屋(ちがうけれど。正確には金物屋。)に舞い戻ってきた。
「普通には売ってません。
亜人が多いから亜人受けが悪いので。」
「お兄さんも?」
「仮にも商売人ですから100パーセント悪いとはいいません。奴隷に身を落とすのは結局のところ、土地を治める貴族の能力の低さから来てるのですし・・・とはいえ個人的な心情で言えば奴隷なんて欲しがるのはクズに決まっています。」
「うぐ。別に奴隷として扱うんじゃないよ?
ただ僕の種族上の問題が・・・」
「・・・?」
ちょっとにらみを利かされたのでちょっと正直に述べてみる。
奴隷を使う一番の理由は普通の人だとタコの姿を見たらまず逃げられるんだよね。
家の留守を任せるほどの信頼に足り、なおかつそこそこ強い動物の攻撃を受け止めつつも反撃できる友達なんてそう都合よくできるはずもない。
ゆえに奴隷で間に合わせることをタコであることを伏せて伝えて見た。
「・・・ううむ。どっから見ても人間に見えますが・・・」
その場しのぎの苦しい嘘とでも思われたのか、余計に険しい雰囲気をかもし出す。
「そんなことないですよ。こんな感じに。」
スカートの下からタコ足をにゅるにゅると出して見せると、おじさんは少し驚いた様子を見せて、押し黙る。
「なるほど。亜人の中でも魔獣よりの魔人か。」
「・・・ええ。」
キリっとして、うなずいた。
なんかそういう空気だったので。
魔人って何?
魔獣よりの亜人て何さ?
グリューネも言ってたなそういえば。
「・・・だからといって・・・いや、まぁいいでしょう。」
ドワーフのお兄さんはそう言って不機嫌なオーラを収めてくれた。
「わざわざ聞きに来たということは、奴隷市場を見つけられなかったということですね?」
「はい。」
「・・・まぁそれは仕方ありません。先も言ったように亜人受けが悪いですから。」
亜人受けが悪いのは亜人の生活体系にあり、ちょっと前まではベターな亜人と人間の差別意識があったそうで、その影響がゆえにいまだ亜人が奴隷として入荷されるらしい。
入荷の原因は身売りや誘拐、犯罪における刑罰としてなど。
当然誘拐の場合は犯罪である。
が、亜人の場合は人間よりも野生動物よりの思考回路であり、子供であろうと死ぬ目にあっても、自身の力で切り抜けるべきという暗黙の了解――いや、美徳とされる価値観がある。
助けられるほうも助けるほうもそれはお互いに対する最大の侮蔑であるという価値観だ。
生き残れなければそれで終わり。
力が無いのが悪いのだ。という自然にすむ野生動物のような厳しい価値観。
当然ながら子供が小さければ親が守ることもあるが、例外も少なくは無い。しかしこの価値観は根強く、ゆえに誘拐したとしても報復にこられる可能性が低い。
それもあって情が深く、恨みを買う人間よりも亜人の方が商品として扱いやすいのだった。
亜人の方が体力的に強く、労働力として向いていたり、綺麗どころが多いというのもまた理由だ。
だけれども、当然ながら今では亜人の国と人間の国は同盟を結んでいる。
人間の国でたとえ合法的なものといえども亜人の奴隷の多い奴隷市場を亜人の国の人間が見ればどう思うかは推察するまでも無い。
あくまでも価値観の問題であって、人間に比べて特別非情というわけではないのだから。
そんなわけで僕が教えてもらったのは迷路のような裏路地を抜けて、30分だけ開催されるという奴隷市場の中でも随一を争う店舗らしい。
僕の希望に合う様な奴隷を求める場合、そこくらいしかないとの事。
☆ ☆ ☆
で、さっそく奴隷市場に来て見たのだが、予想以上に店内は綺麗で下手な飯屋よりも清潔なように思える。
空気は比べるまでも無く重いが。
当然奴隷が売られているので、檻に入れられた人たちを見ていくわけだが雰囲気の暗いこと暗いこと。明るくしろというのが無茶だが。
ちなみに格好は男の姿になっている。
もちろんせっかくなのでイケメンだ。
犯罪ではないが一般人に眉をひそめられたりとあまり良く思われないことは確からしいので、日ごろ使う姿を使うわけには行かない。
檻にはラベルが張ってあり、そこに彼女達の詳細が書かれている。
処女なのかとか、レベルや体形、歳とかスキルなんかもある。
が、これぞという奴隷は見つからない。
男はやはり少ない。少年は割合多く感じるものの、なんというか若く可愛いといえる外見の子ばかりだ。たまにワイルド系少年とか。
貴族の奥方とかが買うのだろうか?
適当な憶測を立てる。
もう、探すのも面倒だし、ここに30分フルにいたいとも思わない。
店員に聞こう。
「あの、すいません。」
「はいなんでしょう?」
見事な営業スマイル。
奴隷達の陰気な表情を見た後だと、ギャップでかなり良い人だと感じないことも無い。
むしろそれが目的かも。
目的の能力を持つ人を探してもらいたいことを告げると、店員は難しい顔をしてうなる。
「いないんですか?」
「い、いるにはいるのですが・・・いささか問題が。」
「とりあえず会わせてください。」
「はい、こちらです。倉庫に入れてある商品なのです。」
倉庫に、商品か。
不愉快だけど買いに来た僕が言えることじゃないなぁ。
自然界とはまた違った厳しさを見せてくれる場所だ。
人間のえぐみ、渋みってのを感じる。
なんてことはどうでもよくて。
「この少女が希望に添えるかと。」
と言って檻に被せてあった風呂敷を取ると、そこには白い髪に赤い目。
俗に言うアルビノ少女が居た。
歳は5歳にも満たないくらい?こんな小さいときからこんな場所に来てしまってお気の毒に。
1歳前後の僕が言うことでもないが。
顔の造詣は神様お手製なんじゃないか?と思わせるほどにかわいらしい。
色々疑問が沸くが、なぜこの子が売れないと考えたのだろうか。
一見問題は無いように思える。
表に出てた人よりも極端に生気が無い部分以外は。
「捕獲するさいに色々とあったらしく、まるで反応を示さないのです。
ここに来てもいまだ水すら飲まない有様。」
「は?」
それでどうやって生きてるの?
「こちらの手づから水を飲ませてるしだいで。
ただ徐々に衰弱の一途をたどっているのには違いないのです。」
なるほどね。
そんなもん売りに出したら信用が落ちる。
「それに、この娘を買い取った商人から詳しい話を聞いてみるとどうもこの娘、亜人の中では禁忌とされている同属殺しをした結果、心を壊す薬を飲まされたそうで・・・その治療も上手くいかず。しかし同属、どうも村単位の亜人を殺しつくしたそうで、その力のほどはお客様のご要望に沿うかと思われます。」
予想通りへヴィな人生を背負っている幼女である。
いや、幼女自身がへヴィなのか?
もしかしたら狂ってるキャラなのかもしれない。
で、商人の彼にとって無駄とは忌むべきものだろう。
これを見せたと言うことは何か僕に話があるはずなのだが。
「で、本題は?」
「・・・そうですね。回りくどい話はやめましょう。
私達は商売柄、魔力を測定する魔道具を持っています。
これは人間を亜人だと言ったり、亜人を人間だと言って売ってくる悪徳業者を跳ね除けるためでございます。」
そこまで聞かされれば普通は分かる。
「僕の魔力を見た・・・と?」
「はい、恐れながら。今までに無いほどの膨大な魔力、さぞや高名な魔法使いとお見受けしました。」
「・・・。」
「この少女の治療を頼めないかと考え、案内した次第です。」
「もしも治せると言ったら?」
「お好きな奴隷をお一つ。誰でもかまいません。
差し上げます。」
「ふぅん、そう。
ならこの少女を引き取るよ。」
「はっ・・・?
あ、いや、それは・・・しかし・・・」
おそらく彼の頭の中ではメリットとデメリットの計算をしているんだろうな。
それにしても魔法使いね。
そうだね、なれるものならなりたいね。
エンデのようにトーテムファイアーとか使いたい。
なぜ天は僕にエアスラッシュと言う地味な、目に見えない魔法を与えたのだろうか。
どうせなら火の魔法とか水とか、目で見て分かるものが良かった。
闇とか雷とかさ。
「・・・分かりました。差し上げます。」
「え、いいの?」
「はい、その代わりと言ってはなんですが一つ条件があるのです。」
条件、それは簡単だった。
どうも奴隷の中には他にも病気で使い物にならない商品とやらがたくさんあるらしく、それらの在庫を片付けるためにも効果の高い魔法薬が欲しいそうな。
それらをくれという。
メープルシロップでいいかな?
うん、いいや。
何も僕から魔法使いだなんて一言も言ってないんだし、勝手に勘違いした彼が悪い。
僕は丸投げした。
どうせここには二度と来ないし、これからはこの姿を使うことも無い。
問題ない。
魔力を測定するという魔道具で個人が特定される場合は困るけれど、いざとなれば買出しは他の街を使えばいいのである。
こうして僕は留守番役をただで手に入れたのだった。
メープルシロップで治る・・・よね?
檻から出されても一切動かない彼女を見て、ちょっと不安になる僕である。
あとは調味料や小麦粉などの森でそろえることの出来ない、食材をできるだけ買って終わりである。
「奴隷の首輪はどうするかな・・・はずすわけにも行かないし・・・」
彼女は心を壊されたと言うが、それを治したとたんにこっちに襲い掛かってくるなんてことはないだろうか?
ちょっと怖くてはずせない。
かといってつけたままだと町人の視線が痛すぎる。
となると・・・
マフラーでも買うか?
でも今は暑い。
リボンでも巻いておこうかな。
そのことを店員に告げると、そこを気にする人もいるらしく首輪をチョーカーに変更できると言う。
チョーカーのデザインはオーダーメイドで、チョーカーをつけてるからといってパッと見では奴隷かは分からないという仕様。
ならばということでそれを付けて貰った。
少女が動こうとしないので、少女をだっこしつつ森に帰る僕だった。
途中水を飲ませるのがすんごく面倒くさかったです。
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この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
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