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Ⅰ章 予兆
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流石に残り寿命20日ちょいで人類の間引きは無理だろう。
罰として与えられた人類の間引き行為のサボりを防止するためのものとおもわれる。
実は転生時に声の主から『しっかりとな。やり切った後ならば好きに生きることを許す。それが免罪であり報酬でもある。そして、罰を否定し罪人ならざる行動するならば長くはないと心得よ』とか言われていた。
なんのごっちゃと変わらずの言葉の足らなさに首を傾げながら転生をしたのだが、恐らくはこの寿命のことを言っているのだろう。
人類の間引きを開始すれば残り寿命表示は増えるか消えるかするのではないだろうか。
つまり魔王クリエイターを使ってゼルエルちゃんを創り出したのは間引き行為をする前の練習である。
そうしていよいよ創り出すのが、ヨトウムシを使っての魔王作成だ。
僕はいちいちヨトウムシを摘んで駆除するのが面倒なためにゼルエルちゃんに任せているが、人口密度が増えすぎたこの世界ではヨトウムシといえど毒のない生物であれば全て食材となる。もとい他の家で捕獲されたヨトウムシは纏めて専用のヨトウムシ保管庫に集められる。
うぞうぞ動き回るヨトウムシを見て、初めは怖気が走ったものだが今や慣れてしまってなんとも思わない。
それどころか、こいつらが一掴みで5000から1万円ほどの価値で売られるのだから現代ならば高級食材レベルとなる。
ここから一掴み、ヨトウムシを回収。もともとの量が多いため、少し掠め取った程度では分からない。
このヨトウムシを使っての魔王クリエイター発動だ。
まず魔王クリエイターの材料部分に複数のヨトウムシを選択。そうすると蠢いてたヨトウムシはピクリとも動かなくなる。
そこから様々な能力を操作して出来上がったのがこちら。
名前 魔王ヨトウガ
生物強度 21
スキル 繁殖加速 食性変化 巨大化 膂力増大 毒鱗粉 頑強 再生 超フェロモン
となる。
スキル項目に関しては何となく分かるだろうから今回は説明を割愛させて貰うが、生物強度は別である。
この生物強度というのは人間を10として比較した際の「生き残りやすさ」を顕した数値で、単純な生き物の戦闘力とは別だ。
例えるならゴキブリの生物強度は12だが、ゴキブリが人間を殺せるかと言うとそうではない。人間を捕食し得る熊などは4しかない。ゴキブリの3分の1だ。
つまりこの魔王ヨトウガと名付けた生物は人間の倍以上、繁栄しやすいということでさらには食性変化と言うスキルがある。
これは文字通り、食性を変化させる能力で、本来ならば草食性のヨトウムシであるが肉食、それも人間のみを捕食する人間にとっての天敵として生み出した、試作魔王第一号である。あ、ゼルエルちゃんは試作ペット一号なのでカウントしません。
「さあ、いっといで。僕の長生きのためにも」
そんなことを呟き、強制的に成虫である蛾に変化させた彼らを解き放つ。
その大きさは巨大化スキルにより2メートル近く。
あの大きさで、良く飛べるなぁとか、昆虫が巨大化すると肺を持たない昆虫は酸欠で生きていけないとか色々問題があるらしいことを頭の片隅で疑問に思いつつ。
「エルル、朝ごはんよ。畑作業は切り上げて、一度ご飯を食べなさい」
僕を呼びに来た母に返事をした。
☆ ☆ ☆
転生した元日本人、エルルから飛び立った魔王ヨトウガの群れは創造主から与えられた命令を果たすべく、エルルのいた農業国家プラベリアから北上して、千キロ地点にいた。
エルルの命令は以下の通り。
・現在いる国であるプラベリアから北上したところにある国、サドラン帝国を目指して人間を間引きながら北上し続けろ。
・さすがに良心が咎めるために捕食対象は子供を避けること。
・ただでさえ多い人間によって環境資源がボロボロであるために人間以外は捕食しないこと。
の三点である。
それ以外は個体ごとの判断に任せ、プラベリア以外の国々の人間を間引いて回れとのこと。
それを踏まえて見つけたのはサドラン帝国に向かう商人達だ。屈強な護衛を複数引き連れての旅路。本来ならばなんの危険も怪我もなくサドラン帝国にたどり着いたであろうに。不運なことに人間を獲物とする天敵に見つかってしまった。
ゆえに最初の犠牲者は音もなく一人の見張りが捕らえられた。
「うわぁっ!?なんだっ?なにがっ!?」
急に体が浮いて驚く見張りの男。それに気づいて周りの護衛達も殺気立ち、見張りの男を助けようと声の方向を見て絶句した。
自らの知識にない巨大な蛾が仲間の1人を抱えて飛んで行ったからだ。
いや、それだけではない。
この世界では人類が地球の比ではないほどに増えすぎたために今や天敵たりえる猛獣のような生物すら食料として狩り尽くされ、むしろそういった猛獣類は危険であると言う理由も相まってほぼほぼ絶滅していた。大型肉食獣の類はそれこそ過去の遺物レベルで存在しないものであり、護衛達を用意した理由はそうした大型の肉食獣よりも食料に困って盗賊化した人達の相手をすることを見据えてのことだった。
少なくとも、目の前の巨大生物を相手する想定はかけらも有りはしなかったのだ。
ゆえに、気づけなかった。巨大蛾は1匹だけではなく、商人を含めて護衛達全てを1匹つづ相手にしても余りあるほどにいることを。
「ぎゅああああああゃあっ!?いてぇっ!いでぇっ!いでぇええおゆおぉっ?!」
最初に捕まった見張りは目の前で捕食される。本来、蛾に限らず、蝶なども肉食の種は少ない。
が、魔王クリエイターによって改造された魔王ヨトウガ達は肉食かつ、人間を食べられるようになっており大きく発達した顎で捕まえた人間を噛み切り始める。
それを見て、仲間の1人が剣を抜いて斬りかかるが、それはヒラリと躱されそのまま空へ飛んでいってしまった。
「くそったれ!デイビスを返しやがれっ!」
「よせっ!もう間に合わない。それより他にいない…っがああっ?!」
「ユーゴーっ!?くそっ!おらぁっ!!」
ユーゴーと呼ばれたリーダーらしき男がもう1匹の魔王ヨトウガによって体当たりされ吹き飛ぶ。
それに対して体当たりしてきた新手の魔王ヨトウガに今度こそと剣をぶち当てる仲間の男。
しかし。
「ぶわっ?!なんだこ…あがっ?」
体に纏う大量の鱗粉で刃が立たずに流され、代わりに鱗粉が大量に舞ってそれが体に纏わり付く。
スキルの毒鱗粉が効果を発揮した。
毒と言っても様々な毒があり、彼ら魔王ヨトウガ達の毒は麻痺毒である。
麻痺によって動けなくなった獲物は普通に食べられるよりも更なる悲惨な結末が待っている。
「くそ…なにをっ…きもちわりぃ、卵を産み付けてやがるのか?」
麻痺に苦しみながらも男が魔王ヨトウガの行動を見ていると、麻痺によって動けなくなった自らの体に卵を産み付け始めた。
ハチの中には殺すのではなく、生きたまま動けなくする毒を持ち、獲物を動けなくしてから産卵用の巣穴に持ち帰り卵を産みつけて蓋をする種がいると言う。
彼ら魔王ヨトウガは巣穴に持ち帰りはしないものの、比較的人間にやられ易い幼虫を育成するための能力を持っていた。スキル繁殖加速があるため、成長速度は約1日で成虫になれるほど。かつ餌の量は1人の人間で複数匹が成虫になれる。
恐ろしい人類の天敵である。
「だったら魔法でどうだっ!ファイアバレット!!」
炎の塊が護衛の1人から打ち出され、それが着弾、爆発した。
この世界では魔法は一般的で、科学技術は魔法と科学の融合による魔法科学、略して魔科学と称され、生活に密接に関与している。
護衛の1人はそんな魔科学から生み出された攻撃用の魔科学武器を使用しての攻撃を繰り出したのだ。が。
いかんせん。相手が悪すぎた。
本来柔らかいはずの蛾の体であるが、スキル頑健によって魔王ヨトウガの体は非常に
耐久性が高くなっている。もといちょっとした魔法や物理的衝撃で致命傷を与えることはできない。
とは言え、かなり性能の良い魔科学武器を使用したためか魔王ヨトウガの脚を一本吹き飛ばすことができた。
「よしっ!これならいけ…っ!?」
しかし、魔王の名を冠する彼らがそれだけで終わるはずもなし。
スキル再生により、吹き飛んだ傷口からは血が止まり、新たな脚が生えるための芽のようなものが生えだす。すぐさま生えるほどではないものの、1週間ほどで元どおりになりそうだ。
何度も食らわせれば仕留められるかもしれないと言う期待が薄れる。
さらには今さらになって1匹2匹ではないことに気づいた魔法使いの男。
空を見れば、まだ数10匹の魔王ヨトウガがいるではないか。
「…もう、終わりだぁ…」
彼らの末路は語るまでもない。
罰として与えられた人類の間引き行為のサボりを防止するためのものとおもわれる。
実は転生時に声の主から『しっかりとな。やり切った後ならば好きに生きることを許す。それが免罪であり報酬でもある。そして、罰を否定し罪人ならざる行動するならば長くはないと心得よ』とか言われていた。
なんのごっちゃと変わらずの言葉の足らなさに首を傾げながら転生をしたのだが、恐らくはこの寿命のことを言っているのだろう。
人類の間引きを開始すれば残り寿命表示は増えるか消えるかするのではないだろうか。
つまり魔王クリエイターを使ってゼルエルちゃんを創り出したのは間引き行為をする前の練習である。
そうしていよいよ創り出すのが、ヨトウムシを使っての魔王作成だ。
僕はいちいちヨトウムシを摘んで駆除するのが面倒なためにゼルエルちゃんに任せているが、人口密度が増えすぎたこの世界ではヨトウムシといえど毒のない生物であれば全て食材となる。もとい他の家で捕獲されたヨトウムシは纏めて専用のヨトウムシ保管庫に集められる。
うぞうぞ動き回るヨトウムシを見て、初めは怖気が走ったものだが今や慣れてしまってなんとも思わない。
それどころか、こいつらが一掴みで5000から1万円ほどの価値で売られるのだから現代ならば高級食材レベルとなる。
ここから一掴み、ヨトウムシを回収。もともとの量が多いため、少し掠め取った程度では分からない。
このヨトウムシを使っての魔王クリエイター発動だ。
まず魔王クリエイターの材料部分に複数のヨトウムシを選択。そうすると蠢いてたヨトウムシはピクリとも動かなくなる。
そこから様々な能力を操作して出来上がったのがこちら。
名前 魔王ヨトウガ
生物強度 21
スキル 繁殖加速 食性変化 巨大化 膂力増大 毒鱗粉 頑強 再生 超フェロモン
となる。
スキル項目に関しては何となく分かるだろうから今回は説明を割愛させて貰うが、生物強度は別である。
この生物強度というのは人間を10として比較した際の「生き残りやすさ」を顕した数値で、単純な生き物の戦闘力とは別だ。
例えるならゴキブリの生物強度は12だが、ゴキブリが人間を殺せるかと言うとそうではない。人間を捕食し得る熊などは4しかない。ゴキブリの3分の1だ。
つまりこの魔王ヨトウガと名付けた生物は人間の倍以上、繁栄しやすいということでさらには食性変化と言うスキルがある。
これは文字通り、食性を変化させる能力で、本来ならば草食性のヨトウムシであるが肉食、それも人間のみを捕食する人間にとっての天敵として生み出した、試作魔王第一号である。あ、ゼルエルちゃんは試作ペット一号なのでカウントしません。
「さあ、いっといで。僕の長生きのためにも」
そんなことを呟き、強制的に成虫である蛾に変化させた彼らを解き放つ。
その大きさは巨大化スキルにより2メートル近く。
あの大きさで、良く飛べるなぁとか、昆虫が巨大化すると肺を持たない昆虫は酸欠で生きていけないとか色々問題があるらしいことを頭の片隅で疑問に思いつつ。
「エルル、朝ごはんよ。畑作業は切り上げて、一度ご飯を食べなさい」
僕を呼びに来た母に返事をした。
☆ ☆ ☆
転生した元日本人、エルルから飛び立った魔王ヨトウガの群れは創造主から与えられた命令を果たすべく、エルルのいた農業国家プラベリアから北上して、千キロ地点にいた。
エルルの命令は以下の通り。
・現在いる国であるプラベリアから北上したところにある国、サドラン帝国を目指して人間を間引きながら北上し続けろ。
・さすがに良心が咎めるために捕食対象は子供を避けること。
・ただでさえ多い人間によって環境資源がボロボロであるために人間以外は捕食しないこと。
の三点である。
それ以外は個体ごとの判断に任せ、プラベリア以外の国々の人間を間引いて回れとのこと。
それを踏まえて見つけたのはサドラン帝国に向かう商人達だ。屈強な護衛を複数引き連れての旅路。本来ならばなんの危険も怪我もなくサドラン帝国にたどり着いたであろうに。不運なことに人間を獲物とする天敵に見つかってしまった。
ゆえに最初の犠牲者は音もなく一人の見張りが捕らえられた。
「うわぁっ!?なんだっ?なにがっ!?」
急に体が浮いて驚く見張りの男。それに気づいて周りの護衛達も殺気立ち、見張りの男を助けようと声の方向を見て絶句した。
自らの知識にない巨大な蛾が仲間の1人を抱えて飛んで行ったからだ。
いや、それだけではない。
この世界では人類が地球の比ではないほどに増えすぎたために今や天敵たりえる猛獣のような生物すら食料として狩り尽くされ、むしろそういった猛獣類は危険であると言う理由も相まってほぼほぼ絶滅していた。大型肉食獣の類はそれこそ過去の遺物レベルで存在しないものであり、護衛達を用意した理由はそうした大型の肉食獣よりも食料に困って盗賊化した人達の相手をすることを見据えてのことだった。
少なくとも、目の前の巨大生物を相手する想定はかけらも有りはしなかったのだ。
ゆえに、気づけなかった。巨大蛾は1匹だけではなく、商人を含めて護衛達全てを1匹つづ相手にしても余りあるほどにいることを。
「ぎゅああああああゃあっ!?いてぇっ!いでぇっ!いでぇええおゆおぉっ?!」
最初に捕まった見張りは目の前で捕食される。本来、蛾に限らず、蝶なども肉食の種は少ない。
が、魔王クリエイターによって改造された魔王ヨトウガ達は肉食かつ、人間を食べられるようになっており大きく発達した顎で捕まえた人間を噛み切り始める。
それを見て、仲間の1人が剣を抜いて斬りかかるが、それはヒラリと躱されそのまま空へ飛んでいってしまった。
「くそったれ!デイビスを返しやがれっ!」
「よせっ!もう間に合わない。それより他にいない…っがああっ?!」
「ユーゴーっ!?くそっ!おらぁっ!!」
ユーゴーと呼ばれたリーダーらしき男がもう1匹の魔王ヨトウガによって体当たりされ吹き飛ぶ。
それに対して体当たりしてきた新手の魔王ヨトウガに今度こそと剣をぶち当てる仲間の男。
しかし。
「ぶわっ?!なんだこ…あがっ?」
体に纏う大量の鱗粉で刃が立たずに流され、代わりに鱗粉が大量に舞ってそれが体に纏わり付く。
スキルの毒鱗粉が効果を発揮した。
毒と言っても様々な毒があり、彼ら魔王ヨトウガ達の毒は麻痺毒である。
麻痺によって動けなくなった獲物は普通に食べられるよりも更なる悲惨な結末が待っている。
「くそ…なにをっ…きもちわりぃ、卵を産み付けてやがるのか?」
麻痺に苦しみながらも男が魔王ヨトウガの行動を見ていると、麻痺によって動けなくなった自らの体に卵を産み付け始めた。
ハチの中には殺すのではなく、生きたまま動けなくする毒を持ち、獲物を動けなくしてから産卵用の巣穴に持ち帰り卵を産みつけて蓋をする種がいると言う。
彼ら魔王ヨトウガは巣穴に持ち帰りはしないものの、比較的人間にやられ易い幼虫を育成するための能力を持っていた。スキル繁殖加速があるため、成長速度は約1日で成虫になれるほど。かつ餌の量は1人の人間で複数匹が成虫になれる。
恐ろしい人類の天敵である。
「だったら魔法でどうだっ!ファイアバレット!!」
炎の塊が護衛の1人から打ち出され、それが着弾、爆発した。
この世界では魔法は一般的で、科学技術は魔法と科学の融合による魔法科学、略して魔科学と称され、生活に密接に関与している。
護衛の1人はそんな魔科学から生み出された攻撃用の魔科学武器を使用しての攻撃を繰り出したのだ。が。
いかんせん。相手が悪すぎた。
本来柔らかいはずの蛾の体であるが、スキル頑健によって魔王ヨトウガの体は非常に
耐久性が高くなっている。もといちょっとした魔法や物理的衝撃で致命傷を与えることはできない。
とは言え、かなり性能の良い魔科学武器を使用したためか魔王ヨトウガの脚を一本吹き飛ばすことができた。
「よしっ!これならいけ…っ!?」
しかし、魔王の名を冠する彼らがそれだけで終わるはずもなし。
スキル再生により、吹き飛んだ傷口からは血が止まり、新たな脚が生えるための芽のようなものが生えだす。すぐさま生えるほどではないものの、1週間ほどで元どおりになりそうだ。
何度も食らわせれば仕留められるかもしれないと言う期待が薄れる。
さらには今さらになって1匹2匹ではないことに気づいた魔法使いの男。
空を見れば、まだ数10匹の魔王ヨトウガがいるではないか。
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