魔王クリエイター

百合之花

文字の大きさ
5 / 132
Ⅰ章 予兆

5

しおりを挟む
そもそもとして、そんな行為が近所で起きていれば止めてやろうと言うのが人情というものだ。
人類の間引きをしている僕が人情を語ろうというのはヘソで茶を沸かしかねないふざけた言い分ではあるが、ほら、超常の存在に脅迫されてのことだから。やむを得ないというか、重ねて言うけど、別に僕がやらなくても別の人間、もしくは何かに依頼されるだけだし。それなら平和的な元日本人がやる方がまだ良い……はず?多分。

閑話休題。
話を戻すが、リアちゃんの母親の酷さを見れば誰もが見兼ねて説教の一つでも喰らわせてやろうと考える。が、彼女に下手に物申せない理由があった。
それは彼女の名前から察せる。
彼女の名前はレムザ・ホホイと言うのだが、このホホイと言う家名が問題だ。

この世界では日本のように誰もが家名を持つし、なんならミドルネームもある。名前を複雑にしないと人口が沢山なこの世界では、同姓同名が沢山出てきてしまうために。
それらの名前は重複することも珍しくない。なにせ人口が多いからね。
が、ホホイと言う名は重複しない。
何故ならこの辺境の領主の家名だからである。

そう、リアちゃんの母親であるレムザは貴族令嬢なのだ。
しかもこのホホイ家。あまり評判が良くない。ハッキリそうだと分かるようだと沢山の人々によって物量的にアレされてしまうので貴族だからとなんでもかんでも無茶が通るわけではないため、あそこは悪徳領主だと確定するほどの不祥事はない…かと言って良い噂を聞く訳でもない。レムザ・ホホイを見ればさもありなん。
むしろ悪い噂を良く聞く。逆に言うと噂レベルでしかないのだが、その噂に一つ。民衆が恐れるものがある。

「レムザに睨まれたらここでは生きていけない」

という噂だ。もちろんその噂に明確な証拠はない。が、噂話が立つに足る、なんらかの事件やら不可解な点が見られたからこそそんな噂話が出たと考えられる。そしてそれを恐れてかこの辺境で明確に彼女に逆らう人間はいない。

重ねて言うが領主だからと好き勝手にできるわけではない。好き勝手にはできないが、噂程度で反逆できるほど軽い存在でもない。
ついでに言えば、ある程度の悪いことならやってもみ消すくらいは出来なくもないと言うことだ。

タチの悪いのが彼女は悪辣ではあるものの、別に犯罪行為にふける訳ではない。近所の鼻につく高慢ちきな美人という立ち位置でしかないために、過剰にああだこうだと言うほどではないところがまた、いやらしい。
いっそのこと犯罪でも犯してくれれば即座に追放ないしは牢屋に打ち込めるものを。とはうちの反対側に住んでいるちょっと見た目がアレな、陰気なお姉さんの言葉である。
嫉妬かな?

長々と語ったが、レムザが目の敵にしている娘であるリアちゃんに下手に味方しようとするとレムザに睨まれる。
そのために、リアちゃんは周りの住民に気の毒に、薄々虐待を受けていると思われていても放置されているのだ。
我が家の母もその1人。なんとかしてやりたいと思うものの、やはり我が身が大切なもの。母の場合、まだ幼い息子である僕がいるのだからなおさら下手なことはできない。
残念なことに日本ほど人権意識が高い社会ではないため、虐待行為は犯罪とはならないのもまたそれらの傍観行為を助長していた。
なおのこと可哀想な話となる。
そんな中、救いの手を差し伸べるヒーローがいた。

僕だ。

僕には特殊な力がある。
魔王クリエイターと言う名の力が。
これによって、まず僕はレムザ・ホホイに対して魔王クリエイターを使用した。
彼女を優しい母親に変えてしまおうと思ってのこと。
ぶっちゃけ洗脳行為でしかない。
悪辣だから洗脳行為をしていい、とはならないがまあ、人類の間引きをしている僕が今更何をという感じで、やってしまった。
結果。

なんの成果も得られませんでした。

魔王クリエイターの容量キャパシティが性格部分を変えるのに、足らなかったためだ。
どうも魔王クリエイターの能力制限の一つ。極端に違う存在へは弄れないという縛りに引っかかったようである。
より厳密に言えば可能ではあるが、それをしようとするとかなりの容量を喰うということだ。
例えば、その辺で捕まえた虫を人間にして身の回りの世話をさせるということはできない。
本来、人間の容量キャパシティはかなり余裕がある。その容量全てを使っても矯正が出来ないとは、どれほど性格が悪いのか。

しかしここで諦めたら、リアちゃんは救われない。ということでアプローチの仕方を変える事にした。
リアちゃん側を魔王化して、虐待に対して何ら痛痒も感じないようにしてやろうとのことだ。

早速僕は、リアちゃんに声を掛けて友達になりつつも彼女の体をいじり倒した。
結果、こうなる。

名前 リア
生物強度 32
スキル 超頑健 超再生 美容 聡明 膂力増大 魔力増大 気配察知

驚異の魔王ヨトウガ越えである。
いや、まあ人間なら大体30前後になると思う。
スキルも恐らく特別多かったり、珍しかったりするわけではないはず。
小さなヨトウムシと、かなり体の大きな人間と比較するのが間違っているのさ。

スキル構成は物理的なダメージを気にしなく済むように、かつより健やかに過ごせるようにと考えてのことだ。
聡明、膂力増大、魔力増大、気配察知の四つはこれから綺麗に育った後に悪漢から襲われやすくなるであろう彼女が身を守りやすいようにと与えたもの。
なんなら母親に対しても使える。
生物強度を上げるだけでかなり身体能力が上がるが、それに合わせて腕力やら魔法やらを使えるようになったのだから将来は一端の戦士にだってなれる。
実に満足な出来であった。

こうして彼女は救われた、少なくとも虐待に怯える日々に終止符が打たれ、今までより格段に過ごしやすくなったと思われたのも束の間。
些か看過出来ない問題があった。

スキル聡明の効果が意外と高くて、僕の力がバレた。

7歳の子供相手なら特に何しようとバレないだろう、見た目に出るわけではないのだからなおのこと。仮にバレても適当にすっとぼけて仕舞えばいい。そう考えていた。

ところが、まるで誤魔化しが通じなかった。聡明の効果がやばすぎた。
人類の間引き云々までは流石にバレなかったものの、僕の特殊な力はバレてしまったわけだ。
当初の予定ではこの力は誰にもバラさないつもりであった。
だって、そんな力があると分かれば魔王ヨトウガと僕の力を結びつけてくる人が出てくる。
なんならリアちゃんが魔王ヨトウガのことを知れば人類の間引きに関する話すら推理するかも。そう思わせるほどに簡単にバレてしまった。
苦肉の策として、僕の力はに作用すると口にしておいたが、誤魔化せたかは分からない。
いずれ彼女が僕の前に立ち塞がるかも知れないと思うと夜しか眠れない。
もとい、あまり気にしないで後回しにした。
だってせっかく救ったのに、知ってはならない秘密を知ったがゆえに「恨みはないが死んでもらう」をするのは些か以上に気が引けた。
まあ、バレないかも知れないし、あまり深く考えないでおこう。
彼女への対処は未来の自分に任せる。

長々と話したが、その間に彼女の家に着いた。

「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい」
「ひぇっ」

玄関に入った瞬間、すでに間近にいた彼女。
可愛らしいオカッパ頭に無表情でありながらも整い過ぎて現実味を感じさせない相貌からは、何の感情も伺えない。
この無表情は初めて会った時から今に至るまで未だに治っておらず、何某かの精神的な問題かなと下手に弄ろうにも弄れないのが悩ましいところ。
まあ、母親から貰えない分も含めて僕がたっぷり愛情をこめて接していればいずれ良くなるんじゃないかな?と信じたい。


「えと、玄関でずっと待ってたの?」
「うん」
「あっ、そう…」

今日来るかは分からなかったと思うのだが、まあ行く日や時間は大体決まっている。
待ってたとしても不思議ではない。
…ことはない。なんでこの子待ってたん?
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...