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第一章:黄金色の森でこんにちわ(全18話)
黄金色の森でこんにちわ(15/18)
しおりを挟む「………」 「………」
数分が経った。
秋風の涼しさが身に堪えたのか、少し寒気がしてきた……ぶるり、と身体を震わせた瞬間に、俺の隣に座る貴族っ子の気配も同様であったようで、両の手で身体を抱きしめたまま、身じろぎするのが視界の端で見えていた。
しかしなおも降り注ぐ木漏れ日の陽光は熱と温度をそこそこ持っていて、それに照らされたままだとにわかに水分を消耗してくる……
「………」 「………、」
……どうにも気まずい。
俺の方は、隣の貴族っ子に特に尋ねたいことがあるわけでもなく、ただ時間は過ぎ去るのみだった。
もう数分が経った。
「………」 「………」
………
「………、」
……なのであるが、貴族っ子が、なにやらちらちらと、こちらを目で見てくるのは気配で分かっていた。
もう弁当はないぞ!?――と半泣きで逆ギレでもしてやろうか、とも思ったが、その様子と気配で、思い当たった事がある。
「………、」
何かを要求するように目配せするその目線、
「ごくりっ」
どうも俺の手元の水筒に向けられている……ようだ。
……はぁぁ、
「!」
突然の俺の動きに、貴族っ子はびくり、と怯えた反応を返した。
なあに、どうってことはない、と手で合図を返す……それに戸惑った様子の貴族っ子。
よっこらせ、と後ろにそらしていた背中を前に倒すと、手元の水筒のキャップを再び開栓して、中身の水を注ごう……として、
「………あ、」
コポコポ……と注がれるはずの水筒の水は、キャップ兼用の手呑の、その半ばの半分まで水位を満たしただけだった。
水筒を降っても、水の数滴が滴ってコップに入ったのみ……
「……どうしたもんかなぁ」
これでは口を潤すのにも不足する……と思いつつも、とりあえず手呑を貴族っ子に渡してやる。
受け取った貴族っ子はというと、申し訳無さそうな様子でありつつも、水の量を残念がる素振りでもあった。
手をひらひらと振って、とりあえず「気にするな」という意思表明を返しつつ……
俺もそろそろ喉が乾いてきたころだった。
「よっ、と」
できれば水を飲みたかったところだが、しょうがない――
「うへへ」 「…?」
手に取り出したるは、先程シートの上に転がせておいた、500mlペットボトルの片割れ……練乳コーヒー。
俺の股ぐらに安置しておいたのを、今この時にようやく活用するってわけさ。
対する貴族っ子は、なにやら不思議なものを見るような目つきで俺と俺の手の中のミルクコーヒーを見るばかりであった。
まあ、異世界にペットボトル清涼飲料なるものがあるとも思えないし、文字通り異次元の産物ってことだろうしな……わからなくてもしょうがない。
ぱきん、と。
「~♪」 「………? ? ? 」
一息でキャップを開栓して、そのまま器用に一緒に片手で持ちつつ、同じ手で持ったペットボトルを傾け……――
「………ぷはぁーっ、」 「!!」
隣の貴族っ子が、様子が変わった俺を見て、なにごとか?!と怪訝になっている。
それはともかく、最初のひとくちを大ぶりに飲み下した……初見なら驚くだろう、評判の印象に反するさらりとした口触り、風味豊かな練乳の質感……これぞ練乳コーヒー!
おいしさのままに、そのまま何口も口を付けて行って、グビグビと飲み干していく…
「お?」 「………、、、、」
貴族っ子が、果たして自分が興味を持っていいのかさえどうなのかわからない様子で、俺と俺の手の内の練乳コーヒーの両方へ目移りしていた。
まあ、ぱっとみではコーヒー牛乳のビジュアルは何某の某なのか、わからないものだろう……ペットボトルだからシュリンクに覆われているし、なお一層わからないものだろう。
だがこのミルクコーヒーを飲む俺の様子から、練乳コーヒーはよほど良いなにかなのでは?という推論を成り立たせて、俺への目配せとしているらしい。
平たく言えば、「味見させて!」という具合だろうか。
「ほれっ」 「!」
だが、手元の練乳コーヒーはもう残り少ない……ということで、もう一方にお役目していただくこととした。
某社製のいちご牛乳だ。先程ボトルをばらまいたそれが、貴族っ子のケツのあたりに転がっていた。
それを手にとった後、軽く放おって、渡す……宙を舞ったいちご牛乳のペットボトルに貴族っ子はわたふたとなって、なんとか両手でキャッチして受け取ったのが今の瞬間だった。
わずか数秒の間の出来事であったが、喜色満面といった体で己に渡されたペットボトルを確認した貴族っ子の顔は、直後に暗転した。
「………、、、、、、、、、、、 」
ずいっ、と。
「は?」 「………、、、」
あろうことか突き返してきやがった。
おこさまであろう貴族っ子が、なんとありえないことに、おこさま人気最上位飲料であるいちご牛乳のペットボトルを俺に突き返してきたのである。
あ??? なんやそれ?? 喧嘩売っとんのかワレ????
キーッ悔しいザマスわ!!! ……と逆上したい気分であったが、
「……ははぁ、………」 「………、、、、、、、、」
ひくつくこめかみを抑えつつ、渡されたペットボトルを見分するにいたり、その理由がな~んとなくわかった。
要するに、異世界人視点では意味不明な代物に映るってことなのか。
よくわからない透明で硬質な容器の中には、これまたよくわからない薄く赤白いよくわからない液体が入っている……うん。
味の種別が類別できなければ、ますます意味不明に映ることだろう……と思い至るに進んで、
ふと、先程のこいつが練乳コーヒーに興味を示すまでの経緯を思い出した。
「!」
………なるほど、
「……ふーむ………」 「あっ、」
なるほど、売られた喧嘩は買ってやろう………
ぱきり、と今度はいちご牛乳の蓋を開ける。
一口、口につける。
常温にさらしていたがためにすっかり温くはなっていたが、それでも透き通るような涼感ある風味と後味には変わりがない。
うーむ、………
……横目を薄く開けた時、貴族っ子がどきどきした面持ちで様子を伺っているのが見えた瞬間……――
「甘いのみものだ!」 「?!」
大声で、宣言するように感想をいってやる。貴族っ子はビビった。
「いちごだよいちご、食べたことないの?それの飲み物」
「苺? え、えと、…その……」
それに構わず、尻もちをついた貴族っ娘に、今度はいちご牛乳のボトルを見せつけて示すようにしながら、そのもの通りのアピールポイントを提示。
最後に、まあ試してみろ、と言い残して、ボトルを渡す。
「さぁ、」「………えっ……」
「………」
「あまいのみもの………」
怪訝ながらもいちご牛乳のペットボトルに触れ、
「果実の乳酒……?」
容器を両手で掴んだ――
キャップは、貴族っ子が戸惑ったので、さっさと俺が開けて外してやった。
そうして準備は整い……
「ごくりっ」
貴族っ子といちご牛乳の対面であった。
一口、恐る恐るの様子で……
口をつけた後の、次の瞬間、
「…!?」
ごきゅり、と喉を鳴らしてひとくち目を飲み下した後――ぱっ!っと貴族っ娘の目が、輝くように見開かれた。
そのまましばし呆然とした後、降ろされたボトルを再び持ち上げて、二口目をごくごくと飲んだ。
三口目を終えて顔が上げられた時、とろけたような至福の表情になった貴族っ子の笑顔がそこにあった。
「おいしい……っ!」
顔をほころばせて、次の瞬間に満面の笑みを浮かべた。
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