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+イメージテキスト:泥濘の王(全6話)
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しおりを挟む炸裂していく砲火!
見渡す限り、黄昏の色に覆われきった地平と天空。
低く空に沈む轟雲とともに、雷鳴のように砲爆の光と音が迸っては灯り、明滅し、それが閃いては弾け、瞬き、また再び繰り返される──
まるで戦場は、黙示録の破滅の光景を、そのまま現世に写し描いたかのような壮絶な場面と光景で塗り潰された情景となっていた。
泥の海の如く広がる泥濘の大地。何重幾重にも張り巡らされた、鉄条網とトレンチ・ライン──塹壕線──。その両側の遠くには、魔力重砲の砲兵隊が陣地を構えている……撃ち合いを繰り広げているのだ。
双方から無数に交錯して飛来する重魔力弾とブラストログの斉射迫撃が、大地を炎に拭き焦がしてから震わせる。
一厘の塵芥でしかない人間ごときは、疲弊して泥で汚れきった顔をぐしゃぐしゃにして怯え竦み、神への詫びと祈りと悪魔への命乞いを、その両方にひれ伏しながら涙ながらに捧げて、震え上がるのがせいぜいである。
しかし、その両者の微笑みは、相乗した祝福として、呪いだけを冷酷にも人間へと思し与える。
雷轟が轟く度、地平の限りに構築された陣地やトレンチが、爆裂によって耕されて、中の兵士ごと炸裂していったのだ。
それでも、厳重かつ剛堅に築城がされた、特に重要な敵の要部施設壕、並びに中枢陣地や指令部施設などは、今の只中においてでも破壊には達していない。
エルトール帝国とセンタリア王国との国境の前線地帯Fライン、ここミナロスト大地での戦端が再び開かれてから以来、その日常はそのようなものであった。
いつまでも終わらない戦争が、ここで永遠に繰り広げられていた。
だからこそ、スタンディングアーマー・シミターの数個小隊部隊が、方面軍団長の発した勅令の下、任務命令を与えられて、発進し、今まさに、前進していた。
目標は、敵司令部要部施設、そこへの強襲!
敵の正面を突破して殴り込み、敵の司令官や幹部級を諸共一網打尽にしよう、という意図である。
腹の底をも振るわせる砲爆の重低音に震える大地の地平に、その姿たちは出現している。
ウォームグレーの正式塗装の上から前線補給廠における整備補給の折に簡易な二色迷彩が施された、全高六メイルの、歩行する影。
機械型・装甲ゴーレム……マシーナリーゴーレムとこの世界では呼ばれつつあるが、正式にはスタンディングアーマー・シミターという銘が打たれた、機甲戦闘型、直立歩行装甲機のシルエットである。
潰れた胴体に細長い腕と武骨な足。まともな人間の姿はしておらず、まるで化け物がなりそこなったかのような、奇妙な怪物の姿。
その影は、山の向こうの地割れの中の、地獄の底から現れた巨人の兵団かのようであった。群れを成しているのだ。数は、……大凡見積もって、二十と指揮機の数機。
兵団の行軍かのように前進する彼らの機体は、鉄条網はマシンの手指で破り捨て、泥濘に埋もれる対歩兵地雷や爆弾の類は、踏んだとしても威力効果は全く無く、そして敵味方からの砲爆の曳火炸裂にも平然と無事で、まるでダメージというのは受けていない。
※曳火射撃(=頭上至近での意図的な時限炸裂を砲弾にさせる事で地面上の広い目標に効果的に損害を与える、重砲の対地攻撃方法のひとつの事)
塹壕の土手からそれを見ていたセンタリア国軍の兵士たちは、化け物の到来に恐怖の顔を浮かべる他になかった。
今日の一日、重砲隊同士の日課の“ゴアイサツ”以外には、ロクに本格的な地上戦の競り合いなど起きなかったエルトールが、
何を繰り出してくるか、とすれば、よりにもよって、“あの”シミターを、とは!
それは報告を受けた後方指揮陣地に卓を構える指揮官や参謀の幹部や士官らも同様であった。
そこからの命令発令が矢継ぎ早に、デタラメな体たらくで飛び出して、とにかくも阻止を前線の近接する歩兵兵士たちに下令したのにはそう時間を要するものでもなかった。
慌てるよりも早く、怯えに裏打ちされた手の速さで、塹壕線上に、ここ近日の雨と砲爆を避けて壕内に隠伏させていた魔力銃砲や各種歩兵火器、魔導士の魔導杖などが構えられ用意されていき、数分後には塹壕線上にラインとなって布陣がされるに至った。
射撃開始の号令はまだ下されていない。
塹壕の中から、軍帽を被った持ち主の目線だけとそれだけが一緒に形と姿を覗かせた、観測の光魔導士の魔導杖の先端に誂えられた光のオーブが輝きを放った。
直後に収束指向光(可視光レーザー)による多目標への評定が行われて、次の瞬間には位置の精密な割り出しが完了した。
陣地の各地点で同様の現象は一瞬だけ、ほぼ同時に現出していた。
各陣地ごとにそれぞれの魔導士が観測を取ったのである。
班の評定員が諸元を伝声具に込める。
魔導具インターコムを介して、各射撃指揮官へとその情報が送られる。その情報が各自によって認識されて、各火器の照準とターゲットへの見こし合わせ、射撃優先の順番が執り図られた。
「――撃ち方始めェっ!」
号令が下ったのは、今の事である。
しかし全ての班と隊で準備が整っていた訳では無く、とにかく用意の出来た兵士から場当たりに射撃が開始されるという有様でもあった。
割合照準は正確を得ていた。
入念に観測を多地点から取ったからこその成果である。
発砲音、反動、その連なり…連続。無心に銃撃の引き金を引く兵士達……
それらは中々の命中で、遠く彼方のシミター隊の機体へと打ち当たって着弾していった。
されど、まるで効果が無い。
不気味に全身と装甲を震わせながら蠢く怪物は、まったくの平然といった様相で、前進の歩を止めることが無い。
兵士たちの顔は恐怖に引きつっていたが……――
「!」
遅れて、大地の底から震わす衝撃が発射音とともに連続していく。
センタリア側砲兵隊重砲の一斉斉射──
シミターへの直撃弾を狙った集中射撃である。
如何に超然じみたあの装甲機とはいえ、所詮は形があるモノ。
魔力重砲弾の直撃なら、至近炸裂や破片威力、爆圧による破損とはわけが違う! 兵士の多くは勝利を確信していた。
悪魔を打ち祓わんとする光景であった。
光の矢の収束が、大地の上へと降り注いだ。
直後に轟音と爆炎が立ち昇った。
地平上では炸裂が連続していく。
濛々とした火炎と爆煙が、焼き尽くすように立ちこめる――
安堵がセンタリアの兵員たちにもたらされた。
が、
「―――――!?」
それは次の瞬間には脆くも崩れ去っていた。
爆炎と劫火に掻き消された筈のシミターの姿が、炎のカーテンから現れたのだ。
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