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第三章:異世界っ娘がやってくる(全6話)
異世界っ娘がやってくる(1/6)
しおりを挟むその日。
遠い山の稜線の向こうに夜明けの気配が浮かび、森の生物たちが目を覚まし始める。
宵闇が明朝の昇る朝日に染め溶かされる、そんな時刻の頃……
勝手口の前では祭典(フェスティボゥ)となっていた。
なにということはない、くいものの祭典(フェスティボゥ)である。
「わぁぁぁっ…………!」「これは………………」
ルーテフィアは息を呑んだ……
となりの祖父たちも、唾を飲んで食い入ってみている。
めのまえにすごいごちそうがいっぱいある。
「はわわわわ………」
つかの間の餐会だった。
夢をみているような心地で、ルーはもてなされた食事をありありと堪能した。
“ほら、これが…”
「これがヤキトリ……!」
わかりやすい見た目からだろうか。初見での反応はこれが一番くいつきがよかった。
甘辛のタレが、空きっ腹によく染みる。
もちもちとしていて大振りで、歯ごたえが絶妙の鳥肉!
串からフォークで外したタレ焼き鶏肉をはぐはぐと食べる、貴族っ娘……ルーテフィア。
たちまちに元気がみなぎってきた。
目には生気が宿り、
あまりにも儚くて、砂糖の人形の様だったその表情に、
溌剌とした生命感が灯り、みなぎりつつあった。
口元からはよだれをたれながしながら…
“んで、これが……”
「これがオニギィリ………!!」
見たこともないふしぎなものとの遭遇もあった。
包装のフィルムを外すのに手間取ったが、外されると恐る恐る口に含んだ、ルー。
一口口に含んで、眼に星が光った。
風味あふれる海苔と米と中の具のとりあわせが、食べた者に衝撃を与えた。
コメ、というのは、先日のカラアゲベントー、というもので既に体感済みのルーである。
しょっぱいもの、油と肉身の味とのとりあわせというのは絶好であると、そのときに学習していた。
だが、この新体験の味と風味はなんなのだ。
それほどまでに、あまりに味の完成度が、高い!
そんなツナマヨネーズのコンビニおにぎりを、これでもか、という輝いた目で、ルーはあぐあぐとかぶりついて、食べる。
“んで……”
「この麺包(パン)っ、中の挟み具がすっごい豪華だよぅっ あぐっ! ……ふわふわしてて、甘くて、おいしい! すっごいよぅ!?」
もはや両の目からは滝のような涙があふれ落ちながらであった。
ビニールを解くと、すぐ食べられるコンビニパン。あけた瞬間にかぶりついた。
甘い菓子パン……おかずも兼ねた総菜パン……種類とりどりのサンドイッチ……
その両者ともに、それらは見た目から味の期待値が推し量りやすかったようで、躊躇なく食べたのはその他の異世界人は最初にであったのだが。
ルーは焼き鳥の誘惑に負けて後手て頂いた。
なのであるが、それでいて食べたことのないその味と風味にびっくりとして、まるで食べた後の反応が、初々しい。
皆がそうであった。ルーは、元気がみなぎりつつあった。
“…、…で、それは……”
「なにこれなにこれ……ホクホクしてておいしいっ!」
自分の世界ではまだ体験したことのない作物の調理品……
フライドポテトにも舌鼓を打った。
“…あーもう! ぜんぶくってみろ!!”
「ふらいどちきん、肉汁がすっごい………!!あぐ、あぐ、はぐっ」
平たいコンビニチキンを、かぶりついてぱくぱくと食べて……平らげた。
かみしめる最中、ほとばしる肉汁が、その艶やかな小さな唇から垂れた時、ルーは己がしあわせの中にいるのだという事を、思い知り、それを幸福だと思った。
なにしろこのちいさなルーにとって、これだけの量のごはん……特に、動物性タンパク質……を一度いっぺんに食べて摂食するというのは、そのような機会はいままでになかったほどなのであったのだから……
「ぇぅ~~/////♡」
もう、たまらない。
(…ああ……めがみさま……)
まるでめくるめくメリーゴーランドの様に、ルーも、ガーンズヴァルを始めとするアヴトリッヒの一家も、それから家に仕えるメイドたちも、
これら現代日本の食品たちに魅せられ、魅了されていった……
以下メイドどもは取り合いながら、ガーンズヴァル爺とその家庭の者たちも、はじめてのおいしい異世界(げんだいにほん)フードに、尋常じゃない食らいつきで無心に食べていた。
「もうボク、おなかいっぱい………えへへ………」
たべたものの量と数がしあわせの総量たるならば。
この小さなルーのしあわせは、ひととくらべれば少なかったが、
しかし本人の満足と満腹の度という視点からのではこの上なかった。
ルーは、おのれがたべもののしあわせの中にいることに思い浸っていた。
なにしろ、こんなにたくさんのたべものを一度に食べるのは、生まれてから初めてだったのだ。
こんなにおいしいものがたべられたのも、またはじめてであった。
ルーの目尻に、涙の粒が浮かんでいた……
今ある幸福に、天上の女神にまず感謝を捧げて、ルーは己の幸福を最大だと感じた。
今日これまでに至ってのこれを、そのままの女神さまの、
一生に一度あるかないかの、
このうえなくとてもよい思し召しだとも、ルーは畏れ感じ入っていた。
(ありがとう……異世界の旅商人さん。)
肝心なことはもうひとつあった。
これらをもたらした、あの異界の旅商人と名乗った…名前がわからない、仮称ゆうちゃんさん…への思いである。
(ぁ…………、、、、、)
自分のとなりで……なぜか表情がげっそりとしている、
その仮称ゆうちゃんさんを見たとき、
ルーテフィアは自分とこの人物との出会いから今にいたるまでを、
実際に自分の口で調理パンのひときれをもっちりとかみしめながら、自分の中の在処にある思いと心の丈すべてで深くかみしめた。
(このご恩はぜったいにわすれません。
このご縁はぜったいにてばなしません…
優しい貴方からのこの喜捨を……
出会ってからのすべてとと今日のこのことを、
ボクは忘れることができません!
…まっててね…ボクからのおれい……いつか……ぜったい……)
深い、深い感謝とお礼の気持ちで、いっぱいになって、なんだか奥底なく心が温かくなるのを、じっくりと、感じていた。
「えへへ………えへへ……」
目の端から、涙の粒が、一粒づつこぼれ落ちて、止まらなくなっていた。
なにもかものぜんぶ。
それが、まるで現実じみた事ではないように思えた。
だがこれが現実のこの世のことであるならば、そのこの世のすべてが、自分を祝福してくれている心地に、いまは、浸ることができた。
「ふわぁぁ……ほにゃ……もぐ………」
ぬくもった腹ふところのまま、眠気のままにごろん、と横になって寝た、ルー。
なにげなしに頭をおいた、枕がわりのその感触は、なんというかとても心地がいい。
はだけたシャツから腹のへそを見えさせながら、ルーはゆっくりと微睡みの底についた……
天国の中での睡眠であった。
* * * * *
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