勇者は魔王に剣を突き立てた

一ノ清たつみ(元しばいぬ)

文字の大きさ
16 / 17

2-4*

しおりを挟む

 エドヴァルドがハッと気付いた時には、彼は自室のベッドに寝かされていた。何故だか頭がクラクラとして、体が火照って熱かった。先程まで誰かと大切な話をしていた気がして、けれど気を抜けばぼんやりとしてしまう頭は碌に働いてくれない。
 ゆっくりと体を持ち上げて起き上がる。どうやら体調が悪い訳ではないようで、しかしなぜだか、腹の辺りが熱かった。
 何かが自分の体に起こっている。それが何なのか、理由も判らず不安になる。どうにかして、この熱をどうにかしたかった。

 そして、こんな時に何故だか。
 エドヴァルドはアレクシスの事を思い浮かべる。あの両腕に包まれて抱き締められると、不安も何もかも溶けてしまう。それが今は無性に欲しかった。
 ここの所、いつ何処に居ても、エドヴァルドはアレクシスの事を考えてしまう。
 今の自分が生きているのは、アレクシスがそう望んだから。一度死んだ己に再び生を与えたアレクシスが、エドヴァルドと共に有り、そして共に幸せになる事を願った。だからこそエドヴァルドは今も生き、アレクシスの隣に居る。
 とうに潰えたはずのこの命。彼が望むのならば、エドヴァルドは喜んでこの身を差し出せる。二人の間に子供を望むのならば、その母胎となる事もやぶさかではない。ただ、そんなエドヴァルドの気持ちを、当のアレクシスが理解しているのかどうか。エドヴァルドは知らなかった。

 今はどうしてだか、アレクシスが欲しくて欲しくて堪らなかった。早くあの両腕に抱き締められたい。口付けをして欲しい。傍に居て欲しい。
 そんな事を願っていたからだろうか。
 突然、魔王アレクシスがその場に現れたのだ。酷く慌てた様子で、部屋の中に飛び込んでくる。

「おい、エドヴァルド! 大丈夫か!? 何をされた!」

 入るや否や、アレクシスは叫びながら探していた。
 エドヴァルドの事となると周囲など目に入らないのか、部屋の外でオロオロとする侍女の姿が一瞬見える。けれどもエドヴァルドには、最早アレクシスの姿しか見えなかった。
 慌てて駆け寄ってくるアレクシスに、エドヴァルドは微かに微笑む。
 眉尻を下げ、心配そうにベッドに乗り上げ、そう尋ねてくるアレクシスが、愛おしくて仕方がなかった。
 エドヴァルドの頬を、アレクシスが包み込む。それが気持ち良くて、彼の心配をよそに、エドヴァルドは目を細めた。

「大丈夫なのか?」
「アレクシス」
「ああ、何だ? 何でも言ってくれ。何をしてほしい」

 心配そうに言ったアレクシスの頬に手を寄せて、エドヴァルドは言う。ジッと燃えるようなその目を見つめて、彼は嬉しそうに言った。

「君は、俺との子供が、欲しいのかい?」
「!!」
「魔人になった今なら可能だと、聞いた気がする……もし、アレクシスが望むなら、俺もーー」

 そこから先は、エドヴァルドは言わなかった。けれどそれだけでアレクシスにはちゃんと伝わったようで。アレクシスははっと息を呑むと、しばし言葉を失った。
 けれど、その目をジッと見つめていたエドヴァルドには分かった。それは彼も望んでいる事なのだろうと。
 その返事を急かすように、エドヴァルドがそっと口付けると、アレクシスは何かに堪えるように息を詰めた。
 その目に浮かんでいる情欲の炎が、一気に高まっていくのをエドヴァルドは感じていた。

「当たり前、だろう。欲しくて欲しくて堪らないっ」
「良かった。なぁ、アレクシス……くれるかい?」

 そこからはもう、お互いの事しか目に入らない。互いを愛し合う事しか考えられなくなっていた。
 まるで獣のように口付けを交わし、邪魔な衣服を取り払った。混じり合うように体を寄せ合い、互いが互いの欲望を高めていく。

 すっかり育ちきったアレクシスのものがエドヴァルドの中に挿入る頃には、待ちに待った刺激に体中が震えた。ゆっくりと背後から、エドヴァルドの中を割り裂くように、アレクシスは犯していった。

「ん、んんんっ、あっ! く、るっ、アレクシス――!」
「ああ……大丈夫だ、エドヴァルド。とても、中は柔らかい。んっ……私を、受け入れる準備は、すっかりできていたんだな。呑み込まれるようだ。遅くなって、悪かった」
「んっ!」

 覆い被さるようになりながら耳元で囁かれ、エドヴァルドは腰が抜けそうになる程の興奮を覚えた。
 ゆっくりと律動しながら、徐々に奥へと侵入してくる。それをはっきりと感じてしまって、エドヴァルドは悶えていた。早く早く、奥にまで欲しい。それこそ、二人が望む子供ができてしまうまで。何度も何度も奥へ、注いで欲しくて堪らなかった。

「あ、あぁぁっ、んっ、んんんっ――!」
「はっ――エドヴァルド、エド……」
「ん、ああっ、……アレック、もっと、おく……はやく、届かない」
「待てっ、乱暴にはしたくない、ゆっくりいくんだ」
「んんんっ、足りない、欲しっ……」

 煽り煽られぐちゅぐちゅと何度も何度も腰を打ちつけられながら、時にその腰に尻を押し付け、互いの名前を呼んで口付けを交わす。
 最早アレクシスと中まで溶け合ってしまっているかのように感じられて、エドヴァルドは言いようのない幸福感を覚えていた。
 アレクシスの宥めるような声を聞きながら、何度も何度も中を擦られる。まるで獣がそうするような体勢で犯されていると、エドヴァルドは倒錯的な気分になった。

 まるで、その人のメスとして支配下に置かれているかのような。実際、エドヴァルドはアレクシスによって半分は造られているようなもの。実質的に、エドヴァルドはそもそもアレクシスのものなのだ。それを今、まざまざと目の前に突き付けられている。
 自身がマゾヒストになったつもりはなかったけれど、アレクシスがこうして孕ませようとしているのが自分だけだと思うと、エドヴァルドは何とも言えないゾクゾクとした気分を覚えるのだ。
 自分はもう他者の為ではなく、自分がしたいように生きる事ができる。それがただただ嬉しかった。

 すっかり力の入らなくなってしまった上半身の代わりに、腰を高く上げさせられ、上から叩き付けられるように犯された。
 エドヴァルドの腹には、何度か吐き出してしまった精液がダラダラと筋を作ってはそこを汚している。閉じ切れなくなった開きっぱなしの口から、透明な唾液が垂れた。
 もう何も考えられない程、エドヴァルドは何もかもを快楽に塗り潰されてしまっていた。ぴくりとも体を動かすことができない。叩き付けられる度に与えられる快楽に、頭の中がバチバチと弾けていた。

 そんなエドヴァルドの肩に置かれているその手が、エドヴァルドの体をその場に固定している。強く強く腰を押し付けて、孕むためのそこに侵入するその瞬間を見計らっているのだ。

「うう、ん、はぁ……」
「はぁ……、エドっ、大丈夫だ……もうすぐ、そこだ」

 アレクシスもすっかり熱に犯されていて、浮ついたような声音がひどく艶やかだった。

「この、奥だ。深い所まで犯してしまうには、こうしてすっかり力が抜け切ってしまわないと辛い。だから何度も、吐き出してもらった」
「うんんっ!」

 アレクシスは言いながらエドヴァルドの分身をその手で擦り、ビクビクと震えた体の更に奥へと腰を進めた。きっとそうされている本人は、今どういう状態であるかも分かっていないのかもしれない。強請ったのは彼自身ではあるが、孕むために自分がどうなってしまうのか、全く理解していなかったのかもしれない。

「奥にまで到達するのは、大変なんだ……エドにも負担をかける。だから、そうしてこなかった……まさか、こんなにも望んでくれていたなんて」
「んっ!」

 エドヴァルドのその耳元で、興奮したようにアレクシスが言えば、彼は小さく悲鳴を上げた。最早全身が性器ほどに敏感になってしまっているのだろう。何をしても、喘ぎ声にしかならない。
 それを殊更愛おしく思いながら、アレクシスは更に腰を進めていった。
 そしてとうとう。
 奥の入り口を抜ける。
 ぐぷんっ、と音がしそうなそんな感覚で、アレクシスはとうとう侵入を果たした。
 その途端、閉じることもできないエドヴァルドの口からは、悲鳴にも近い嬌声が飛び出た。

「っああああーーっ!」
「っ……今、挿入った……これで、きっと望むように孕める、エドヴァルド」

 最早二人とも汗に濡れ、アレクシスは必死で何度も、そこへ目掛けて腰を叩き付けていた。奥へ、孕ませるためのそこへ、種子を注いでやりたい。本当の意味で自分のものにしてしまいたい。アレクシスはその一心だった。
 彼は最早自分のものだという、そのエドヴァルドの言葉を信じていない訳ではない。そうではないが、本当にそうなのだという二人の証が欲しかった。互いに互いが唯一だという、その証が。手に取れる証が。

 何度も何度も奥に出入りを繰り返し、エドヴァルドはアレクシスのもので快楽に濡れている。擦る度にその体は甘イキを繰り返し、喘ぎを漏らしている目の前の人に、アレクシスは益々愛おしさを募らせていった。

 正しさに溢れていたこの男の心を汚し、体まで汚し尽くしたというその事実が、アレクシスを堪らない気持ちにさせた。
 あんな顔は二度とさせるまい、誰にも渡したくない。その一心だった。

 エドヴァルドの腰が浮いてしまうほど奥の奥にまで叩き付けて。そんな彼が達してしまったその勢いで。

「ひっ、ああああああっ……!」
「ん、んんっ……!」

 アレクシスもとうとう、何度目かの絶頂を迎えた。奥の奥で、種子を擦り付けるように吐き出す。
 それまでに何度か出しているにも関わらず、長い長い吐精にアレクシスは唸った。まるで本能に任せる獣のように、孕ませるという本来の目的のために。幸福感に酔いしれながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

嫁がされたと思ったら放置されたので、好きに暮らします。だから今さら構わないでください、辺境伯さま

中洲める
BL
錬金術をこよなく愛する転生者アッシュ・クロイツ。 両親の死をきっかけにクロイツ男爵領を乗っ取った叔父は、正統な後継者の僕を邪魔に思い取引相手の辺境伯へ婚約者として押し付けた。 故郷を追い出された僕が向かった先辺境グラフィカ領は、なんと薬草の楽園!!! 様々な種類の薬草が植えられた広い畑に、たくさんの未知の素材! 僕の錬金術師スイッチが入りテンションMAX! ワクワクした気持ちで屋敷に向かうと初対面を果たした辺境伯婚約者オリバーは、「忙しいから君に構ってる暇はない。好きにしろ」と、顔も上げずに冷たく言い放つ。 うむ、好きにしていいなら好きにさせて貰おうじゃないか! 僕は屋敷を飛び出し、素材豊富なこの土地で大好きな錬金術の腕を思い切り奮う。 そうしてニ年後。 領地でいい薬を作ると評判の錬金術師となった僕と辺境伯オリバーは再び対面する。 え? 辺境伯様、僕に惚れたの? 今更でしょ。 関係ここからやり直し?できる? Rには*ついてます。 後半に色々あるので注意事項がある時は前書きに入れておきます。 ムーンライトにも同時投稿中

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

処理中です...