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波に呑まれて

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 いよいよ自分で腰を落とし、エヴラールの剛直を迎え入れるその時。チカゲは、今までとは比べ物にならないほどの快楽を感じていた。
 
「く、ああぁぁっ……」

 己の声が恥ずかしく感じるのに、それがどうしても抑えられない。それを塞ぐ事もできない。みっともないその声をエヴラールに聞かれていると思うと、どうしようもなく興奮した。

「自分からケツを振って……気持ちいいか、セヴラン? 答えろ」

 エヴラールは容赦しなかった。チカゲが普段以上に感じているのに気付いているのか、拒否できない要求をチカゲに命じる。
 チカゲもそうであるが、エヴラールもまた、いつも以上に興奮しているのだった。
 
「は、ああっ、ん、んんっ、とても、気持ちいっ……はぁ、エヴラールの、大き、ひっ、あああぁぁっ!」

 チカゲの緩い動きに辛抱ならなくなったのか、それとも卑猥な言葉の羅列に堪らなくなったのか。答えている最中のチカゲの腰を引っ掴むと、思い切り腰を打ち付け出したのだ。

 途端に大きな嬌声が上がる。けれども、口を塞ぐことのできないチカゲは、ただされるがままに声を上げ続けた。
 それまでは聞くことすらできなかったチカゲの声が、部屋中に響き渡った。


「あ、ああっ、エウ、ラール、っうんんん……!」

 その後もしばらく、チカゲはエヴラールに突き上げられながら、何度か絶頂を繰り返した。けれども、徹底的に兵器として鍛え上げられたチカゲの体は、こんなものでは気絶する事すらできない。
 快楽に半ば溺れながらも、チカゲはエヴラールの上で揺すられ喘いでいた。
 
「はぁー、セヴラン……お前、何回イッた? ドロドロだな。……こうしてお前の声を聞きながらできるなんて、思ってもいなかった」
「あ、うんんっ、も、これ以上は……」

 快楽でおかしくなってしまうと、チカゲが限界を訴える。けれどもエヴラールはまだだと聞き入れもしない。それどころか、彼はとんでもない事を言い出したのだ。
 
「何言ってる。お前はまだまだだろ? それに、俺だけじゃない」
「っん?」
「忘れてるのか? ここに居るのは俺らだけじゃないって事」
「っ!」
「アイツ、ユーキって言ったか? お前、アイツも混ぜてやれよ」
 
 そんなエヴラールの言葉にチカゲは絶句した。今までどんな男とやれと言われても、こんな気分になった事はなかった。

 けれどもどうしてだか、チカゲはユウキに対してはダメだった。こんな自分を間近で見られたくないと思うだなんて。当人ですら、そんな己の心に戸惑っていた。

「ッエヴラール!」

 チカゲは首を横に振りながら、必死でエヴラールに訴えた。それだけは、どうしても嫌なのだと。
 今まで何事にも嫌だと言わなかったチカゲが、この時ばかりは必死で拒絶した。そんな事は初めての事だった。
 
 しかし、主人たるエヴラールはそんなチカゲを許さなかった。

「お前に拒否権なんてある訳ねぇだろ? なぁ、
「ッ――!」
「っ、おい……!」

  その時初めて、チカゲはエヴラールに本名で呼ばれた。未だに繋がったままだったエヴラールのものを、チカゲは思い切り締め付けてしまう。
 そしてそのままなんと、チカゲは声もなく絶頂してしまったのだった。

「っ、お前……ナカだけでイったな? ははッ、最高だな」
「ッア、あ、ああぁっ……」
「そんなに嫌か? 俺がイイのか?」

 未だに弾けてしまっている頭の片隅で、チカゲはエヴラールの声を拾う。首を何度も縦に振りながら、必死な様子でその声に応えた。
 
 その目からボロボロと涙を零しながら、チカゲはその体にしがみついていた。彼がそんな状態になるのは今までになかった事だ。さしものエヴラールですら戸惑う程に。

 エヴラールのもとへとやって来た時には、チカゲは感情も碌に表に出さない、まるで凍り付いた人形のような青年だったのだ。
 この世界については何も知らない、声も出せない、文字すら読めない。けれどもどこか気品の漂うそんな彼が、一体今までどういう扱いを受けてきたのか。想像に難くなかった。

 しかし、そんな青年が今こうして、感情をみっともなく表に出しながら泣き喚いている。エヴラールもまた初めて見る光景だった。
 
 その原因は考えるまでもない。今、目の前に居るユウキという青年だ。
 自分にこうまで依存している姿を見るのは、エヴラールにとってもそう悪くない。自分だけにその本来の姿を晒す。心擽られる光景だった。

 しかしひとつ、エヴラールの気に入らない事があった。
 チカゲのこれを引き起こしたそのキーが、エヴラールではなく目の前に居る同郷のユウキという人間である点だ。
 
 ユウキが目の前に居なければきっと、チカゲはこうはならなかっただろう。それはエヴラールの確信だった。
 チカゲがエヴラールにだけこうなってしまうのは、奴隷と主人の契約のせいも間違いなくある。

 しかし、ユウキとの間にはそれがないはずなのだ。
 自分の知らない何かを共有されているようで、エヴラールは気に食わなかった。ただ、同郷であるというだけで。自分の方が余程、チカゲとは長く接していたはずであるのに。

 激しく気に入らない。だからこその八つ当たり。
 エヴラールは、しがみ付いたチカゲをそのままに椅子から立ち上がった。すると、挿入ったままのそれが奥を深く抉るのだろう。途端に悲鳴を上げ、チカゲは縋り付きながらびくびくと震えた。

「チカゲ。挿れるのは勘弁してやる。クチでヌいてやれ」
「あ、んうッ、んんん……!」

 ぶるぶると首を横に振りながら、チカゲはやはりそれを拒絶した。涙目で口付けをねだるように顔を寄せる。首を伸ばし、舌を伸ばしてエヴラールの唇を吸った。
 そんなチカゲの必死さが、エヴラールの内にある何かを満たしていく。

「ふ、うぅ、んむッ」
「ん、まて、セヴラン……そう我が儘を言うな」
「ッ……」
「これはこの前の一件の仕置きだ。嫌でも咥えてみせろ。このまま俺のところに居たいならな」

 チカゲには、エヴラールがチカゲを捨てるかのようにすら聞こえたかもしれない。当人にはそんな気は微塵もないが。

 その一言ですっかり大人しくなったチカゲは、しかし悲痛な表情でエヴラールを見上げた。
 その表情に、エヴラールの背筋をゾクゾクとしたものが駆け抜けていった。

「ほら、チカゲ。お前のせいでこんなに張り詰めて可哀想だろ? 出して咥えろ」
「ッ……う、」
 
 椅子に縛り付けられ猿轡を噛まされ、身動きの取れないユウキの目の前に。チカゲの泣き顔が突き出された。
 一部始終を見せられたユウキは、顔を真っ赤に染め上げながら、ただジッその様子を眺めていた。
 
 チカゲは歯を食いしばり涙を零しながら、震えるその手でユウキの下衣を解いていく。そうして解放されたユウキのものは、それまでのチカゲの痴態にすっかり育ち切っていた。エヴラールのそれとはまるで違う。

 チカゲは一瞬、躊躇するような仕草を見せた後で。それをゆっくりと口に含んでいった。
 途端にユウキの体は震え、塞がれたその口からは快感に濡れた声が漏れ出た。
 チカゲは一切、そんなユウキの顔を見ようとはしなかった。

「んんッ、ふぅう!」
「うう、ん」
「イイ子だチカゲ。見ろ、気持ちよさそうにしてる」

 こんな状況下だ。ユウキも堪らず体を震わせながら快楽に浸り、熱の篭った眼差しでチカゲの姿を凝視している。

「ん、んんんッ! エウンーンッ!」
「咥えたままじゃあ分からないな。早く出させてやれよ、チカゲ。一回でいい。今日はそれで勘弁してやる」

 チカゲは、時折後ろからエヴラールに突かれながらその口を動かしていた。けれど、エヴラールから頻繁に後ろから中を突かれるせいで上手く奉仕が出来ないでいる。
 
 もちろんそれも、エヴラールがわざとやっている事だが。それにも気付けず、チカゲは早くイかせてしまおうと必死なのだ。

「ははッ、お前も興奮してるだろ、チカゲ。いつもよりも締まる」
「ッんん、う……」

 今や座り込んでいるエヴラールの上にチカゲが乗り、まるで後背位のような状態にある。チカゲのやる事を後ろから眺め、時折それを追い込みながら、エヴラールは笑っていた。
 
 泣いて嫌がるほどの行為を、それでもエヴラールの為に行う。そんなチカゲの誠意が、堪らなくヨかった。

「チカゲ、そのままソイツのを咥えていろ」
「んん? え、ああああぁッ!」
「ッ」

 ユウキのそれを咥えさせたまま、エヴラールは後ろから本気でチカゲを追い立てていった。ガツガツと中を抉るように、深くまでその剛直を突き立てる。
 
 堪え切れずに上がるチカゲの嬌声と、ユウキの息を呑む声。それらが一層、エヴラールの何かを満たしていった。
 堪らなく気持ち良かったのだ。心地良かった。
 チカゲの献身、その他の誰よりも優先されるというその優越感。そして、気に入らない者に対する牽制。

 今、この場のあらゆる状況が、エヴラールに最大限の快感をもたらす。

 「はッ、ああ……チカゲ、……出すぞ。奥にぶち撒けてやる。全部呑み込めよ?」

 激しく奥を突かれ、ユウキにもエヴラールにも見られた状態で、チカゲはもう理性を保っている事すらできない。ユウキの起立を咥えている事も出来ず、口をだらしなく開いたまま喘いだ。
 
「ん、ンンッ、あ、はぁッ、んああああッ!」

 目の前にあるユウキの体にしがみ付き、がくがくと体を震わせながらチカゲは絶頂した。
 奥の奥にエヴラールの精液を注がれ。そして、そんなチカゲの様に耐え切れなかったユウキの精液を顔に浴びながら。
 チカゲは快楽の波にすっかり呑まれていった。
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