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第九話 身体能力検査…?
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ルッフィランテの中に戻ってすぐ、二階の大部屋に案内された。
綿が剥き出しになっているような材質のソファがあり、座ると雲のような感触が体をすっぽり包み込んだ。
「鳥太様、これからは私の下で働いていただきますので、鳥太君と呼ばせていただきます」
「はい」
「それと、不揃いの敬語ももう少し頑張ってください。多少は多めに見てあげますが、あまりにもひどい場合、Eクラスのメイドと一緒にお勉強することになります」
「う……頑張ります」
俺の苦手分野だ。
「ではこれから説明しますね。まずメイドの現状についてですが」
クリーム色の瞳が薄く陰りを見せた。
「先ほども説明した通り、メイドの技能は執事に大きく劣っている為、世間的地位は非常に低いのです。中には“メイドの『ド』は奴隷の『奴』”と差別的な発言をする人もいます。そして、私達の派遣しているメイド達の中には、そのような心無い人達によって、辛い目に遭う子が少なくはないのです」
「…………」
トマトが街中で虐められていた光景を思い出し、胸の中に重たい何かが沈んだ。
あんな目に遭ってるメイドさんが他にもいるのか。それも日常的に。
「鳥太君はこの仕事に一番大切なものを持っています。この話を聞いて深刻な表情をしてくれる人はなかなかいません。この仕事をこなせる人が見つからなかった理由の一つはそれなのです」
「ああ、だってメイドが傷つけられてるなんて、許せる話じゃない」
「ええ、私もそう思います。いまの言葉遣いは見逃してあげましょう」
言われた直後にやらかしてしまった。敬語だ。敬語。
「鳥太君のお仕事は、そのような人々からメイドを守ることです。しかし、一般的にメイド相手には何をしてもいいという風潮が流れているため、基本的には実力行使しかありません」
「そんな物騒なのか」
「当然、自分の身は自分で守らなければならない世界です。しかし自らの身を守ることができないメイドは、誰かが守ってあげなければ死んでしまいます」
死……。
フィルシーさんの重い言葉が誇張などではないことは、わかっている。
トマトがされたようなことが日常的に起きていれば、死にも容易に結びつくだろう。
「まずは何をすればいいですか?」
「鳥太君、いますぐにでも飛び出しそうな元気はいいのですが、お仕事を始める前にしなければならないことがあります」
フィルシーさんは棚から一枚の厚紙を抜き取り、差し出してきた。
「まずは鳥太君の能力をこのシートにまとめ、それを元に能力カードを作ります。カードがなければどのようなお仕事もできませんから」
「へぇ、能力が数値化されるのか……」
前のめりで眺めていると、フィルシーさんが呆れた顔をした。
「鳥太君、本当に何も知らないのですね……。お仕事には必ず自分のステータスを示すカードが必要なのですよ。まずテストの段階でクシィより強いことがわかったので、戦闘力はひとまずAとしておきます。次は具体的な身体能力、職業、スキル、お仕事内容を記入します」
「わかりました」
今度はちゃんと敬語で返事ができたぞ。
「いいお返事です。では、まず身体能力の検査ですが、ルッフィランテで男性従業員は初めてですので、外部のメイドに頼みましょう。本当は信頼関係のあるメイドに頼んだ方が鳥太君にとってはいいと思いますが、メイドの存在を知らなかった鳥太君に専属メイドはいないでしょう」
「いないです。けど、トマトやクシィはだめですか? 二人なら今日一日だけど少しは気ごころが知れてるし、全く知らないメイドさんよりは信頼できると思いますけど」
「鳥太君……あなたはときどきメイドのことを“メイドさん”と呼びますね」
げ、無意識に口にしてたか。
自分では気を付けてるつもりだったけど、普段の癖は抜けないよな……。ここにきて自分の発言のぼろさが露呈してる……。
「まあ、それはいいでしょう。トマトとクシィは喜んで引き受けると思いますし、鳥太君が希望するのであれば、二人のどちらかにやらせましょう。ちなみに、どちらがいいですか?」
「…………えぇ…………」
答えにくいな。
これで選んだ方が俺の中でランクが上みたいな扱いになりそうだ。
「じゃあ、その“検査”が得意な方で……」
無難に答えると、フィルシーさんはつまらなそうに唇を尖らせた。
「仕方ありませんね。ではクシィに任せましょう」
そう言って部屋を出て行ったフィルシーさんは、二分後にトマトを連れて戻ってきた。
「あれ? なんで」
「クシィは買い物に出かけていました。トマトに伝えたところ、“どうしても”自分がやりたいとのことでしたので」
「フィルシーさんっ、そんなことは言ってません!」
「ではクシィが帰ってくるのを待ちましょう」
フィルシーさんが意地悪な笑みを浮かべると、トマトは「そんなばかな!?」と顔でリアクションした。
ここまで連れてこられて用無しと言われたらそうなるよな。
「フィルシーさん、私にやらせてください……」
トマトが泣きそうな声で言うと、フィルシーさんはどことなく嗜虐的に微笑んだ。
「冗談ですよ。トマト、鳥太君をご案内しなさい」
「はいっ! 鳥太様、こちらにどうぞ!」
そうしてトマトに連れて行かれたのは、水色の斑模様が埋め尽くす部屋だった。
防水らしき素材はツルツルと滑る代わりに、斑模様の浮き出た部分が滑り止めになっている。
部屋の中央には浅く広いバスタブ。
そして俺は『クロスローブ』という名の布一枚を腰に巻き、ほぼ全裸に近い状態だった。
「………………」
身体能力の検査って、てっきりスポーツテストだと思ってたんだが……。
「トマト、これって身体能力の検査なんだよな?」
「はい、もちろんそうですよ」
答えるトマトは、真っ白な吸水素材で編み込まれたメイド服型のバスローブに身を包んでいる。
正直、俺一人だけこの格好はかなり恥ずかしい。
「リラックスしてください、痛いことはありませんから。まずはそこに仰向けで寝てください」
「おう」
言われるままにバスタブに足を踏み入れると、光沢のある液体が生ぬるく体を包んだ。
「え……ちょっと待て」
「どうされましたか? 鳥太様」
「いや、なんでもない……大丈夫だ」
水面に映った俺の顔は、転生前の顔の雰囲気を残したまま、こちらの世界で違和感がないレベルまで補正がかかっていた。
これはイケメンと呼んでもいいんじゃないか……?
よく考えれば、人間の身体能力を超えてる時点で俺の肉体は当初の物ではないし、顔が変わっていてもおかしくはない。
こんな変化にいままで気付かなかったとはな……。
「鳥太様、じっと水面を見つめてどうされたのですか? 温度が合っていませんでしょうか……」
「大丈夫、温度は丁度いいよ」
平然を装ってバスタブに身を投じる。
その瞬間、体の芯まで熱が浸透し、体内が純度の高い液体で満たされていくような感覚があった。
「これは、気持ちいいな」
「よかったです。ではいまから検査を始めますね」
トマトは真剣な口調で言った後、俺の背後に立った。
「身体能力を部位別に測定していきます」
「おう」
バラ売りされる魚みたいな気分で答えると、背中に柔らかい手が乗せられた。
ぐぐぐぐぐ、と力が入れられる。
この世界で俺の身を包んでいた筋肉は常に力んでいるかのように硬いが、トマトの手のひらはそれを容赦なく押し広げた。
これまで気付かなかったけど、トマトも普通の女の子の倍くらいのパワーがある。この世界では最弱に近いのかもしれないけど、人間の基準で見れば力持ちだ。
そんなトマトによる検査は、マッサージのように心地よく、自分でも気づかなかった疲労が体内から全て抜け落ちていくようだった。
背中から、足、腕、肩、と体の大きな部位をほぐされ、足の裏や手のひら、首や頭まですべて丁寧な手つきでこなされていく。
その度にトマトは用紙に何かを記入し、「すごいです」とか「おおっ」とか呟いている。
「この検査はよくやってるのか?」
「はい、メイドは全員この検査を定期的に受けているので、Eクラス以上のメイドはみんな毎年やっています。男性は初めてですけど、触れた感覚でこれまで測定したことのない数値もちゃんとわかりますよ。安心してください」
トマトはお仕事モードに入っているのか、妙に集中していて頼もしい。
流れるような説明も心地よく耳に入ってくる。
フィルシーさんが言ってた気心知れたメイドがいいというのはこういうことか。これなら安心だ。
「では、鳥太様、仰向けになってください」
「…………………………えっ」
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもないよ」
動揺を悟られないように、言われた通り仰向けになる。
さっきと同じことを前向きでやるだけだ。大丈夫。頑張れ俺のメンタル。
「…………っ⁉」
いきなり太ももに手が伸びてきた。
いや、これはただの検査。妙なリアクションをしても気まずくなるだけだ。
落ち着け、落ち着け……。
よし、いけるぞ。そう、俺は魚だ。いまから解体されて市場に売られていくだけだ。そう考えれば何も変な感情は浮かばない。完全な無だ。
無、無、無…………
「――――っ⁉」
大胸筋も同じように、トマトの手が添えられた。
撫でるような手つきが妙に気持ちよく、別のベクトルに意識が持っていかれそうになる。
いや、これはただの検査。
そしてこの手はオッサンだと思おう。
そう、整骨院のオッサンだ。オッサン……オッサン……オッサン…………
「……………………」
いや、無理だろ…………。
どう考えてもオッサンじゃないだろこれ。
ここはもう直球に、真面目になろう。
俺も真剣にこの検査に協力するんだ。正確に能力を測ってもらう為に、体を委ねる。
余計なこと考えてたら、一生懸命やってるトマトに失礼じゃないか。
そう、俺は真面目に検査をされるぞ。真面目に、真面目に、真面目に、真面目に…………
「鳥太様、あの、硬くなっているのですが…………」
「――!?」
慌てて下腹部を見ると、腰に巻かれたタオルの形状はフラットだった。
セーフ……第二の人生が最悪の形で幕を閉じるかと思った…………。
「鳥太様、どうかされましたか? 体に力が入っているようですが……力んでいると能力が測りづらくなってしまうので、リラックスしてください。私がへたで申し訳ないのですが……」
「いや、トマトのせいじゃないよ。初めてだから緊張しちゃって」
女子か俺は。
「そうだったのですね。大丈夫ですよ。もうすぐ終わりますから」
トマトは白衣の天使のような笑顔で言い、残りの部位もすべて丁寧な手つきで終えた。
湯上りのような火照った体に、謎の脱力感と疲労感を乗せて、トマトと顔を合わせる。
「お疲れ様でした。体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
「いいえ、お礼なんて言わないでください。鳥太様、結果を期待していてくださいね」
トマトはハリツヤのある顔で、妙に満足気な表情を浮かべていた。
綿が剥き出しになっているような材質のソファがあり、座ると雲のような感触が体をすっぽり包み込んだ。
「鳥太様、これからは私の下で働いていただきますので、鳥太君と呼ばせていただきます」
「はい」
「それと、不揃いの敬語ももう少し頑張ってください。多少は多めに見てあげますが、あまりにもひどい場合、Eクラスのメイドと一緒にお勉強することになります」
「う……頑張ります」
俺の苦手分野だ。
「ではこれから説明しますね。まずメイドの現状についてですが」
クリーム色の瞳が薄く陰りを見せた。
「先ほども説明した通り、メイドの技能は執事に大きく劣っている為、世間的地位は非常に低いのです。中には“メイドの『ド』は奴隷の『奴』”と差別的な発言をする人もいます。そして、私達の派遣しているメイド達の中には、そのような心無い人達によって、辛い目に遭う子が少なくはないのです」
「…………」
トマトが街中で虐められていた光景を思い出し、胸の中に重たい何かが沈んだ。
あんな目に遭ってるメイドさんが他にもいるのか。それも日常的に。
「鳥太君はこの仕事に一番大切なものを持っています。この話を聞いて深刻な表情をしてくれる人はなかなかいません。この仕事をこなせる人が見つからなかった理由の一つはそれなのです」
「ああ、だってメイドが傷つけられてるなんて、許せる話じゃない」
「ええ、私もそう思います。いまの言葉遣いは見逃してあげましょう」
言われた直後にやらかしてしまった。敬語だ。敬語。
「鳥太君のお仕事は、そのような人々からメイドを守ることです。しかし、一般的にメイド相手には何をしてもいいという風潮が流れているため、基本的には実力行使しかありません」
「そんな物騒なのか」
「当然、自分の身は自分で守らなければならない世界です。しかし自らの身を守ることができないメイドは、誰かが守ってあげなければ死んでしまいます」
死……。
フィルシーさんの重い言葉が誇張などではないことは、わかっている。
トマトがされたようなことが日常的に起きていれば、死にも容易に結びつくだろう。
「まずは何をすればいいですか?」
「鳥太君、いますぐにでも飛び出しそうな元気はいいのですが、お仕事を始める前にしなければならないことがあります」
フィルシーさんは棚から一枚の厚紙を抜き取り、差し出してきた。
「まずは鳥太君の能力をこのシートにまとめ、それを元に能力カードを作ります。カードがなければどのようなお仕事もできませんから」
「へぇ、能力が数値化されるのか……」
前のめりで眺めていると、フィルシーさんが呆れた顔をした。
「鳥太君、本当に何も知らないのですね……。お仕事には必ず自分のステータスを示すカードが必要なのですよ。まずテストの段階でクシィより強いことがわかったので、戦闘力はひとまずAとしておきます。次は具体的な身体能力、職業、スキル、お仕事内容を記入します」
「わかりました」
今度はちゃんと敬語で返事ができたぞ。
「いいお返事です。では、まず身体能力の検査ですが、ルッフィランテで男性従業員は初めてですので、外部のメイドに頼みましょう。本当は信頼関係のあるメイドに頼んだ方が鳥太君にとってはいいと思いますが、メイドの存在を知らなかった鳥太君に専属メイドはいないでしょう」
「いないです。けど、トマトやクシィはだめですか? 二人なら今日一日だけど少しは気ごころが知れてるし、全く知らないメイドさんよりは信頼できると思いますけど」
「鳥太君……あなたはときどきメイドのことを“メイドさん”と呼びますね」
げ、無意識に口にしてたか。
自分では気を付けてるつもりだったけど、普段の癖は抜けないよな……。ここにきて自分の発言のぼろさが露呈してる……。
「まあ、それはいいでしょう。トマトとクシィは喜んで引き受けると思いますし、鳥太君が希望するのであれば、二人のどちらかにやらせましょう。ちなみに、どちらがいいですか?」
「…………えぇ…………」
答えにくいな。
これで選んだ方が俺の中でランクが上みたいな扱いになりそうだ。
「じゃあ、その“検査”が得意な方で……」
無難に答えると、フィルシーさんはつまらなそうに唇を尖らせた。
「仕方ありませんね。ではクシィに任せましょう」
そう言って部屋を出て行ったフィルシーさんは、二分後にトマトを連れて戻ってきた。
「あれ? なんで」
「クシィは買い物に出かけていました。トマトに伝えたところ、“どうしても”自分がやりたいとのことでしたので」
「フィルシーさんっ、そんなことは言ってません!」
「ではクシィが帰ってくるのを待ちましょう」
フィルシーさんが意地悪な笑みを浮かべると、トマトは「そんなばかな!?」と顔でリアクションした。
ここまで連れてこられて用無しと言われたらそうなるよな。
「フィルシーさん、私にやらせてください……」
トマトが泣きそうな声で言うと、フィルシーさんはどことなく嗜虐的に微笑んだ。
「冗談ですよ。トマト、鳥太君をご案内しなさい」
「はいっ! 鳥太様、こちらにどうぞ!」
そうしてトマトに連れて行かれたのは、水色の斑模様が埋め尽くす部屋だった。
防水らしき素材はツルツルと滑る代わりに、斑模様の浮き出た部分が滑り止めになっている。
部屋の中央には浅く広いバスタブ。
そして俺は『クロスローブ』という名の布一枚を腰に巻き、ほぼ全裸に近い状態だった。
「………………」
身体能力の検査って、てっきりスポーツテストだと思ってたんだが……。
「トマト、これって身体能力の検査なんだよな?」
「はい、もちろんそうですよ」
答えるトマトは、真っ白な吸水素材で編み込まれたメイド服型のバスローブに身を包んでいる。
正直、俺一人だけこの格好はかなり恥ずかしい。
「リラックスしてください、痛いことはありませんから。まずはそこに仰向けで寝てください」
「おう」
言われるままにバスタブに足を踏み入れると、光沢のある液体が生ぬるく体を包んだ。
「え……ちょっと待て」
「どうされましたか? 鳥太様」
「いや、なんでもない……大丈夫だ」
水面に映った俺の顔は、転生前の顔の雰囲気を残したまま、こちらの世界で違和感がないレベルまで補正がかかっていた。
これはイケメンと呼んでもいいんじゃないか……?
よく考えれば、人間の身体能力を超えてる時点で俺の肉体は当初の物ではないし、顔が変わっていてもおかしくはない。
こんな変化にいままで気付かなかったとはな……。
「鳥太様、じっと水面を見つめてどうされたのですか? 温度が合っていませんでしょうか……」
「大丈夫、温度は丁度いいよ」
平然を装ってバスタブに身を投じる。
その瞬間、体の芯まで熱が浸透し、体内が純度の高い液体で満たされていくような感覚があった。
「これは、気持ちいいな」
「よかったです。ではいまから検査を始めますね」
トマトは真剣な口調で言った後、俺の背後に立った。
「身体能力を部位別に測定していきます」
「おう」
バラ売りされる魚みたいな気分で答えると、背中に柔らかい手が乗せられた。
ぐぐぐぐぐ、と力が入れられる。
この世界で俺の身を包んでいた筋肉は常に力んでいるかのように硬いが、トマトの手のひらはそれを容赦なく押し広げた。
これまで気付かなかったけど、トマトも普通の女の子の倍くらいのパワーがある。この世界では最弱に近いのかもしれないけど、人間の基準で見れば力持ちだ。
そんなトマトによる検査は、マッサージのように心地よく、自分でも気づかなかった疲労が体内から全て抜け落ちていくようだった。
背中から、足、腕、肩、と体の大きな部位をほぐされ、足の裏や手のひら、首や頭まですべて丁寧な手つきでこなされていく。
その度にトマトは用紙に何かを記入し、「すごいです」とか「おおっ」とか呟いている。
「この検査はよくやってるのか?」
「はい、メイドは全員この検査を定期的に受けているので、Eクラス以上のメイドはみんな毎年やっています。男性は初めてですけど、触れた感覚でこれまで測定したことのない数値もちゃんとわかりますよ。安心してください」
トマトはお仕事モードに入っているのか、妙に集中していて頼もしい。
流れるような説明も心地よく耳に入ってくる。
フィルシーさんが言ってた気心知れたメイドがいいというのはこういうことか。これなら安心だ。
「では、鳥太様、仰向けになってください」
「…………………………えっ」
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもないよ」
動揺を悟られないように、言われた通り仰向けになる。
さっきと同じことを前向きでやるだけだ。大丈夫。頑張れ俺のメンタル。
「…………っ⁉」
いきなり太ももに手が伸びてきた。
いや、これはただの検査。妙なリアクションをしても気まずくなるだけだ。
落ち着け、落ち着け……。
よし、いけるぞ。そう、俺は魚だ。いまから解体されて市場に売られていくだけだ。そう考えれば何も変な感情は浮かばない。完全な無だ。
無、無、無…………
「――――っ⁉」
大胸筋も同じように、トマトの手が添えられた。
撫でるような手つきが妙に気持ちよく、別のベクトルに意識が持っていかれそうになる。
いや、これはただの検査。
そしてこの手はオッサンだと思おう。
そう、整骨院のオッサンだ。オッサン……オッサン……オッサン…………
「……………………」
いや、無理だろ…………。
どう考えてもオッサンじゃないだろこれ。
ここはもう直球に、真面目になろう。
俺も真剣にこの検査に協力するんだ。正確に能力を測ってもらう為に、体を委ねる。
余計なこと考えてたら、一生懸命やってるトマトに失礼じゃないか。
そう、俺は真面目に検査をされるぞ。真面目に、真面目に、真面目に、真面目に…………
「鳥太様、あの、硬くなっているのですが…………」
「――!?」
慌てて下腹部を見ると、腰に巻かれたタオルの形状はフラットだった。
セーフ……第二の人生が最悪の形で幕を閉じるかと思った…………。
「鳥太様、どうかされましたか? 体に力が入っているようですが……力んでいると能力が測りづらくなってしまうので、リラックスしてください。私がへたで申し訳ないのですが……」
「いや、トマトのせいじゃないよ。初めてだから緊張しちゃって」
女子か俺は。
「そうだったのですね。大丈夫ですよ。もうすぐ終わりますから」
トマトは白衣の天使のような笑顔で言い、残りの部位もすべて丁寧な手つきで終えた。
湯上りのような火照った体に、謎の脱力感と疲労感を乗せて、トマトと顔を合わせる。
「お疲れ様でした。体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
「いいえ、お礼なんて言わないでください。鳥太様、結果を期待していてくださいね」
トマトはハリツヤのある顔で、妙に満足気な表情を浮かべていた。
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