ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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 三人が「不帰の森」に飛ばされ、はや三週間が経過し――

 神妙な面持ちで何かを見つめる、ラミウムとドロプウォート。
「何故なんだぁい……」
「どうしてなのでしょう……」
 虚脱交じりの落胆をこぼすと、そんな二人を前に、

「い、いやぁ~あはははは……面目ないですぅ」

 やたらと乾いた笑いで何かを誤魔化すラディッシュの姿が。
 三人は汚染獣たちの襲撃を幾度となく回避しつつ、ラディッシュを生徒に、青空勇者教育を続けていた。

 しかしその甲斐なく、全くと言って良いほど、勇者としての素養に上達の気配が見られなかったのである。
 中世の人々の信仰対象でもある「百人の天世人」の一人、「神の如きラミウム」が直接指導で天法を教え、四大貴族が一子であり、誓約者候補生の中で首席の成績を収め、秀でた能力を持つ「先祖返り」でもあるドロプウォートが剣術を指南すると言う、人も羨む勉強下にありながら。

 天法においては初歩の初歩、万物から少しずつチカラ(精気)を分けてもらう事すら出来ない不器用で、剣を握れば足腰が定まらず、構えさえままならない。
 剣術が上達しない理由に至っては、剣の重さが原因なのではなく、人を殺める武器である「凶器」を手にしている事に怯えた、「精神的へっぴり腰」である。

 見かねたドロプウォートが「学業ならば」と、この世界の学問を教えたが、突出した才能が開花する訳でもなく、この世界における一般的な知識を身に付けるに止まり、

「む、ムリョクですわ……」

 落ち込むドロプウォートと、
「アタシやぁ召喚する人間を間違えたのかねぇ……」
 少々お疲れ気味のラミウム。
 そんな二人を前に当のラディッシュはと言うと、さして身に堪えた様子も見せず、

「あはははは。なんかヒドイ言われようなんだけどぉ」

 軽やかに笑いながら「イチョウ切り」にした根野菜を鍋に投入し、お玉で中をかき回すと小皿に少量すくって味を確認。
「うん。味付けは、こんなもんかなぁ。後は煮込めば完成ぇと♪」
 満足げな笑み。

「「…………」」

 魔王と戦う為に召喚された勇者の一人とは思えない、呑気な笑顔に、
「はぁ~~~~~~」
 ラミウムは長いため息を一つ吐き、
「アタシぁ、ひとぉ眠りするよぉ……」
 二本の太い木の幹に渡す様に括り付けた布の中央で横になり、二人に背を向け寝息を立て始めた。
いわゆる「ハンモック」である。

 ラミウムが「木の上で寝るのはもう嫌だ」、「地べたでも寝たくない」と駄々をこねるので、宥める為にラディッシュが思い付きで作った物である。
 実際に体を動かし製作したのはドロプウォートであるが。

 ツタ状の植物を採取、泥に浸して腐らせ繊維だけ取り出し乾燥させ、縄状に編み、更にそれを網目状に組んだ上に、毛足の短い動物の毛皮を敷いて作られている。

 思い付きと聞くと、さもラディッシュが発明した様に聞こえるが、正確に言えば「地球に居た頃の記憶の断片」が顔を出しただけの事であり、「ハンモック」と言う名前すら覚えていないのが実情である。
 ラディッシュ自身、数々の品を手作りする中で、慣れからもはや「何故思い付くのか」に興味は無くなり、左右に揺られながら穏やかな寝息を立てるラミウムの背を満足げに見つめ、
「気に入ってくれたみたいで良かったぁ。それにしても、最近のラミィは寝てばっかりだねぇ♪」
 勇者として役に立っていないが、人の役に立つ事で「自身の存在価値」を見出し、安堵と喜びを感じていると、

『ラディ……』

 背後から改まった声が。
「ん?」
 振り返ると、そこには茶化せる空気ではない、真っ直ぐな目を向けるドロプウォートの顔が。
いつになく真剣な眼差しに、少し気圧され気味な戸惑いを覚えつつ、

「ど、どうかしたの、ドロプさん?」

 するとドロプウォートが重みのある口調で、
「ラディ……貴方は、実は強くなりたいと思っていないのではなくて?」
「!」
 逃れる様に泳ぐ視線に、
「やはり何かありますのね」
 穏やかな笑みを見せると、

「……ご……ごめん。自分でも理由は、よく分からないんだけど……」

 言葉少なに謝罪したラディッシュは、うつむき加減でポツリ、ポツリと、
「ただ……自分以外の誰かを傷つけるチカラなら、欲しくない……そう思うと……稽古にも身が入らなくて……」
「…………」
 無言で見つめる眼差しに、ハッと我に返って振り返り、

「ご、ゴメンね! 二人とも大事な時間を割いてまで教えてくれてるのにぃ! しかもこんな身勝手な理由でぇ!」

 慌てて頭を下げつつ、苦し気な表情で、
「食べなきゃ生きていけないから動物や植物を食べてはいる……けど、本当はそれだって……」
 幻滅される事を覚悟の上で、心の内を包み隠さず話したラディッシュ。
 不甲斐無い自分に対して真摯に取り組んでくれるドロプウォートを、上っ面のウソ話で煙に巻く事など、彼には出来なかったのである。
「勇者召喚に同意した時点で何かを傷つけるのは決まってる事だし、今更「キズつけたくない」なんて身勝手な話なのも分かってる……」
 言葉は次第に尻つぼみ、
「弱いままだと二人に迷惑を掛け続ける事になるのも……」
 葛藤を吐露すると、得心がいったドロプウォートが小さく息を吐き、
「そう言う事ですの……」
 笑顔を見せ、

「貴方は優し過ぎますのね♪」
「へぇ?!」

 女性からの「称賛経験値ゼロ」のラディッシュ。途端に、テレから顔を真っ赤に染め上げ、

「ちっ、違うよ、そんなカッコイイ話じゃなくてぇ単に身勝手なだけだよ! やっ、優しいなんてぇそんなぁ!」

 慌てて取り繕うと、笑顔のドロプウォートがジェスチャーでそれを制し、
「下を向く必要なんてありませんわ♪」
「え?」
「ただ厳しく、冷たいだけの勇者や戦士など、いくらでも居りますわ。それに、ラディ」
「?」
「貴方は、貴方に自覚が無くとも、今、貴方にしか成り得ない「真の勇者の姿」を模索しているさ中なのですわぁ」
「そ、そうなの、かなぁ……」
「ですわぁ。ラミィが根気強く教え続けているのも、それと分かっての事なのでしょう」
「そ、そぅだと……良いんだけどぉ……」
 左右に小さく揺れるラミウムの背中を、決まりが悪そうに見つめると、

「貴方が作った寝床籠(ねどこかご)……ラミィは随分気に入っている様ですわねぇ」
「う、うん、そうだね……」
(作ったのは、ドロプさんだけど……)

 話の腰を折る訳にもいかず、愛想笑いでお茶を濁すと、
「消された筈の「異世界の知識の断片」……」
「え?」
「それと一緒ですわ」
「ど、どう言うこと?」
 身を乗り出すと、
「天法や剣術が、今はうまく出来なくとも、その「知識と経験」は、確かに貴方の中に蓄積されていますわ」
「…………」
「そしていつか、ラディが自らの「勇者の有り様」を見出した時、貴方の中で大きく芽吹くものと、私は思いますわ」
「ははは……だと良いなぁ……」
「ですから、覚悟して下さいですわ」
「へ?」
「これからも容赦なく、ビシバシしごきますから♪」
 厳しい言葉とは真逆の可愛らしい微笑みが、むしろ怖さ三割増し。

「お、お手柔らかにお願いします……」

 引きつり笑顔を返すしかないラディッシュ。
 するとドロプウォートが早速何か思いついた様子で、

「そうですわ!」

 バッと立ち上がり、
「見て学ぶ「見稽古」と言う言葉がありますわ! ですから先ずは私の剣術を見て、」
 満面の笑顔で剣の柄(つか)に手を掛けると、ラディッシュの脳裏を不穏な記憶が横切り、

「ちょ、ちょっと待ってドロプさん!」

 慌てて中断させ、
「何ですのぉ?」
「こ、この間(森が一面火炎地獄)みたいな事には……」
 念のために釘を刺したが、何処から来る自信なのか、

「だ、大丈夫ですわぁ♪」

 ドロプウォートは軽やかな笑顔で笑い飛ばし、
「これから披露いたしますのは、剣舞(けんぶ)。一つ一つの剣技を鎖の様につなげ、一連の動きの中で「技」を修得すると言う「舞」のようなモノですわ♪」
「へ、へぇ~そなんだぁ」
(よく分からないけど「舞」なら大丈夫……かなぁ?)
 愛想笑いで不安を濁すと、察したドロプウォートが「何の問題も無い」と言わんばかりに、
「これもラディの中で蓄積となるのですわぁ」
 笑顔で安堵を促したが、自身で言った言葉に、

(わっ、私がラディの中に蓄積されてぇ?!)

 風紀上よろしくない妄想でボッと顔を赤らめ、
「ど、どうかしたの、ドロプさん???」
 心配して近づけられた顔に、

「なっなななななななななんぁん何でもありませぇんですわぁあぁぁ!」

 必死に誤魔化そうとキレ気味の一声を上げ、
(ワタクシなんて淫らな事をぉ!)
 心の中では両手で顔を覆い隠して猛省、

(お、おぉおおぉ落ち着くのですわぁワタクシぃいぃ! なァ何を動揺してますのぉ!)

 深呼吸で一旦気持ちを整え、
「ふっ、ふっうぅうぅ…………」
 冷静さを半分ほど取り戻すと、

(行きますわぁ!)

 神に舞を捧げるが如く静かに目を伏せ、
 左手で鞘の端を静かに持ち、
 右手で剣の柄を静かに持ち、
 静かに両手で持ち上げ、
 次の瞬間、カッと両眼を見開くと同時に、右手で剣を鞘から素早く抜き出し、左手に鞘を持ち、剣舞は厳かに開始された。
 日頃、ともすればガサツに見えるドロプウォートが魅せる、神楽が如き優美な舞に、
(何て言えば良いんだろぉ……)
 思わず見惚れ、

(上手く言葉に出来ないけど……そぅ……すごくキレイだ…………)

 目が離せなくなるラディッシュ。
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