ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
53 / 895

1-53

しおりを挟む
 そこには、先にパストリスに行ったと同様に耳や尾まで消え、完全なる「人の姿」と化し、正気を取り戻して狼狽する無数の村人たちの姿が。

 周囲の森からも汚染獣の気配は消え、しおれていた草花たちは生命の輝きを取り戻して夜明けを迎えた天を仰ぎ、
(ラミィが遥か昔に「序列一位だった」と言う噂……アレはあながち、嘘、偽りの類いではないかも知れませんですわ……)
 地世の導師の名前を知っていた事に対する疑心を抱きつつも、まざまざと見せつけられたチカラの差に、素直に感嘆していたが、
 その一方で、
(私に、これだけのチカラがありましたら……)
 自身の努力を、せせら笑う者たちの影が脳裏にチラつき、

(誰にも何も言わせずっ黙らせぇる事が出来ますのにぃ!)

 強い嫉妬を覚えずにいられなかった。

 しかし、彼女のその様な「内なる葛藤」など知る由もないラディッシュ。
 ドロプウォートの苦悩には気付かず、敵を退けた上に、村人たちを差別から解放したラミウムの御業に、喜び、打ち震え、理由の分からぬ悲愴感に包まれるラミウムを元気づけようと満面の笑顔で、

「スゴイよぉラミィ! ラミィって、やっぱり「女神様」なんだねぇ!」

 栄(は)やしたが、
「ク……」
 ラミウムが突如、苦悶の表情で片膝を地に着け、

「「ラミッ!」」

 慌てて支えるラディッシュと、駆け寄るドロプウォート。
 不安げに見つめる二人の眼差しに、ラミウムはいつも通りの斜に構えた笑み浮かべ、
「へっ……最近ちぃ~とばっか寝不足でねぇ……立ち眩みっちまったのさぁねぇ……」
 自嘲気味な軽口こそ叩いて見せたが、青白く変色した顔から窺える疲労は深刻で、強気な彼女が初めて見せた「弱り切った姿」でもあった。

 不安の色を隠せない二つの顔を前に、
「なんだいなぁんだい二人してぇ、なぁんてぇ顔してんだぁい」
 弱弱しくも皮肉った笑みを浮かべ、
「アタシともあろぅモンがぁ舎弟に心配されるとはぁ……まったく世話ない話さぁねぇ……」
 自身をも皮肉り、無理に立ち上がろうとすると、

『僕を支えに屈んでてぇ!』
「!?」

 ラディッシュが見せた「感情剥き出しの強い口調」に、少し驚くラミウム。
 それ程までに彼が心配している裏返しであるとは十分理解しつつ、素直ではない性格ゆえ、厚意に気付かぬフリしてフッと小さく笑い、
「そぅかいよぉ……まぁ、今はアンタの顔を立ててやんよぉ」
 弱り切った中で精一杯の憎まれ口を叩いた。
 
 そんな彼女の変わらぬ皮肉屋ぶりに、安堵するドロプウォート。呆れを冗談交じりに、
「貴方と言う方はぁ、この様な時まで上から目線ですのぉ?」
 するとラミウムも、
「ワルイかぁい?」
 そんな二人にラディッシュも、
「でもぉ、なんかラミィらしい」
 笑い合っていると、

『なんて事をしてくれたんじゃい!』

 微笑ましい時間を引き裂く、聞き覚えのある叱責声が。
「「「?!」」」
 振り向くと、屋根の上によろめきながらも上がって来る、一人の老人の姿が。

 容姿こそ違えど、その声と物腰は、紛れも無く村長そのモノ。
 後に続いて上がって来た、人間の姿となった村人たちも、

「今更こんな非力な姿にされて、これからどうやって生きれば良いんだ!」
「どうしてくれるんだよ!」
「どうすれば良いのよォ!」

 上がった声は「賛辞」ではなく、「面罵」の数々。
 止む事なく浴びせ掛けられる不平不満と悪罵の輪唱に、
「なんで?!」
「どう言う事ですの?!」
 訳が分からず唖然とするラディッシュとドロプウォート。助けた筈の人々から投げつけられた誹謗に狼狽する中、ラディッシュに支えられたラミウムは苦笑を浮かべ、
(へぇ~そぅ来たかぁい……これだから「人間」ってヤツぁねぇ)
 人が持つ業の深さに、改めて辟易していると、

『いい加減にして下さぁい!』
「「「!?」」」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 怒鳴り声の主は「人間の姿」のパストリス。
 唇を真一文字に結んだ彼女は、まるで今まで抱えて来た苦悩の全てを吐き出す様に、

「妖人の姿の時には「こんな姿になったのは地世のせいだ」と嘆くだけで! 日々の暮らしが苦しいのは「中世の差別のせいだ」と言い訳しての盗賊行為ぃ! 挙句に人に成れたら成れたで今度は「弱くなった」と天世の方々を責めるんでぇすかぁ!」
「事実じゃろがぁ!」

 中世の「普通の老人」となった村長は地団駄を踏み踏み、

「そもそもが「裏切り者の娘」の分際でぇ何を偉そうに語るかぁ! 今更こんな非力な姿にされたワシ等に、この先どぅやって生き行けと言うんじゃい!」
「「「「「「「「「「そうだ! そうだ!」」」」」」」」」」

 同胞たちの感謝を忘れた大合唱に、
「な!」
 驚きを隠せないパストリス。

 この様な非常時ゆえに本音を語り、村の有りように異を唱える村人が「僅かながらも居るのでは」と心の片隅で信じていたのだが、その願いは儚くも打ち砕かれ、悔しさから唇をギュッと噛み、

「だから父さんの言った通りぃ! 地道に田畑を耕せば良かったじゃないでぇすかァ!」

 怒りを爆発、

「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」

 熱を以っての「正論と気迫」に気圧される大人たちを前に、

「ラミウム様の姿を見て下さぁい!」

 そして少女は思いの丈をぶつける様に、

「こんなボク達なんかの為に、こんなになるまで戦ってくれた方を、他人の苦労を横からかすめ取っていたダケの皆さんに責める資格があると思うんでぇすかァ!」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 返す言葉さえ見つけられず、うつむく村人たち。
 彼らとて、善悪の分別が付かないほど人として堕ちていた訳ではない。
 差別により行き場が無く、貧しさ故に選んだ結果が「盗賊行為」であり、それが恥ずべき行為である事も心では分かっていた。
 分かってはいたが何もしないで生きられる訳も無く、全ては生きる為、家族を養う為、良識の上に「頭で描いた理屈(言い訳)」で蓋をして、自分自身の心をも偽り、今日まで来た。

 しかし、その偽りで固められた心のメッキが年端も行かぬ少女の「熱い教戒」により、剥がれ落ちてしまったのである。
 曝け出された良心。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に失敗したと捨てられましたが、魔王の家政婦になりました。

藤 ゆみ子
ファンタジー
家政婦として働いていた百合はある日、会社の倒産により仕事を失った。 気が沈んだまま家に帰り、おばあちゃんの仏壇に手を合わせていると突然知らない場所にいた。 訳がわからないまま、目の前にいる神官に勇者の召喚に失敗したと魔王の棲む森へと捨てられてしまう。 そして魔物に襲われかけたとき、小汚い男性に助けられた。けれどその男性が魔王だった。 魔王は百合を敵だと認識し、拘束して魔王城へと連れていく。 連れて行かれた魔王城はボロボロで出されたご飯も不味く魔王の生活はひどいありさまだった。 それから百合は美味しいご飯を作り、城を綺麗にし、魔王と生活を共にすることに。 一方、神官たちは本物の勇者を召喚できずに焦っていた。それもそう、百合が勇者だったのだから。 本人も気づかないうちに勇者としての力を使い、魔王を、世界を、変えていく。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

処理中です...