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第二章
2-8
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教会の中庭で対峙するラディッシュとドロプウォート――
間に立つのは審判役のパストリス。
しかし二人の実力差は火を見るより明らかで、
(二人の本気に押されて審判役を引き受けちゃったでぇすけどぉ……止めなくて本当にイイのかなぁ……)
思い惑うパストリスであったが、他者の介入を是としない眼差しを向け合う二人を目に、
(今は(二人に)任せようでぇす)
腹を括り、
『始めぇでぇすぅ!』
開始の一声を上げてわずか一秒、
「!」
ラディッシュは地面に伏していた。
正に手加減無し。
彼はドロプウォートの「高速の初太刀」を首元に受け、敢え無く、声も無くうつ伏せに倒れたのであった。
早くも気絶しているのか、足下で身動き一つしない背に、
「口ほどにもありませんですわ」
彼女は冷めた一瞥をくれると背を向け、その場から立ち去ろうとした。
しかし、
「?」
何かを見て息を呑むパストリスに目が留まり、視線を追うと、
「!」
そこにはヨロヨロと立ち上がるラディッシュの姿が。
たった一刀を浴びただけでダメージが深刻そうな彼であったが、眼は死んでおらず、
「ま、まだだよぉ、ドロプさぁん……」
木剣を構え直す姿に、
「……いいでしょう」
ドロプウォートも静かに、平静に剣を構え直し、開始を躊躇うパストリスにアイコンタクト。
戸惑いながらも彼女は小さく頷くと、
「は、始めでぇす!」
再開の合図を叫び、
バシッ!
結果は先と同じ。
合図と同時くらいの勢いで、ラディッシュは再び地に伏した。
しかし木剣を杖代わりに立ち上がり、
「ま、まだだ……」
この不毛とも思える繰り返しは、彼が意識を失い、戦闘不能になるまで続いた。
いったい、何度同じ事を繰り返したであろうか。
「…………」
傷だらけでうつ伏せるラディッシュの背を、息一つ乱さず見下ろすドロプウォート。
その立ち姿は、まるで仁王。
身動き一つしなくなった彼の背に、
「今まで教えた事が「まるで身についていない」ですわ。気持ちだけでは勝てませんですわ」
オーバーキル、トドメの一言を放つと、素気無く背を向け、
「パスト。ワタクシは湯浴みをしてまいりますので、後はお願いしますわ」
ラディッシュの介抱だけ頼み、その場から立ち去り、
(すごく痛そうでぇすぅ……)
悲痛な表情のパストリスが見つめたのは、ドロプウォートの消えた背中であった。
想い人を、自らの手で、打ちのめし続けた彼女の「内なる辛さ」をおもんぱかり。
それからどれほどの時間が経過したであろうか――
「い、いっつつつつ……」
打ち身による痛みから目を覚ますラディッシュ。
いつの間に、誰に運ばれたのか、自室のベッドで横たえる自身に気付き、
(そうか……僕、途中で意識を失って……)
現状を分析できるだけの思考が戻ると、
(そうだ! 早くドロプさんから一本取らないと!)
慌てて起き上がろうとしたが、
「イダァあぁ!」
全身を駆け巡る激痛に悲鳴を上げた。
すると、
『無茶しちゃダメでぇすぅ』
傍らから、気遣うパストリスの優しい声が。
「でっ、でも僕は!」
焦りを露わにするラディッシュ。
しかし、口にしかけた「とある言葉」は飲み込んだ。
一分、一秒でも早く、ドロプウォートから一本取らなければならい理由を、まかり本人に知られてしまったら、心根優しき彼女は「故意に一本取らせる」と思い、その様な事になれば「ラミウムの手掛かりが水泡に帰する」と思われたから。
明かせぬ思いを胸に秘め、痛みで動けぬ自身の体を呪い、苦悶の表情を浮かべるラディッシュ。
そんな彼に、パストリスは穏やかな笑みを浮かべたまま、
「どんな理由があるかは知らないでぇすけどぉ、闇雲に突っ込むだけじゃダメでぇすぅ」
苦言を呈し、
「ラミィさんと、ドロプから剣術を教わっていた話は聞きましたでぇす。その時に教えてもらった事を活かさないとぉ勿体ないでぇすぅ♪」
「!」
(そうだ……そうだった……僕は焦るあまり……)
大切な事に気付かされ、気付きと共に顔つきが変わるラディッシュ。
焦りと苦悩ばかりが表れていた彼の表情に、良い方向の変化がパストリスには見て取れニコやかに、
「早く、強くなって下さいでぇす♪」
「え?」
「だってぇ、ラディさんよりドロプの方が、ず~っと「痛い思い」をしてるんでぇすよぉ?」
「あ……」
一見、冷徹に木剣を振るっていた彼女が、無表情の中に微かに滲ませていた「沈痛」を思い出すラディッシュ。
(ダメだな僕は自分の事ばかり……今は先ず、強くなるのに専念しよう)
自嘲気味の笑みを浮かべ、
「うん! 駆け足で強くなるよ!」
屈託無い笑顔をパストリスに向け、向けられたパストリスも、
「はい、でぇすぅ!」
笑顔を返しながら、
(塩を送るのは「ここまでぇ」でぇすよぉ、ドロプぅ♪)
ライバル(恋敵)としての想いを新たにした。
間に立つのは審判役のパストリス。
しかし二人の実力差は火を見るより明らかで、
(二人の本気に押されて審判役を引き受けちゃったでぇすけどぉ……止めなくて本当にイイのかなぁ……)
思い惑うパストリスであったが、他者の介入を是としない眼差しを向け合う二人を目に、
(今は(二人に)任せようでぇす)
腹を括り、
『始めぇでぇすぅ!』
開始の一声を上げてわずか一秒、
「!」
ラディッシュは地面に伏していた。
正に手加減無し。
彼はドロプウォートの「高速の初太刀」を首元に受け、敢え無く、声も無くうつ伏せに倒れたのであった。
早くも気絶しているのか、足下で身動き一つしない背に、
「口ほどにもありませんですわ」
彼女は冷めた一瞥をくれると背を向け、その場から立ち去ろうとした。
しかし、
「?」
何かを見て息を呑むパストリスに目が留まり、視線を追うと、
「!」
そこにはヨロヨロと立ち上がるラディッシュの姿が。
たった一刀を浴びただけでダメージが深刻そうな彼であったが、眼は死んでおらず、
「ま、まだだよぉ、ドロプさぁん……」
木剣を構え直す姿に、
「……いいでしょう」
ドロプウォートも静かに、平静に剣を構え直し、開始を躊躇うパストリスにアイコンタクト。
戸惑いながらも彼女は小さく頷くと、
「は、始めでぇす!」
再開の合図を叫び、
バシッ!
結果は先と同じ。
合図と同時くらいの勢いで、ラディッシュは再び地に伏した。
しかし木剣を杖代わりに立ち上がり、
「ま、まだだ……」
この不毛とも思える繰り返しは、彼が意識を失い、戦闘不能になるまで続いた。
いったい、何度同じ事を繰り返したであろうか。
「…………」
傷だらけでうつ伏せるラディッシュの背を、息一つ乱さず見下ろすドロプウォート。
その立ち姿は、まるで仁王。
身動き一つしなくなった彼の背に、
「今まで教えた事が「まるで身についていない」ですわ。気持ちだけでは勝てませんですわ」
オーバーキル、トドメの一言を放つと、素気無く背を向け、
「パスト。ワタクシは湯浴みをしてまいりますので、後はお願いしますわ」
ラディッシュの介抱だけ頼み、その場から立ち去り、
(すごく痛そうでぇすぅ……)
悲痛な表情のパストリスが見つめたのは、ドロプウォートの消えた背中であった。
想い人を、自らの手で、打ちのめし続けた彼女の「内なる辛さ」をおもんぱかり。
それからどれほどの時間が経過したであろうか――
「い、いっつつつつ……」
打ち身による痛みから目を覚ますラディッシュ。
いつの間に、誰に運ばれたのか、自室のベッドで横たえる自身に気付き、
(そうか……僕、途中で意識を失って……)
現状を分析できるだけの思考が戻ると、
(そうだ! 早くドロプさんから一本取らないと!)
慌てて起き上がろうとしたが、
「イダァあぁ!」
全身を駆け巡る激痛に悲鳴を上げた。
すると、
『無茶しちゃダメでぇすぅ』
傍らから、気遣うパストリスの優しい声が。
「でっ、でも僕は!」
焦りを露わにするラディッシュ。
しかし、口にしかけた「とある言葉」は飲み込んだ。
一分、一秒でも早く、ドロプウォートから一本取らなければならい理由を、まかり本人に知られてしまったら、心根優しき彼女は「故意に一本取らせる」と思い、その様な事になれば「ラミウムの手掛かりが水泡に帰する」と思われたから。
明かせぬ思いを胸に秘め、痛みで動けぬ自身の体を呪い、苦悶の表情を浮かべるラディッシュ。
そんな彼に、パストリスは穏やかな笑みを浮かべたまま、
「どんな理由があるかは知らないでぇすけどぉ、闇雲に突っ込むだけじゃダメでぇすぅ」
苦言を呈し、
「ラミィさんと、ドロプから剣術を教わっていた話は聞きましたでぇす。その時に教えてもらった事を活かさないとぉ勿体ないでぇすぅ♪」
「!」
(そうだ……そうだった……僕は焦るあまり……)
大切な事に気付かされ、気付きと共に顔つきが変わるラディッシュ。
焦りと苦悩ばかりが表れていた彼の表情に、良い方向の変化がパストリスには見て取れニコやかに、
「早く、強くなって下さいでぇす♪」
「え?」
「だってぇ、ラディさんよりドロプの方が、ず~っと「痛い思い」をしてるんでぇすよぉ?」
「あ……」
一見、冷徹に木剣を振るっていた彼女が、無表情の中に微かに滲ませていた「沈痛」を思い出すラディッシュ。
(ダメだな僕は自分の事ばかり……今は先ず、強くなるのに専念しよう)
自嘲気味の笑みを浮かべ、
「うん! 駆け足で強くなるよ!」
屈託無い笑顔をパストリスに向け、向けられたパストリスも、
「はい、でぇすぅ!」
笑顔を返しながら、
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