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第四章
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しおりを挟むキーメとスプライツから聞いた隣国の「特殊機関の実情」を知り、怒りも新た「挙兵の許可」を上申していたのである。
玉座の王を前に跪いてこそいたが、今にも迫り掛かりそうな勢いで。
同席していた部下たちや、王の側近、重鎮たちがハラハラと見守る中、先王は毅然と立ち上がり、
『良いだろォ、カデュフィーユッ!』
豪胆に右手を振りかざし、
「未来ある子を兵器とみなし育てる「愚かな国」など、我の眼前で攻め落としてみせよォオ!」
「!」
カデュフィーユは気合いの入った笑みを見せ、
『必ずや!』
当然の事ながら挙兵に参加した騎士、兵士たちの士気は高く、子供たちに対する蛮行を働いた北方の隣国を、キーメとスプライツがもたらした情報の後押しもあり、瞬く間に陥落させた。
名ばかりの共和国は解体となり、従属国扱いされていた国々の賛辞が響く中、中央で強権を振るっていた国はアルブル国の支配下に置かれ、王族や機関の関係者は全て公開裁判にかけられた上で極刑が下された。
その様な中で、悔やまれる事も。
アルブル国が攻め入った折り、数え切れない程の蛮行の事実が露呈して「周辺諸国からの責め」を恐れた王族や機関が、保身とあがきとしか言えない、取り返しのつかない証拠隠滅を図ったのである。
つまり最たる目的に、一歩遅かったのである。
冷たい雨が降りしきる中、ガレキの廃墟と化した建物を前にカデュフィーユが差す傘の下で、
「「…………」」
ただただ立ち尽くす喪服姿のキーメとスプライツ。
その建物こそ、数え切れない程の幼い子供たちに傍若無人の限りを尽くした「特殊機関の建物」であった。
何を思っているのか、表情が見えないほど俯いた横顔からでは、その心中を察する事は出来ないが、二人が濡れないように傘を差すカデュフィーユは二人をそっと抱き寄せ、
「オマエ達は生きなければならない。ここに居た同胞の、彼ら、彼女たちの分まで」
「「…………」」
「それが「遺された者」が出来る「逝った者達」に対する唯一の供養であり、責務と知れ」
「「…………」」
友達とも、知り合いとも、呼べる者は一人も居なかった。
それは施設に居た子供たち全員に共通であり、悲しいかなこの国にとって彼ら、彼女たちは、単なる剣であり、単なる盾であり、単なる実験体でしかなかったのである。
しかしこの場所には二人と同じ境遇を持つ多くの子供たちが、確かに生きていた。
それは事実であり、生き証人でもある二人の頬を涙がつたい下りる。
雨は強さを増して傘を激しく打ち、幼子二人の泣き叫ぶ声をかき消し、周囲の音を遮断した。
まるで傘の中の三人だけが、別世界であるかのように。
やがて二人の心は現在に戻り、ずぶ濡れでうつむき、
「雨、キライ……なんぉ……」
「いつもカナシイと、イッショ……なんのぉ……」
雨は「真なる父親」を失い、悲しみに暮れる二人に容赦なく打ち付ける。
その様な二人に背後から近づきつつあった人影たちは、
「「「「「「「…………」」」」」」」
静かに、懐から剣を抜き出した。
雨音に足音を紛れさせながら、忍び足で、二つの小さな背に伸ばした剣の切っ先が届く攻撃範囲に足を踏み入れた刹那、先陣を切っていた一人が、
『ッ!』
首元から血煙をほとばしらせ、膝から崩れるように絶命した。
仲間を瞬殺された事で動揺し、怯む人影たち。
その数、ざっと四、五十人ほどの騎士、兵士たち。
しかし短刀を手にした二人は動じた様子も見せず、取り囲む一団を獣の様な眼光で見据え、内に秘めた怒りと相反する静かな口調で、
「「オマエたちが、おとうさまをやったなぉ」」
抑えられた声は、むしろ刃の様な殺意を纏って聞こえ、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
兵士たちは幼子二人を前に息を呑んだが、各々武器を手に二人を取り囲む背後から、
『この数を目の当たりに平然とは、流石は「猫被り」のバケモノ』
姿を現したのは、クリクリとした天然パーマが印象的な一人の青年騎士であった。
しかし顔見知りであったのか、短刀を構えた幼子二人は彼の姿を見るなり激しい怒りを覚えつつ、表面上は無感情に、
「「コニフェール」」
静かに呼び捨てた。
感情を悟らせない事。それは戦場における定石であり、暗殺機関所属時代に培われた技術であった。
すると青年騎士はヤレヤレ笑いを浮かべながら、
「アルブル国三大騎士団の一翼を担う団の、しかも長たるオレを呼び捨てかぁ?」
眼は笑っておらず、強者特有の重苦しい圧を放っていたが、二人は臆すること無く、鋭い視線を彼から外すことも無く、
「「おとうさまを、うらぎったなぉ」」
実行犯が彼であると悟り責める様な眼光を放ったが、彼はヘラっと笑い、
「裏切っていたのは大将(カデュフィーユ)の方だろぅ?」
呆れた笑い顔で二人を見下ろし、
「オマエ達のような「敵国の獣」を野放しにしたり、その予備軍を守る為に挙兵したりとよぉ?」
「「…………」」
「オレは愛国者だぜぇ?」
ヤレヤレ笑いに二人は、
「「アルブリソにカイジュウ(懐柔)されたダケなぉ」」
「…………」
饒舌な軽口が、急に黙るアルブル国三大騎士団団長が一人、コニフェール。
痛い核心を突かれたから。
彼とて、権力欲に取り憑かれた宰相アルブリソの口車に乗るなど、内心ではじくじたる思いを抱えていた。
しかし名君と慕っていた先王が崩御し、残されたのは年端も行かぬ王子が一人。先行きが見通せないアルブル国において、配下の者たちの生活を守る為にも、権力を掌握したアルブリソに従うのが最良と考え、しかも「総大将の席」まで用意すると言われれば、彼の選択肢は良くも悪くも一つしかなかったのである。
騎士として矜持に蓋をして、見て見ぬふりをした選択を幼い二人に炙り出された彼は表情から余裕の笑みが消え、闇に染まった仄暗い眼で二人を見据え、
「大将の死の真相を知る、生き証人のオマエ達さえ屠れば、オレ達には将来が約束されているのさ」
静かに剣を抜き構え、
「かりそめの父親(カデュフィーユ)の隣に埋葬してやる」
配下の者たちに、
『やれぇ! 見た目の幼さに騙されるなァ!』
幼子二人を相手に、一斉に斬り掛かる騎士兵士たち。
その背後でコニフェールは不敵に笑い、
「この辺一帯は封鎖していて誰も来ない! 存分に戦うがイイさぁ!」
部下たちの為と言えば聞こえは良いが、現実には「アルブル国三大騎士」とまで謳われた彼が、カデュフィーユ総大将の後釜を餌に騎士としての矜持を捨て、権力者に首を垂れ、地に堕ちた物。
悪貨は良貨を駆逐とはよく言ったもので、朱に交われば、もはや国を私物化せんと画策する宰相アルブリソと「同じ穴のムジナ」であった。
しかし彼にも誤算が。
雨中の戦いを見ながら、
「…………」
次第に苛立ちを覚え始めるコニフェール。
幼い二人は次々襲い来る大人たちを右に左に上に下にかわしながら、一心同体のコンビネーションで息を乱す事も無く反撃し、一刀の下に次々斬り伏せて行ったのである。
天下無双、明王の傍らに居並ぶ童子たちの如き烈火を思わせる、見事な戦いぶりに、
「なっ……何なんだ、この双子は……?!」
高い戦闘力を誇るとは風の噂には聞いていた。
しかし父カデュフィーユが二人に戦闘行為を禁じていたが為に、実力を目にした者は少なく「親バカの贔屓目」と思い込み、二人の実力を見誤っていたのである。
幼い二人が放つ「ただならぬ気迫」に、地に堕ちた三大騎士は動揺を隠し切れず、
「なっ、何をしている! 相手は幼児二人だぞ!」
恥も外聞も無く、
「数で圧倒し休みを与えるなァ! 畳み掛けろぉおぉ!」
それでも自身が剣を抜く事はなかった。
カデュフィーユ総大将と比肩する実力を持っていた彼は、本能的に分かっていたのである。
矜持を持った兵士(キーメとスプライツ)と、捨ててしまった兵士(コニフェール)が直接戦った時、その先に待っている結末を。
自分が捨ててしまった「誰かの為に戦う」と言う騎士としての姿勢を、幼子二人の戦いに見せつけられ、
「クッ!」
コニフェールは苛立ったように歯ぎしり。
流石に疲労の色が見え始めた二人の姿に、
『オレの中の迷いごとォキサマ等の命を絶つゥ!!!』
配下の者たちに交じり、一兵卒の如く剣を振りかざして戦いに身を投じ、
「消え失せろォ亡霊がぁあぁっぁあ!」
狂気の表情で剣を振るった。
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