ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第五章

5-21

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 しばし後――

 スパイダマグの先導で、回廊を歩くラディッシュ達。
 その中には、些か不服そうな顔して歩くドロプウォートの姿も。
 純白の一枚布でその身を包む「艶やかな女子たち」の中にあって一人だけ、その上から上着を着せられ、着膨れしているのを不満に思い、

「何故に、私だけが、上着を着せられていますのよぉ」

 愚痴をこぼすと、

「アンタはさぁ元老院の爺様たちを殺す気なのかぁい?!」

 ニプルウォートの皮肉を込めた苦笑に、
「私はその様な事を致しませんですわ! 確かに、怒るに足る「不遇の扱い」は数々受けておりましたが!」
「「「「「「「…………」」」」」」」
 論点のズレに、

(((((((ムジカクってコワイ……)))))))

 困惑笑いを浮かべる仲間達と、スパイダマグ。
 彼女のワガママボディは「御老体には刺激が強過ぎる」と、言っているダケなのだが。

 そんな不毛な会話をしている間に目的地に辿り着いたのか、スパイダマグはとある扉の前で足を止め、
「此方で、皆様が御待ちです」
 元老院の公議が行われる場と聞かされていたが、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 特段、他の部屋と代わり映えの無い扉に、何か特別を期待していた訳では無いが、

(((((((ふつう……)))))))

 残念感を否めずにいると、扉が開けられ、

『『『『『『『!?』』』』』』』

 ラディッシュ達は驚いた。
 議場に集まっていた、元老院の御歴歴と思われる者達からの、割れんばかりの歓声と拍手に迎えられ。
 蔑みを多分に含んだ「皮肉を込めた謝意」を送られて「終了」と思っていただけに。

 七人はスパイダマグの導きで、降り注ぐ歓声のシャワーの中を奥に進むと、そこには元老院を代表する三人の姿が。
 
 スパイダマグは三人の前に跪き恭しく頭を下げると、ラディッシュ達に向き直り、
「此方に御座(おわ)す御三方が、元老院の「御まとめ役」であらせられる、コマクサ様、チョウカイ様、そしてハイマツ様です」
 紹介を受けると、真っ先にターナップが自然な流れで跪いて頭を下げた。

「「「「「「!」」」」」」

 驚くラディッシュ達。
 彼が、ラミウム以外の天世人を嫌っているのを知っていたから。

 すると視線を伏したターナップは、元老院の御歴歴から見えない角度でラディッシュ達に、

≪ここは一つ、大人の対応を見せつけましょうや♪≫

 アイコンタクト。

((((((…………))))))

 彼の思惑がどうであれ、その振る舞いは「この世界」における社会通念的には正しく、ラディッシュ達も彼の行いに追従すると、あれほど陰で七人を嫌悪していたコマクサが満面の笑顔で、

「御立ち下さい、勇者様。天世を救って頂いた貴方様方に、その様にかしこまれては感謝も伝えられませぬ」

 立ち上がる様に促し、促されたラディッシュは表面上の平静を装っていたが、その内心では、
(えっ、えと……どうしようぉ?!)
 激しく動揺。
 仲間たちにそれとなくアイコンタクトで尋ねると、

≪向こうがそう言うなら従えば?≫
(やっぱり、そうなるよねぇ)

 腹を決めたラディッシュは仲間たちの代表として、
「で、では……」
 立ち上がるなり、元老院の重鎮三人から、

「「「ありがとうございました、勇者様方」」」

 他意を感じさせない謝意を送られた。
 想定外の好反応に、

「い、いえぇいえぇ僕のチカラだけじゃなく! 仲間たちの助けや、加勢に来てくれたスパイダマグさん達のお陰なのでぇ!」
「なぁんとぉ! 自身の活躍をひけらかしもせず、仲間たちの活躍を引き立てるとは!」
「何たる人徳ですのぉ!」
「流石は、天世をお守り下さった勇者様だぁ!」

 感嘆は重鎮三人に留まらず、他の御歴歴からも続々と上がり、過剰とも思える称賛の嵐に、
「あは、あは、あははははは……」
 笑ってお茶を濁し、その場をやり過ごすしかないラディッシュであった。

 しかし、他人の顔色を窺うのが「性(さが)」のように常態化しているのが、弱腰勇者ラディッシュ。
 如何に表面上は「友好」を取り繕っていても、隠した本意を見抜いていた。
 元老院の御歴歴の笑顔から透けて見えた物、それは、

≪嫌悪を上回る恐怖≫

(何で僕なんかに怯えてるんだろ?)

 疑問に思ったが、
(!)
 思い当たる節が、ただ一つ。

(不死に近い天世人の、しかも「序列一位のハクサン」を、この僕が完全な死に至らしめたからか……)

 その考えは正しかった。
 本当の意味での「死」を迎える事の無い天世人にとって、魂の消滅と言える「真なる死」をもたらす彼の存在は「未知の恐怖」の対象であり、正に「死神」と呼ぶに等しき存在。

 長きに渡り忘れ去られていた、真なる死への恐怖。

 それこそが、元老院の御歴歴からの「過剰な称賛」に繋がっていたのであった。
 本人達にその自覚が、どこまであるか無いかは別にして。

 満面の笑顔のコマクサは本心を見抜かれているとも知らず、跪いたままのドロプウォート達にも立つように促し、
「感謝の代わりと言う訳では無いのですが、別室に「祝いの席」を用意させておりますので、是非にどうぞ此方へ」
 チョウカイ、ハイマツと共に議場の外へと導いた。

 立ち上がり、静かに頷くドロプウォート達。
 凛然とした表情は崩さず、

(……嫌悪と恐怖が透けて見えて、ですわぁ)

 ラディッシュと同じ印象を抱き、不快感を新たにする中、

『ゴハンなぉ♪ ゴハンなぉ♪』

 無邪気な笑顔ではしゃぐのは、チィックウィード。
 大人達の思惑とは別次元の所で素直に喜ぶ幼子に、仲間たちは毒気を抜かれて少々留飲を下げ、コマクサも気を良くしたのか、孫を愛でる祖父の様な眼差しで「ぬっほっほっ」と笑いながら、

「元老院に仕えし、専属料理人が作る逸品ですぞ♪」
「そぅなぉ♪ なんかわかんないけどぉゴチソウなぉ♪」

 天使の笑顔に、元より穏やかであったチョウカイも、いっそう穏やかに微笑みながら、
「お口に合えば良いのですけどぉ♪」
 ハイマツもデレた様子で、
「まったくですなぁ~♪」
 頷いて見せた。
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