ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第五章

5-49

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その頃コマクサは――

 隠し切れない怒りと共に、天宮内にある私室へ向かっていた。

≪触らぬ神に祟りなし≫

 そそくさと道を開けて頭を下げる、道すがら出会ってしまった「不幸な職員」たち。
 しかし「怒りの主」は視界にさえ入って居ないのか、挨拶を返す事も、八つ当たりをする事も無く通り過ぎ、

(((((ほっ……)))))

 職員たちは胸を撫で下ろし、真っ赤な仏頂面したコマクサは、私室に入るなり怒り任せに「バァン!」と、過剰な音を立てて扉を閉め、
≪我が天法を以て我は行使すッ!≫
 不貞腐れ声で前小節を唱えて、その身を白き輝きに包み、
≪隔絶ッ!≫
 リビング付き高級マンションを思わせる、執務をするには無意味と思える「広々した部屋」を現空間から切り離し、

『どいつもこいつもワシをナメ腐りおってぇ、決して許さぬぞォオォッォオオォォッ!』

 恨み交じりの怒りの咆哮を上げた。
 すると隔絶空間で在りながら、隣の部屋へ続く扉が普通に開き、

『随分と御機嫌斜めの様ですね』

 姿を現したのは両眼をつぶったままの、謎の短髪男。
 しかしコマクサは驚く様子も無く、むしろ積み立てた怒りをぶちまける様に、

『コレはどう言う事だフリンジィ! これでは話がまるで違うではないかァ!』
「何の話です?」
「とぼける気かァ! 裏で何をしているかは知らぬが、ウヌはワシに言ったではないか!」
「何をですか?」

 平静な返しに怒りを増し、

『異世界人どもが居る間に問題が起きれば「奴らが居るから問題が起こる」と印象付でき、体よく天世から追い払えるとぉ!』
「それが何か?」
「それが「何か」ではないわァ! 事が起こる度に悪くなるのは「ワシの立場ばかり」ではないかァ!」

 怒り心頭でまくし立てたが、フリンジと呼ばれた謎の男は両眼をつぶったまま、変わらぬ平静で、

「異な事を申される」
「何だと!」
「現に町の人々の間では「その様に噂されている」と、当方は聞き及んでおりますが?」
「そっ、それは、」
「それに何事にも「想定外」はつきもの。都度、修正を加えれば良いだけの話」
「た、確かにそうかも知れぬがぁ」
「今回の想定外は「チョウカイ」と言う「権力を持った者」が立ちはだかったが為」
「う……」

 返す言葉なく押し黙る彼に、

「よろしいですかな?」

 無益な問答に時間を割いている暇は無いと言わんばかり、話を打ち切ろうとしたが、コマクサは言いくるめられたのが気に入らなかったのか、揚げ足を取るように、

「しっ、しかし「やり過ぎ」ではないのか?!」
「何がですかな?」
「何がではない! あの騒ぎは貴様の差し金であろう! いったい何人の天世人が犠牲になったと、」
「死にはしないのでしょう?」
『な!?』
「天世人は」
「!」
「魂が休息を終えれば再び目覚める。むしろ「若返れて」良かったじゃないですか? 何か問題でも?」
「…………」

 それが事実であっても、襲われた人達が汚染の苦しみ経験し、人狼と化した人達が「死ぬ恐怖」を体験したのは事実であり、それが分かっていながら平然と「問題が無い」と言ってのけるフリンジに、
(ワシは……ワシはとんでもない者と、手を組んでしまったのかも知れぬ……)
 今更ながら後悔を覚えた。

 しかしフリンジは、彼の「その様な不安」を気にする風もなく、両眼をつぶったまま淡々と、

「作戦を次の段階に移行しようかと思います」
「き、昨日の今日で、もう動くと言うのか?!」
「はい。それが何か?」
「よ、よもや裏に「ワシが居る事」が露見したりせぬであろうな?!」

 フリンジは両眼をつぶったままフッと初めて小さく笑い、

「何を肝の小さき事を言っておいでか?」
「ヌシは……ヌシはいったい何を企んでおる?」
「企むなどと失敬な」

 コマクサの訝しんだ眼差しを一笑に付し、

「全ては貴殿との契約に則ってのこと」
「…………」
「まぁ、何が起きるかはスグに分かりましょう」

 背を向けると、

「ど、何処へ行く!」

 焦りを滲ませる問いに、
「準備がありますので、これにて失礼」
 入って来た扉から出て行った。
「…………」
 不安の色を隠せないコマクサ。

 フリンジと出会った日を思い返す。
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