ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-8

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 やがて遠くから――

 誰かの声が。
(ラデ……)
 それは呼び声であり、
(ラディ……)
 次第に大きくハッキリと、

『ラディ!』
『ッ!』

 カッと両眼を見開く、ラディッシュ。
 いつの間に、眠ってしまっていたようである。

 見上げれば、そこには「気の合う仲間」たちの笑顔が。

 声を掛けていたのはドロプウォートであった。
 彼女は心配が交じった笑みを浮かべながら、
「この様な所で寝ていては、例え勇者と言えど風邪を引いてしまいましてですわぁ」
「…………」
 起き上がって周囲を見れば、陽は傾き始めていて、オレンジ色の温かな光りの中で、安堵の笑みを浮かべる仲間たちに、

「…………」

 ラディッシュは振り返って女神像を見上げ、
(ラミィ、見てる? これが僕たちの仲間だよ)
 笑みを浮かべると、

「さぁて」

 やおら立ち上がり、
「みんなに心配かけちゃったみたいだねぇ♪」
 改めて仲間たちの笑顔を見回し、

「晩御飯にしようか?」
「「「「「賛成ぇ!」」」」」

 屋敷に向かって、共に歩き始め、

「それにしても「僕がここに居る」って、みんなよく分かったねぇ?」
「貴方の様なコミュ障が一人で行けそうな所など、限られてですわぁ♪」
「あははは。そぅ言えばチィちゃんは?」
「泣き疲れて眠っちまってたさぁ」
「泣き疲れぇ?」
「初めはぁ買い物を楽しんでいたそうなのでぇす。でもスグに寂しくなって泣き出したそうなのでぇす♪」
「へぇ~なんか親(仮)として嬉しいやら、甘えん坊で困ったやらぁ。それで何か面白い本はあったの?」
「あったにぃ決まってありんしょう、旦様(だんさま)ぁ」
「へぇ? 何?! カディぃ??! その着物と話し方はどうしたの?!!! またキャラ変え?!!!!」
「ラディの兄貴ぃ~んな事より、なんでぇ帰っちまったんスかぁ? あの後の風呂は、最っ高に面白かったんスよぉ~!」
「えっ?! いっ、いやぁだってさぁ~」

 歩調を揃え次第に遠ざかる六つの背中。
 その背中を、女神像は優しく見送った。


 数日が経過し――

 何故か悲し気な表情で佇む、ドロプウォートの両親。
 いつもの明るさを失った二人はおもむろに、

「もぅ行ってしまうのかい?」
「陛下からは「ゆっくりして良い」と言われているのでしょう?」

 視線の先に居たのは、旅支度を整え終わったラディッシュ達。
 するとラディッシュが仲間たちを代表して恭しく、敬意を以て、

「お気持ちだけ頂いておきます、オエナンサ卿」

 会釈をし、

「ですが、いつまでも厚意に甘えている訳にもいきませんし、何より陛下から賜った任(にん)もありますので」

 仲間たちも頷くと、ドロプウォートの父親であるオエナンサ卿は残念そうに、

「そうか……ラディッシュ君たちは、もう立派な騎士なのだね」
「致し方ありませんですわね」

 妻も残念そうなため息を吐いた後、
「「でも、」」
 二人は声を揃え、

「「次からは「お義父さん・お義母さん」と呼んで欲しい(かなぁ・ですわねぇ)~」」

 二重奏の微笑みに、

『なっ! ななんぁな何を言い出してますでぇすのぉお父様ぁ! お母様ぁあぁ!』

 赤面顔で狼狽露わにするドロプウォート。
 ラディッシュも、背中に女子組からの刺さる視線を感じながら苦笑交じりに「あはは」と笑ってお茶を濁し、話の矛先を変えようと、
「それで、そのぉ……」
 傍らの何かに視線を移した。
 そこにはあったのは二頭立ての馬付き、幌(ほろ)付きの荷馬車であり、ラディッシュは恐縮した物言いで、
「本当に頂いて良いんですか?」
 するとオエナンサ卿は憂いの無い笑顔で、

「モチロンだよ、ラディッシュ君」

 頷き、

「君達が今までして来た功績を考えたら、安い位の物だよ」
「そうですわよ」

 妻も笑顔を見せ、
「ありがとうございます!」
 ラディッシュが謝意を伝えると、ドロプウォートも感極まった様子で、

「ありがとうございます、お父様ぁ、お母様ぁ!」
「ラディッシュ君たちを、しっかりと支えるんだよ」
「体には気を付けてね」

 涙なくして語れない、親子の別れの場面であったが、
「それよりも……」
「「?」」
 娘は首を傾げる両親に、

『いい加減に「ワタクシのチィちゃん」を返して頂けませんですのぉ!!!』
「「!?」」

 二人の手にはチィックウィードの両手がそれぞれ握られていて、事情を知らない人が見たら、まるでドロプウォートとチィックウィードの別れの様相。

「あぁ~うっかりしていたよぉ~♪」
「本当ですわねぇ、うっかりしていましたわぁ~♪」

 他意無さげに照れ笑う二人の姿に、
(((((むしろその笑顔が冗談に聞こえない……)))))
 不安を覚える仲間たちと、

『私の感激を返して下さいですわぁあぁ!』

 嘆く娘のドロプウォートであった。
 少々の茶番はあったものの、ドロプウォートの両親はチィックウィードの目線の高さまで屈み、改めて、

「またおいでね、チィちゃん♪」
「ここも「貴方の家」なのですわ、チィちゃん♪」

 笑顔の見送りに幼子は「ニッ」と笑って、

「ありがとなぉ! じぃじ! ばぁば! ダイスキなぉ♪」

 二人に抱き付くと、
『『ほぉうぁ♪』』
 ドロプウォートの両親は至福の笑顔で幼子を固く抱き締め、

「「本当に連れて行ってしまうの(かぁい・ますの)♪」」
『ダメぇですわぁあ!』

 嫉妬混じりに愛娘を祖父母(仮)から引き剥がす、ドロプウォートママ。
 噛みつきそうな勢いで「絶対に渡さない」と言わんばかり、しかと娘を抱き締め、迂闊に手を伸ばせば即座に引っかかれそうな形相。
 からかい半分であった彼女の両親は、実の娘の過剰反応に「ヤレヤレ」といった笑みを浮かべ合うと、やおら立ち上がり、

「気を付けて行って来なさい」
「無理は禁物ですわよ」

 見せたのは、親としての顔。
(お父様……お母様……)
 心打たれる娘であったが、

「「チィちゃんは置いて行っても良いけどぉ♪」」
『もぅ! 感動の旅立ちが台無しですわぁあぁぁ!』

 憤慨するドロプウォートに、仲間たちは両親と笑い合った。
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