ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第七章

7-3

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 食事とオススメの入浴を済ませた後――

 灯りの消えた一室に一人、静かな寝息を立てるのはラディッシュ。
 私室として用意された個室の、一人で寝るには些か大き過ぎるベッドで眠っていたのだが、貧乏性ゆえか、臆病な性格ゆえか、ベッドから今にも落ちんばかりの端でエビのように小さく丸まり眠っていると、

 キシリ……

 背の方から小さな軋み音がし、その音に、
「う、う~ん……」
 敏感に反応するように寝返り打って反対側を向くと、

 ふにゅり

 右手に得も言われぬ柔らかい感触が。
(……?)
 寝ぼけた頭でぼんやり疑問に想うと同時、

『ふひぃ!』

 短くも小さい愛らしい小動物の悲鳴のような物が聞こえ、
(……ん……?)
 次第に意識が目覚め始めたラディッシュは、

『ッ!!!』

 目にした光景に眠気も吹き飛びギョッとした。
 彼の右手に握られていたのは、寝間着姿のドロプウォートの豊か過ぎる胸で、

『ごっ、ゴぉメンなさぁあぁぁいぃ!』

 慌てて手を引っ込め跳ね起き、ベッドの上で土下座。
 薄暗闇でも赤面していると分かる、胸を両腕で覆い隠す彼女を前に。
 しかし、
(ん? 何かおかしくない?!)
 用意された個室で休んでいた自分の方が頭を下げているのに違和感を抱き、

『触ったのは申し訳ないって思うけどって言うかどうしてドロプが居るんだよぉ!』
『それは此方の台詞ですわ!』

 非を指摘される覚えの無い様子のドロプウォートも引き下がらず、
「わっ、私はメイド達から「私室を汚してしまったので」と、この部屋へ促されてぇ!」
 深夜のベッドの上で、終わりの無い言い争いが始まろうとしたが、

((まさか!))

 ハッとする二人。
 夕食時間に起きた「とある事案」を思い出す。
 広々としたダイニングの、何人座れるか分からないほど長いテーブルに、ドロプウォートの両親たちと着くラディッシュ達。
 目の前には「お抱えの料理人」たちが自慢の腕を振るった、目にも鮮やかな料理たちが並び、その見た目も然る事ながら、

「「「「「「「!」」」」」」」

 その味も、ことさら表現するまでも無く美味であり、

「「「「「「「♪♪♪」」」」」」」

 勇者組の食事の手は留まるを知らなかった。
 七人の様子を、満足げな表情で頷き眺めるドロプウォートの両親。
 食事も終盤に差し掛かった時、

『ところでラディッシュ君』

 切り出したのはオエナンサ家現当主であるドロプウォートの父親で、
「?」
 食事の手を止め振り向くと、彼は穏やかな笑みを浮かべながら、

「最近、うちの愛娘とはどうなんだい?」
『ッ!?』

 ついに「来た」と思うラディッシュ。
 慌てたドロプウォートが話に割って入る傍らで、

(何て答えるのが正解なんだ!)

 頭は正答を求めて、かつてないほど高速回転、
(「何も無い」と否定するべきか?! それとも「順調である」と装うべきか??! 同人誌作業でぇ僕はどう描いたぁ???!)
 そして「とある一場面」を思い出した彼は、
(これだ!)
 意を決し、

『ドロプウォートさんは「高嶺の花」でぇ僕になんてぇとてもぉとてもぉ!』

 現実には「親に言えない場面」が多々あったが、指一本触れていないのをアピール。
 オエナンサ卿が娘にちょっかいを出されて「激怒する父親」であるのを選択した結果であり、ニプルウォート、パストリス、カドウィードからの背中に刺さる、

≪嘘つきぃ≫

 冷ややかなジト目を感じつつの答え。
(ちょ……ちょっと心が痛い……)
 良心に痛みを覚えるラディッシュであったが、オエナンサ卿の反応は、

『私達の愛娘の何が気に入らないと言うのかねぇえ!!!』

 目くじら立てて身を乗り出し、
(そっちだったかぁーーーーーーっ!)
 チョイスミスに頭を抱えると、更にそこへ追い討ちを掛けるが如く「母オエナンサ夫人」からも怖いほどの笑顔で、

『うちの愛娘は、どの様な社交界に出しても決して見劣りしない「器量良し」ですわよぉ♪』

 娘を溺愛する両親からの責めに逃げ場は無し。
(ひぃいぃぃいいぃぃいいぃ!)
 ただただ慄いていると、

『いい加減になさって下さぁいですわ! お父様ぁ! お母様ぁ!』

 ドロプウォートが「羞恥と怒り」の入り交じった赤面顔で立ち上がり、

『これは当人同士の問題ですわ! 当人同士の問題に口を挟まないで頂きたいのですわァ!』

 チカラ強く言ってのけ、愛娘から苦言を刺された両親は、
「「…………」」
 あからさまにしょんぼりしつつ、
「そんな事を言ったってねぇ……」
「ですわよね、旦那様……このままですとわたくし達は「孫」を迎えるより先に……」
 二人はため息を揃え、

「「寿命を迎えそう(だよ・ですわ)……」」
(うっ……)

 返す言葉も無いドロプウォート。
 亀の歩みの如く、進展があるのか無いのか分からないほどの「二人の仲」に自覚があり、自覚がある話に、愚痴をこぼされてしまったから。
 しかし他の恋敵たちの手前もあり、
「そ、それこそ、ですわねぇ!」
 体(てい)よく何とかその場はうやむやにやり過ごし、ラディッシュ達は精神的疲労を入浴で洗い流してメイド達に導かれ三々五々、用意されたそれぞれの個室へ移動した筈であった。
 灯りの消えた部屋のベッドの上で、

『『嵌められ(た・ましたわ)ぁ!!!』』

 両親の計略に気付く二人。
「とぉ、とにかくごめんねぇドロプ! 僕はタープの部屋でも借りるから!」
 ラディッシュがベッドから飛び降りようとすると、

『待って下さいですわぁラディ!』

 ドロプウォートが腕を咄嗟に掴み、

『?!』

 制されたラディッシュが驚き振り向くと、彼女は薄暗闇のベッドの上で気恥ずかしそうに、
「そ、その……待って下さい、ですわの……ラディ……」
「…………」
 思わず息を呑むラディッシュ。
 彼女からの誘いに、

(こっ、これって、まさかぁもしかしてぇ!?)

 胸の鼓動は「イケナイ妄想」に高鳴った。
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