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第七章

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 初めて地世の村に足を踏み入れる勇者組――

 そこで目にした物は先と同様、中世の村と「何ら変わらぬ暮らしぶり」であった。
 しかし、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 お世辞にも「豊か」とは言い難い家並み。
 その佇まいから彷彿とさせるのは、エルブ国の端にあり、主だった産業も無く、過疎化が進むに任せる一方であった、ターナップが生まれ育った村の「かつての姿」。
 ラディッシュの助言から研鑽を重ね、今では町と呼べるほどの発展を遂げてはいるが。

 地世において、派手な家並み、奇抜な家並み、異質な家並みなどを想像していた訳では無かったが、目の当たりにした現実に勇者組は、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 ただ立ち尽くす。

 この世界はターナップにとって「両親、知人の仇の世界」であり、ドロプウォートにとっては「母国の兵や民の命」を数え切れないほど奪った世界であり、妖人のパストリスにとっても数々の辛酸を経験した「元凶の世界」であり、他の仲間たちも事情は似たり寄ったり。
 異世界人のラディッシュにとっても大切な存在であった、ラミウムの命を奪った世界。

 複雑な心境から心の何処かで、敵として再認識できる「憎める要素」を探していた自身に気付いてしまった。
 それを見つけられたならば「心の整理が容易かったかも知れない」とも。

 しかし目にした村の人々は、中世人と何ら変わらぬ容姿を持ち、貧しさを窺わせるヨレた服や暮らしぶりをしながらも、みな笑顔を絶やさず、額に汗して懸命に働いていて、
(((((((…………)))))))
 それは天世人が説(と)く「怠惰な世界」からは、著しくかけ離れた光景であった。
 自身の差別意識と、浮薄(ふはく)な思慮に、

(((((((これがチゼ……)))))))

 動揺を隠せずには居られなかった。
 すると、

『いつまで突っ立てるのよぉ?!』

 サロワートの呆れ声に、
(((((((!)))))))
 意識を現実世界に連れ戻され、

「ほらぁ行くわよぉ! いつまでも村の入り口に立ってたら邪魔になるでしょ!」

 村の奥へと導かれ、内心で茫然自失の勇者組は促されるまま、言われるままに、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 ただただ後に続いた。

 村を奥に進んだからと言って、目の当たりにする光景に変化が起きる訳も無し。
 目にした地世の人々は、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 その日を、懸命に生き抜いていた。
 明るさを、失わず。
 中世の人々と何ら変わらぬ「逞しさ」を以て。

 そんな中、天世人の教えを守り生きて来た中世人であり、勇者組で、良く言えば「最も警戒心の強いニプルウォート」が受け入れ難い現実を前に、

(まさかこの村は、ウチ等を篭絡する為に用意したぁ?!)

 疑心暗鬼に囚われ、怪訝な表情を浮かべていると、

『あぁーっ♪ ミズタマのねぇちゃんだぁ♪』

 子供の明るい声が。
「!?」
 想念の森からハッと我に返るニプルウォート。
 声に振り返ると、村の幼子たちが屈託ない満面の笑顔でサロワートを指差し、

「「「「ミズタマぁ♪ ミズタマぁ♪」」」」

 からかい笑っていて、言われた彼女は羞恥と怒りで顔を真っ赤に、
『ふぉお!!!』
 反射的素早さでミニスカを押さえ、その姿から彼女が「この村でもしでかした」のを悟るドロプウォート。
 多分に呆れを交え、

「貴方ぁ、この村でも「御披露」なさっておりましてですわのぉ?」

『すっ、好きで披露した訳じゃないわよぉおぉ!』

 逆ギレ気味にツッコムと、

「大人をからかうんじゃナイわよぉ子供たちぃい!」

 囃し立てる子供たちを追い掛け始め、笑顔ですばしっこく逃げ回る子供たちも、

「やぁーい、ミズタマねぇちゃぁん♪」
「つかまえられるモンならぁつかまえてみろぉ♪」

『なぁんでぇすってぇえーーー!』

 大人げなく、血相を変えるサロワート。
「「お仕置き」よぉー!」
 駆ける姿に、

「「「「「「どっちがコドモぉ……」」」」」」

 ラディッシュ達が苦笑を浮かべる中、
(ウチの勘繰り過ぎ……悪い癖さぁ……)
 ニプルウォートは、サロワートや村に疑いを持った自身に苦笑いした。

 やがて「とばっちり」が勇者組にも。
 生温かく静観していたラディッシュ達にサロワートは、

『アンタ達もボサッと見てないでぇ悪ガキ共を捕まえるのを手伝いなさいよぉ!』
(((((((…………)))))))

 強要に「なんで自分たちが」と思う七人であったが、追われる子供たちの笑顔を眺めるうち、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 触発され、

「「「「「「「こらぁ、まぁてぇ~~~♪」」」」」」」

 いつの間にか「鬼ごっこ」の鬼と化していた。
 地世の村の子供たちと、本気で遊ぶ「中世の勇者」たち。
 しばしの交流を楽しんだ後に、

「「「「「「バイバぁ~~~イ♪」」」」」」

 笑顔で手を振る子供たちが去って行くと、
「さぁ次の村へ行くわよ♪」
 サロワートが余韻も無しに歩き出し、

『『『『『『『もぅぉ?!』』』』』』』

 ギョッとするラディッシュ達。
 一泊しないならまだしも、食事や、ちょっとした休憩すら取っていなかったのだから。
 すると彼女は淡々と、

「長居する訳にはいかないのよ」
「「「「「「「?」」」」」」」
「アノ変態に見つかったら、この村の人達が何をされるか分からないのよ」
「「「「「「「!」」」」」」」
「アタシ達の都合で、迷惑を掛ける訳にはいかないわ」
「「「「「「「…………」」」」」」」

 アノ変態とは「フリンジ」に他ならず、彼が目的遂行の為ならば、守るべき存在である筈の「地世の民」にすら手を下す、卑劣漢(ひれつかん)であるのを改めて知り、

「分かったよ、サロワ」

 頷くラディッシュ。
「僕も、僕達のせいで、この村の人達に「不幸が起きる」のは本意じゃないから」
 ドロプウォート達も頷くと、

「理解が早くて助かるわぁ~」

 フリンジに対する辟易した笑みを見せながら、
「次は、下調べで立ち寄っていない村なの。食事を取る位の余裕はある筈だわ」
 サロワートとラディッシュ達は足早に「初めての村」を後にした。

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